王都には行きたくない9
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無事に牢屋から出されてサロンへ案内された俺とリサは、さっそく姉貴からの尋問を受けることとなってしまった。
え? パシリくん?
パシリくんはとても大事な仕事があるとかでどこかへ行ってしまったよ。
「それで? 言い訳を聞きましょうか」
お姉様? 感動の再会ですよ? そんな野暮な話はやめましょうよ」
「やめません。本当にあなたって人は……陛下も弟もあなたがいなくて本当に困っているんですよ?」
それは重々承知しております。
俺というネームバリューは外交上非常に強力なカードだ。
しかし、俺はそれを嫌って表舞台から姿を消したので、責められても仕方ない。
あ、可愛い弟は外交とか関係ないな。
「それに……こうやって結婚の報告に来たというのに大事な人まで牢に入れさせるなんて」
「あ、違います。こいつはそんなんじゃありません」
「あら、そうなの?」
何をどうして牢屋での問答の間ずっと空気だったリサが結婚相手になると言うのか。
人生の墓場には入りたくないでござる。
「か、カイト……殿。このお方は……」
「ん? 俺の姉貴」
「こらっ! そんな言葉使いするような子に育てた覚えはありませんよ」
生憎と俺もあなたに育てられた覚えはありません。
「自己紹介をしてませんでしたね。ユフラリア・コルネリアス・ドコカノンです。この子の姉で、陛下の正室の立場にあります」
「は? っは! わたくしはカッツェ領はリッタナ村の騎士シュルムの娘で従士のリサと申します! 王妃様にお目通り願いまして光栄の至りです」
「あらあら……困ったわ? そんなに緊張なさらないで?」
それは無理でしょ。
だってこいつ、姉貴が城勤めの侍女だと思ってたんだからな。
まさか王妃様だったなんて夢にも思わなかっただろう。
「ちょ、ちょっとカイト殿……」
「ん?」
手招きされてリサの方に顔を寄せるとぐいっと乱暴に引き寄せられる。
「あなたの姉君が王妃様など聞いてないぞ」
「そら言ってないからな。そもそも、言っても信じなかっただろ?」
「当たり前だ! 国王陛下の正室と言うことは貴族……それも高位貴族の娘や他国の王族しか選ばれないんだぞ? そんな話信じられるわけがない」
よくわかってるじゃないか。
つまり、今なら俺の立場ってやつもわかるんじゃないのか?
「ま……待て……」
どうやら、まさしくたった今リサもそれに考えが至ったらしい。
「カイト殿は冒険者だろう?」
「ああ、そうだな」
「だが、姉君は王妃様だ」
「おう」
「カイト……様?」
「別に様付けとかしなくていいからな。そもそも俺は廃嫡された時にいろいろあったから、元貴族って感じだ」
そう。この俺ことカイト様は元お貴族様なのだ。
控え居ろう。
「あら、ソラインはあなたの貴族籍を戻してるはずよ? それに陛下も戦爵に叙するって仰っていたし」
「え、マジで?」
話が聞こえていたらしい姉貴から注釈が入る。
マジか……
せっかくカタッ苦しい身分から解放されたのに……
「せ、戦爵閣下!?」
「はいはい、驚かない驚かない」
戦爵とはこの国独自の爵位で、身分的には侯爵と同位だ。
『戦』爵という文字通り、戦で国を救うような多大な貢献をした人間が叙されるもので、再び戦争が起きた時などは国王の代わりに王国全軍の総指揮官なんかを任されることがほぼ確約されている。
戦争などと言う手段を国家がとることなどそうそうありはしないので、ある意味では戦争で活躍した褒美で与えられる名誉爵位のようではあるが、戦時中に限れば王国全ての軍事力をその手中に収められるという破格の待遇であるため、王国500年の歴史で1人しか叙されたことのない伝説級の爵位である。
それはそうだろう。
戦時中に限るなどの制限があるとは言え、王国全軍の総指揮官になるということはある意味で戦爵は王と同位の存在だということだ。
下手をすれば謀反を起こされる危険性さえあるのだから、戦爵に任じると言うことは王自らが剣を預けるに足る無二の人物だと認めたことに他ならない。
歴史上たった1人しかいなかったとは言え、過去にいた唯一無二の戦爵は『無二の忠臣』やら『愛国の徒』といった演劇や物語、歌などになっているのでドコカノン王国において戦爵という爵位の認知度は非常に高い。
一種の成り上がりの極地だ。
たしか、戦爵という爵位は世襲できなくて子どもは伯爵になったはずだ。
戦争で伝説的英雄になった家だが、その血は戦争が原因で断絶しているという皮肉のおまけ付きである。
「まったくありがたくないな。むしろありがた迷惑だ。貴族になんかなりたくない」
「そもそもあなた、戦時中に雄爵に叙されたでしょ?」
「そうだった!?」
雄爵もこの国独自の爵位で、戦爵に叙するほどではないが戦争で目立った活躍をした人間に与えられる爵位だ。
ドコカノン王国史上で英雄と呼ばれる人間の多くは雄爵に叙されている。この国では名誉爵位と言えば本来はこれだ。
ちなみに子爵並の待遇で戦爵に比べれば2つほど落ちる。
「雄爵のマントを羽織っていれば門で止められることもなかったでしょうに……」
この国では、貴族は登城する際マントを羽織る。
貴族に叙される時に渡されるそれは、爵位によって色や柄が変わるんだが……
「あんな派手なマントつけたくない。というか、シチューこぼしたの洗おうとしたら破けて、繕おうとしたら修繕不可になるまでボロボロになった気がする」
「なにやってるのよあなた……」
「ゆ、雄爵のマントをボロボロに……」
あ、リサが理解できない情報が多すぎてバグってきた。
頑張れ。
考えたら負けだぞ。
「ま、戦爵に叙爵されるのはごめんだから、義兄さんには会わないようにするよ」
「あら? これからあなたは陛下への報告があるんでしょう?」
忘れてた……
「いや、でもまさか今日いきなり叙爵って事はないでしょ? 王国の歴史で2人目なんていう一大イベントなんだから何の準備もなしになんて出来ないじゃん」
「うふふ」
何を笑っていらっしゃるのでせう?
お姉様? 笑顔がとても怖くていらっしゃいますよ?
「さて、無駄話はここまでにしてお説教を始めましょうか?」
マイガッ!
どうやら必死のごまかしはきかなかったようだ。




