王都には行きたくない6
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非常に不本意ながら俺はリサを伴って王都へとやって来た。
といっても、まだ正確には王都に到着したとは言えない。
「ここが王都か……カッツェの街とはずいぶん作りが違うのだな」
「いや、ここまだ王都じゃないからな?」
「なに!? 違うのか!?」
ちょうど俺が考えていたタイミングでタイムリーすぎる勘違いをしたリサにツッコミを入れるとリサは愕然とした表情で聞き返してきた。
「王都ってのは、あっちに見える壁の向こうのことだ。ここは外街だな」
「外街?」
外街ってのは文字通り、王都の外にある街だ。
王都ほど巨大な都市だとどんどん人が集まってくる。
人が集まれば建物を建てる必要があるのだが、いくら王都が広いとは言え土地には限りがある。
最初に作られた王都は防衛目的での壁に囲まれていたが、どんどん人が集まった結果、案の定土地が足りなくなって壁の外に街が自然と作られたのだ。
ほとんど王都と言って過言ないが、正式に王都と言えるのは壁の向こうであって、外街は王都のすぐ近くにある名前のない街ということになる。
「ま、正式には王都じゃないが、ほとんど王都と言っていいって点では間違いじゃないがな」
「ほ~」
国境に近い村の従士であるリサは、これだけの都会に来るのが初めてなのかキョロキョロと周囲を興味深げに見回している。
人通りが非常に多いので、リサのようなキョロキョロしている見るからに田舎者と言った雰囲気の人間はスリの格好の獲物なんだが、わかってるのかね?
「お前、財布すられないように気をつけろよ?」
「む? 大丈夫だ。父上から言われて、財布は紐で服と結んである」
そう言って服に縫い付けた紐とその紐で結んだ財布を誇らしげに見せてくる。
一応、田舎者としての自覚はあって対策はしてるのね。
よく異世界モノと呼ばれる物語などで、転移や転生した人間はその国の首都を見ても日本のラッシュアワーなどと比べて大したことがないなどと考えている描写を見たことがあるが、少なくともこの国の王都は日本のラッシュアワーと比べても遜色ないレベルで人が多い。
言うなれば、花火大会や縁日に近い。
出店のような露店が多く、飲食物や雑貨などを求める人で道がごった返している。
馬車用の門につながる道はそうでもないが、こちらの個人用の門へ向かう道はそんな感じの光景が広がっている。
ちなみに、この世界でこの王都のような都市に入るには3種類の門がある。
1つはこれから俺たちがくぐる個人用と呼ばれる門だ。
魔物や馬で王都の前まで来ても乗ってきた馬なんかを外街の厩舎に預けて徒歩でくぐらなくてはならない。
王都に来る大多数の人間はこの門をくぐることになる。
俺たちもこれに該当し、馴染みの店にシシカとドラゴンベイビー(名前はまだない)は預けてある。
次が馬車用と呼ばれる門で、これは文字通り馬車が通る門だ。
ただし、馬車用の門は許可を得ている商人か周辺の村の人間が農作物を運び入れる以外での利用が禁じられている。
これは、王都内に店舗を構えている商人でも簡単に許可を得ることはできないので、けっこう珍しい部類に入る。
そして、最後が貴族用だ。
もう字面だけでどんな門かは想像がつくだろう。
今回は外街に用はないので露店を冷やかしながらさっさと個人用の門へと向かう。
無謀にも俺から財布をすろうと懐に手を突っ込んできた馬鹿がいたが、俺の財布はポシェットの中なのでまったくの無意味だ。
指の骨が一本折れるという手痛い教訓のおまけ付きでスリはしっぽを巻いて逃げていった。
そんなちょっとしたトラブルを乗り越えて個人用の門を通るための列に並んでいるわけだが、相も変わらず個人用の列は長い。
「次!」
ようやっと俺たちの番が来たので簡単なやり取りを済ませて門をくぐる。
身分証代わりの冒険者証を見せて、王都に来た理由を依頼の一言で簡単に済ませるだけなのでトラブルもクソもない。
まぁ、俺の冒険者証に記された1級という文字に驚き、次いでそれがCクラスのものだと気づいて蔑んだ目を向けてくるまでがワンセットだ。
まったくもって失礼な門衛である。
とりあえず、問題なく王都へ入れたので文句は言うまい。
「これが王都か!」
今度こそ王都に入ったことで、改めてリサが喜色を浮かべる。
「…………外街と変わらないではないか!?」
王都に入ってすぐの場所は、外街の延長と言っていいので壁1枚挟んだ程度で何かが変わるわけではない。
「まぁ、賑わってるんだからさすがは王都って感じだろ? 外街も正式には王都じゃないけど王都と似たようなもんだから、違いなんてあるわけないって」
「あ、待て」
苦笑を浮かべながら俺はそう言い、さっさと城へ向かって歩き出す。
リサは何か違いはないのかと辺りを見回していたが、さっさと歩き出した俺に気づくと慌てて駆け出した。
「王への報告とはどうすればいいのだ? 伯爵様はカイト殿が知っていると仰っていたが……」
「ん? まぁ、普通なら王都にあるリオンの屋敷にいる人間に頼むか、そうじゃなかったら自分で王城の入り口にいる担当者にリオンからの手紙を渡して、謁見の日取りを決めたらそれまで宿で待機って感じだな」
「なるほど……では、何日かは王都を観光できるのか?」
「お前図太いなぁ……」
まさか今の状況で観光したいと言い出すとは思わなかった。
こいつは、戦争一歩手前の状況だってわかってるのかね?
まぁ、その戦争起きそうな原因は俺にあるわけだけど。
「まぁ、普通はそうだが、俺たちに観光する時間はないぞ?」
「なに? そうなのか?」
「コネがあったらいろいろ短縮できるんだよ。ほんと、勘弁して欲しいけど、やらざるを得ないならコネとして利用するさ」
「そうか、カイト殿の姉君が王都にいるのだったな。姉君には謁見を早められるほどのコネがあるのか?」
「ん? まぁな」
あれはコネと言っていいんだろうか?
たぶんコネと言えるだろうが、コネよりももっと直接的な表現ってなんなんだろうな?
「では、姉君の下へ向かうのだな?」
「おう。さっさと行くぞ」
そう言って俺は王都の中心へ向かって歩き出す。
王都の構造はけっこう単純で、南側が通常の商店や工房など様々な店舗が並んだ商業地区、北の東側半分が居住地区で西側半分が貴族用の居住区、中央にこの国の行政機関のトップである城がそびえ立っている。
俺たちが王都に入った個人用の門は南東にあるので城へ行くにもリオンの屋敷へ行くにも城の方へと向かわなくてはならない。
「姉君はどのような方なのだ?」
「ん? 普通の姉貴だよ」
「普通? 普通の姉君なのに会いたくないのか?」
普通と言ってもいろいろな普通があるわけだ。
少なくとも俺は、その普通な姉貴に会いたくない。
「相手が普通だからって面倒なことになるのがわかりきってるなら会いたくないだろ? 俺は面倒なことはやらないで平穏な日々を過ごしたいんだ」
リッタナ村で俺がもたらした惨状を目の前で見ていたリサは、あれだけのことをしておきながら何言ってんだこいつ!? みたいな顔で俺を見ているが、俺はそんなこと気にしない。
気にしないったら気にしない。




