後悔
「この赤ん坊の名前はなんだい?」
ヤギューという婆さんが嗄れた声でジグに聞く
その声はどこか恐ろしく、地の底から腹に響くようだった
「いや、特にねえ
情が移る前にと早く引き剥がしてきたからな、借金のカタとは言え、オレだって気分が悪いさ」
大きく咳払いをするジグ
「ふん、そうかい、なら私が付けようか。
うーむ…
お前は灰色らしいね?なら能無しの『ノーム』で決定だね。
カカカ。」
いやに面白そうな口調で俺の名前を決定する
嫌だ、そんな由来勘弁してくれ。『灰色』ってのが何を意味するのかは分からんが、後々コンプレックスになりそうだ!
「そ、そうだヤギュー、一瞬見ただけで本当に灰色か分かんねえから、もう一度見せてくれねえか?」
少し震えた声でジグがそう言うと、ヤギューは俺をジグに近づけた
すると
「お前、聴こえているんだろ?
今まで持ってきたガキと明らかに目の動きが違う。
恐らくヤギューのババアは気付いてねえ。
いいか、よく聞けよ」
俺の顔を覗くふりをしながら、掠れた小さな声で耳打ちを始めた
「せめてもの罪滅ぼしだ。よく聞け、ヤギュウのババアの寝室にある『鍵』だ。
それで逃げられる。すまないが、お前の母親は助けられない。お前だけでも…」
全て言い終わらないうちに、ヤギューは俺をジグから遠ざけた
「なんだい?アンタの特性なら一瞬で判別できるだろうに、老眼なのかい?」
疑わしい、といった表情でジグを睨む
「い、いや、大丈夫だ間違いなく灰色だった、後は好きにしてくれ」
目を伏せながら後ずさる
どうやらジグはこの老婆を心底恐れているらしい
小刻みに震えている手がいい証拠だ
「ふん、ならいいんだよ、用が済んだならとっとと失せな」
シッシッと手を払い、ジグを追い返すと、ヤギューは重そうな扉をギィと開け、俺を家の中へと連れ込んだ。
視界の端に映る大男のジグが、とても小さく見えた