謎
「遅かったね、お前達。早く座りな」
6人程が料理を囲めるサイズのテーブルがある、屋敷の中では小さめな部屋に、ヤギュー、俺、アイネの3人が集まっている
無論、朝食を摂るためだ
食卓には茶色いパンとイモの入ったスープ、サラダが並べられている
正直、8歳の子供には多すぎる量なので食べきれなくて困っている
「ノーム、あんた少し痩せたんじゃないかい?もっと食べな」
そう言ってヤギューは自分のスープを差し出した
「いや、こんなに食べられないよヤギュー」
大袈裟に顔を顰めて皿をヤギューへと押し戻した
するとヤギューはニヤリと笑ってスープをすすった
「アンタの嫌いなイモが入っているからかい?
好き嫌いしてちゃアイネに嫌われちまうよ!」
そう言うとぎゃっぎゃと笑った
正直、俺は困惑している。
ここに来ておよそ8年が経過するというのに、この婆さんの見た目は少しも変わらない
どころか、年々若くすらなっているように見える
それにあの日「ジグ」が目に見えて怯えていた人物とは思えないほど、愛情深く、俺たちを養育している。
よく分からない。婆さんが言っていた「変わるまで」の意味も
何故ジグがあれほど怯えていたのかも
この8年、俺はこの疑問を常に抱えて生きてきた
しかし答えは出ず、ついにはヤギューに問うこともしなかった
「ふぉーふ(ノーム)?」
心配そうな口調で、アイネが俺を呼ぶ
口いっぱいにパンが詰まっていて
ほっぺたが風船のように膨らんでいる
「はは、アンネ、君こそ、もし俺以外の奴が見たら、君に惚れるなんて事は無いだろうな!」
俺の暗い顔の意味を悟られる前に、アンネを茶化す
「……」
鬼のような形相で必死でパンを噛み、飲み込もうとするアンネ
おっと口内を噛んだようだ、涙が滲んでいる
「う、うるひゃい!ノームのばか!」
スプーンで俺を差しながら、林檎のように真っ赤になって怒るアンネ
あ〜癒しだ
前の世界にはなかった、異性との日常
……と言っても8歳児だが、まあそこは俺も8歳児だからいいだろう(?)
「あんたたち、食べたならロジエルスカの所へ行きな、もうすぐ勉強の時間だろう」
ヤギューは食事を終えるといつもこう言う
言うタイミングも大抵同じだ
という事は、ちょうど今8時か
ここでの暮らしはヤギューと関わるだけではない
俺達はヤギューの悪魔「ロジエルスカ」にこの世界での常識や歴史、魔術に至るまで様々な教育を受けている。
と言っても、俺は灰色、つまり魔術の素養を持たずに生まれてきた人間だから、魔術に関して学んでもあまり意味は無い
対するアイネはと言うと
「よーし!今日こそロジーをびっくりさせてやるんだから!」
物凄いやる気だ
それもそのはず、アイネは赤色、つまり熱の魔術への適正が高いのだ
しかも常人の数倍の素養を秘めているらしい
(どうやらジグが鑑定している?)
「その意気だよアイネ、将来的には凄腕になって貰うからね」
うん!と元気よく返事をするアイネに声をかけ、食事を終える
「「日の糧に感謝」」
ご馳走様、みたいなものだ、こっちでの挨拶らしい。