これが戦争、これも戦争3
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初戦の日時を決めようとする俺の発言にハインリヒや帝国貴族の連中は何言ってんだって表情を浮かべるが、常識のない帝国貴族が相手と言えどこればっかりはきちんとしないといけない。
というか、どいつもこいつも理解不能って顔してるけど、こっちが理解不能だよ。
前世では戦争の経験なんてなかったので比較は出来ないが、少なくともこの世界においては宣戦布告を相手に伝えたとしても、その瞬間に戦争が始まるってわけではないからだ。
まぁ、常識を知らない帝国貴族連中は分かってないみたいだがな。
実際に帝国は、前の戦争では宣戦布告した1時間後には国境を越えてくる恥知らず共だ。
もしかしたら国際常識ってやつを知らないのかもしれない。
そうだとすれば、もともと俺が予想していた豚を駆除したことを抗議する使節団が来て諸々の末に宣戦布告されるって可能性は最初から低かったかもしれない。
物語なんかでは、宣戦布告を伝える使者が宣戦布告するのと同時や直後に、国境の砦が落とされた――とか、国境を越えた――とか、国境に一番近い貴族の領地が落とされた――なんて伝令が駆け込んでくることもあるが、これは本来ならあってはいけないし、ありえない。
魔道通信技術が発達したこの世界は別だが、そもそも無線のような通信技術がない世界を描いた物語であれば、遠方の情報を即座に伝達手段がないのだから、国境から城まで早馬を走らせるなどの時間が必要になるので、国境が越えられたことを報告する伝令が出立するのは城で宣戦布告される前だろう。
つまり、宣戦布告の前に戦争が始まっているのだ。
おまけにタイミングよく宣戦布告を伝えた直後に伝令が駆け込んでくるなんてことは普通に考えてありえないだろう。
どんだけタイミングあわせてんだって話だ。
伝令は出番待ちでもしてるのか? 不意打ちされて切羽詰まってるのにずいぶん余裕だな。
とは言っても、宣戦布告を伝える使者とあらかじめ何日の何時に宣戦布告を伝えるのかを示し合わせておいて、宣戦布告がなされているであろう時間に先制攻撃を仕掛けるのは1つの作戦であるのは間違いない。
これはあまり褒められた方法ではないし、一度この方法を使えばあの国はそういう手段をとる可能性がある国だと周辺諸国に知られてしまうので常に警戒されることとなる。
卑怯者の誹りは受けるし、一度しか使えない方法だ。
しかし、その一度を使うタイミングさえ間違えなければ非常に強力な手段なのは間違いない。
事実、帝国が宣戦布告から1時間で国境を越えた時だって、王国は大混乱に陥り国力は同等だったのにズタボロにやられたからな。
まぁ、それを俺がひっくり返したおかげで、帝国は卑怯な真似までしたのに負けた阿呆という不名誉な評価を受けることになってしまったが、それは自業自得だろう。
閑話休題。
では、宣戦布告がなされたらどうするのかという話だったな。
この世界では、何日後のどこで最初の会戦をするのか話し合い、それまでの期間は軍の終結や周辺住民の避難などといった準備期間とされる。
その後に関しては、最初の会戦の結果次第で対応は変わってしまうし、戦争のルールにさえ従っていれば基本的に自由だ。
まぁ、戦争なんでルールに従っていなくてもそれを取り締まるような存在はいないし、指揮官のモラル次第と言える。
帝国には期待できないものだ。
前の戦争では略奪や強姦も頻発してたし……なんか思い出したらムカついてきたな。
「なぜそんなものを決める必要がある?」
「戦争に際してそれが一般的なルールだからです」
「ふん、ドコカノン王国のいうルールなどに帝国が従う理由などない」
勘違いも甚だしい。
本当に常識がないってのはやっかいだ。
というか、皇帝にこんな教育しか出来ない国がよくもここまで残っていたものだ。
「ドコカノン王国に限らず、この大陸ではどこの国でもごく普通に従うルールです。従っていただけないのなら、国交のある全ての国にこのことを知らせなくてはならなくなりますよ?」
「だからどうしたと言うのだ?」
え? マジで分かってないの?
馬鹿もここまで極まってると清々しいような気が……しないな。うん。
馬鹿は馬鹿だ。
憐れむこともできない。
「そうなれば、大陸中全ての国がルファート帝国の敵になります。周辺国はドコカノン王国に増援を送り、遠い国からは支援金や物資が届けられることになる。単純に考えて5倍くらい手強くなりますね」
この大陸で大国と言えるのは5つあり、ドコカノン王国とルファート帝国もそれに含まれる。それ以外は大小様々だが、少なくともドコカノン王国に兵を送れる範囲の国から増援が来れば単純計算して兵力は3倍以上に跳ね上がる。
支援金や物資もあれば傭兵や冒険者なんかも大量に雇えるので、それらも含めれば兵力はだいたい5倍だ。
「なにぃ!? なぜそのようなことになる!」
「帝国は国際的なルールも守れない国と言うには危険すぎる存在になるからですよ。出る杭は叩かれるってやつですね」
「むぐぐ……」
どうやら自分たちの間違った認識を押し通おしたら、勝てる戦争が負けてしまうことにようやく理解できたようだ。
いや、勝てると思ってるのは帝国だけで、実際にやれば魔族を仲間にした程度では王国には勝てないけどね?
「そんなことをする必要もないのか? ルールを守れない相手にルールを守る必要もないもんな……今この場で暴れられるだけ暴れれば戦争なんてやってる余裕なくなりますよね?」
というか、余裕で皆殺しに出来る。
しかし、帝国はどうやら俺を過小評価してるらしいので控えめに言っておこう。
それにルールさえ守っていれば、俺もルールは守る。
俺はあくまで話し合いをするために国を代表してきているので、暴れたりすればドコカノン王国の品格に関わるのだ。
それに加えて、帝国がルールを守っていたという前提があると、宣戦布告されても戦争は始まっていないのだから俺がこの場で暴れるのは完全にルール違反だ。
「いいだろう。そのルールとやらに従ってやろうではないか」
「偉そうに言ってるけど、それが当然ですからね? 念のために詳細を詰めておきましょう」
話をしているうちに、案の定というか帝国はこの世界における戦時国際法をまったく理解していなかった。
そのおかげで、なんで俺がそうしなくてはいけないのかまったくもってわからないが、帝国相手に戦争の常識まで説明することになってしまったのは完全に誤算だ。
これって残業代出るのか?




