王都には行きたくない4
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豚を始末してから明けて翌日、俺は領主館にある自室のベッドではなくおっさんの家の客間にあるベッドで目を覚ました。
とりあえず、起き上がるのに邪魔だったいつの間にやら腹の上に移動していたドラゴンベイビーちゃんを頭の上に乗せてやる。
昨日はさっさと家に帰りたいところだったが、けっこうな数の兵士がいたしやけくそになって村を襲おうとした場合に備える必要があったので帰れなかったのだ。
豚の首を届けてからおっさんに一通りの話をしたところ、村の少女を宿に連れ込んだ件はおっさんも知らされておらず、まさかと思って少女の家へ急いだところ少女の両親は家の中で血溜りに倒れていた。
マジでクソ野郎だったなあの豚。殺すべきだ。あ、殺したか。
図らずも少女の両親の仇を討ったわけだが、少女の方は仇を討ってもらって超ハッピーとはいかず、ひどいショックを受けており、今もおっさんの超美人な嫁さんが付き添っている。
「カイト殿、おはようございます」
「おう、おはよう」
リビングに行くとすでに起きていたおっさんが、書類片手に朝食を食べていた。
おっさん、行儀悪いぞ?
「とりあえず、俺は帰るぞ?」
「はい。ご足労いただきありがとうございました」
「いいっていいって。俺はリオンに仕事を押しつけられただけだ。ただ……」
「はい。私は村を離れられませんので、お手数ですがリサをお連れください」
「了解」
リオンに仕事を任されたのは俺だが、その仕事がどうなったかを説明する責任は俺ではなくこの村を任されたおっさんにある。
ただ、あの豚を殺したことでいつ敵が攻めてくるかわからないので、村を守る義務があるおっさんは村を離れられない。
いくらシシカが速いとは言え、今の状況ではどれだけ短い時間でもおっさんが村を離れるという選択は絶対に取れないのだ。
そうすると、リオンに状況を説明する人間が必要になるので、おっさんの代わりに従士であるリサを連れて行けとおっさんは言っている。昨日の救援要請と同じだな。
「戦争になりますかな?」
「どうだろうな……戦争は忙しくなるから嫌いなんだよなぁ……」
「特大の火種を作った張本人がそう言いますか?」
「おっさんでも同じことしただろ?」
「20人を狭い室内で相手取るのは少々厳しいですな」
「それでもやらないとは言わないんだろ?」
「当然でしょう?」
ま、そりゃそうだ。
自分の村の住人が襲われてキレないような男をあのリオンが騎士にするわけがない。
「じゃ、行くわ。リサちゃんはどこだ?」
「まだ眠っております。朝食ぐらい食べて行かれたらいいんじゃないですか?」
「急いだ方がいいだろ? リサちゃんの部屋は?」
「2階の一番手前です」
「へいへい」
ひらひらとおっさんに手を振って階段を上る。
おっさんが言っていた扉の前に立つとマナーなのでとりあえずノックする。
返事がないただの屍の……屍じゃないな扉だ。ただ、返事はない。
「おっきろ~っ!」
勢いよく扉を開けて入室したが、リサは眠ったままだった。
昨日はけっこうな距離を走り続けたわけだし、宿の片付けとかで寝たのも夜遅かったから疲れてるんだろうね。
豊かな双丘が呼吸に合わせて上下している。
リサちゃん寝る時はパンツオンリー派なんですね。
いやぁ、眼福眼福。
「ほれ、さっさと起きれ」
「ふがっ! 何事!?」
寝ている顔面に軽くチョップすると乙女にあるまじき悲鳴を上げてリサは目を覚ました。
起きると同時に枕元に忍ばせていた短剣を抜いているあたり言い訓練してるじゃん。
「カイト……殿?」
「おう。ぉうっ!?」
俺が返事するとリサは無言で短剣を俺へと突き出してきたので慌てて身をよじって避ける。
なんだ? 俺の周りの女はいきなり万年筆で突いてきたり短剣で突いてきたり、ろくな女がいないな。
「嫁入り前の女の寝室に入るなど……」
「あ、眼福です。ありがとうございました」
お礼を言ったのに短剣を突き出す動きの鋭さと速さが増した。解せぬ。
「とりあえず落ち着いてさっさと服着たら?」
そう言い残して部屋を出ると扉の向こうからリサの悲鳴のような雄叫びが聞こえてくるのだった。




