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第30話 作戦会議?

 ハンク達がドルカスを出発してから4日が過ぎた。

 彼等は、大森林南端とアドラス湾の間にある陸路を東へと抜け、徒歩でリガルド帝国へと入国した。

 そして、リガルド帝国側陸路入り口の、ルクロという街に到着したのだった。

 陸路を挟んで、ちょうど反対側にあるドルカスと睨み合う様に置かれたルクロの街もまた、リガルド帝国防衛の要を担う城塞都市であり、その周囲は石を積んで造られた城壁に囲まれている。

 当然ながら、城門を通過するためには身分証の提示が必要だ。特に、陸路を経由してアドラス王国に繋がる西門では、密偵や工作員の侵入を水際で防ぐために、多数の兵士達が目を光らせていた。

 とはいえ、冒険者の身分は冒険者ギルドに保証されている為、マナクルタグを見せて名乗りさえすれば、兵士達に不審がられると言う事はほとんど無い。

 ハイエルフのアリアでさえ、「何百年も森の中なんて退屈だから、冒険者になったエルフです」と言ってしまえば、あっさり通過を許可される程なのである。



「それにしても、マナクルタグの信頼度は凄いもんだな」

 宿屋の食堂で、ハンクは感心するように左手首のマナクルタグを見た。エルフの街門とドルカスの城門で、毎度の様に気を揉んだ事が懐かしく思えるほどだ。

 現在、ハンク達5人はルクロの冒険者ギルドで宿屋を紹介してもらい、部屋を確保した後、その宿屋の食堂で、休憩がてら今後の打ち合わせをしようとテーブルを囲んだところだ。


「ほんとね。変に勘ぐられないで済むから、私も助かるわ」

「二人とも100年前に冒険者ギルドを設立した、アルベルト・フリージアに感謝だな」

「「「誰? それ」」」


 シゼルがさらりと言った人名に、ハンク、アリア、リンが揃って疑問の声を上げる。シゼルはがっくりとテーブルに突っ伏して、こめかみを抑えた。


「お前らなあ……偉大なグランド・マスターを知らんのか……」

「仕方ないよ。私達3人とも、事情が事情だから。ヒューマンの歴史なんて知る訳ないでしょ」

「まあまあ、リン。僕が説明するよ」


 シゼルに向かってリンが口を尖らせると、ハッシュがそれをやんわりと(なだ)めて、グランド・マスター、アルベルト・フリージアについて説明を始めた。

 簡単にまとめると、彼は100年ほど前に冒険者ギルドを設立して、冒険者たちの地位を確立した偉人だそうだ。現在、彼の功績により、冒険者の身分は冒険者ギルドによって、大陸西方にあるバスティア海沿岸諸国全てで保証されている。

 その為、冒険者達の身分を保証する証として、アルベルト・フリージアはマナクルタグを発明した。又、彼自身もミスリルランク冒険者であり、同じヒューマンであるシゼルやハッシュにとっては、誰もが知る英雄なのである。

 とはいえ、転生したばかりのハンク、同じく転生者だが山村で育ち、しばらく一人で生きてきたリン、ハイエルフであり、預言者候補としてエルフの街で育ったアリア、ヒューマンの歴史に触れる機会の無かったその3人が、冒険者ギルド設立者であるアルベルト・フリージアの名前を知らないのは、無理からぬことなのだ。


「へええ。私、冒険者ギルドって、もっと昔からあるものだって思ってた」

「100年前だよ? 十分昔じゃないのさ……それに古い伝承によると、さらにその前の時代は神様同士の戦いと、その後の戦乱で冒険どころじゃなかったみたいだしね」

「はは……そういや、魔神の奴もそんな事言ってたな……」


 アルタナ曰く、この700年、他の神々は依代達を勇者や魔王に仕立て、代理戦争に勤しんでいると言う事だった。神の視点から見れば、それは休息の時代における、ちょっとした小競り合いなのだろう。ともすれば、飼い犬同士が喧嘩した程度の事かもしれない。

 だが、地上の人々にとって、それは大きな戦乱の渦となって降りかかったはずである。神々にとって、この700年は休息の時代かも知れないが、勇者や魔王が引き起こす戦乱が地上の人々に休息を与えることは無い。それでも、100年前に冒険者ギルドが作られたと言う事は、それなりに平和な時代が訪れたと思っていいのかもしれない。

 ――勿論、仮初めの平和である事は想像に難くないが……


「話を本題に戻そう。帝国からサラを連れ出すためには、細心の注意が必要だ。帝国の冒険者ギルドにも正当な依頼だと申請しておいた方がいいだろう」

 腕を組んで溜め息をつくシゼルに、ハンクが「細心の注意って?」と尋ねた。

「考えても見ろ、サラを取り返すためとはいえ、宮殿や軍事施設に忍び込む必要だって考えられる。勿論、戦闘にならない保証は無い。帝国からしてみたら、俺たちのやろうとする事は、誘拐であり立派な犯罪行為だ。そもそも、先にサラを誘拐したのは帝国かも知れないが、帝国相手にその理屈は通じない。何の対策も講じずにサラを奪還した所で、帝国がギルドに圧力を掛けでもしたら、最悪、俺達は誘拐犯としてギルドから追われるだろう。そうならない為にも、サラの奪還を決行する前に、帝国の冒険者ギルドに依頼の正当性を保証させなければならない」

「そうね。ある事ない事でっち上げられでもして、白き勇者自ら討伐隊でも組まれたらおしまいだわ」


 冒険者ギルドに所属する冒険者が罪を犯した場合、ギルドの信用を守る為に犯罪者の討伐依頼が出され、粛清される。それは、冒険者ギルドが冒険者達の身分を保証する為の自浄作用ともいえるシステムだ。しかし、それには大きな欠点がある。

 それは、冤罪を防ぐ手段に乏しい事である。もちろん、犯罪者の討伐依頼が出される前に、ギルド職員や何人かの冒険者が真偽の確認を行う。だが、それさえすり抜けてしまえば、後は何の確認もされない。

 そうなった場合、いくら無実だと言ったところで、自らそれを証明しない限りは、延々と冒険者に命を狙われるのだ。

 とはいえ、軽犯罪でそのようになる事はまず無い。

 冒険者同士で罪を犯した者を確保し、その街の警吏に突き出すくらいである。その為、犯罪者討伐依頼は、主に殺人や強姦、国家反逆といった重い罪を犯した者に適用されるのだ。

 

 そして、帝国からしてみれば、サラを取り返しに来たなどと言う事は、著しく国益を損なう敵対行為に他ならない。勿論、そのような事をする輩は、もれなく犯罪者だ。とはいえ、先にサラを誘拐したのは帝国なのだから、この論法には当然の如く無理がある。

 だが、それを押し通すのが国家権力の厄介なところだ。

 そうなれば、帝国からの刺客と討伐依頼を受けた冒険者の両方を相手にすることになるだろう。

 さらに、帝国には白き勇者と名高いヴィリーがついている。

 彼は、邪魔さえ入らなければ、リンを単独で殺す事が出来るほどの強さだ。刺客や冒険者でハンク達の処理が出来ないと解れば、ヴィリーがその役目を引き継ぐ事は想像に難くない。

 勿論、戦闘は避けられないだろう。ヴィリーがラダマンティスを超えるような強さを持っているかどうかは知らないが、強敵である事は間違いない。

 下手をすれば、再びアルタナが現れて、彼に力を貸す事態も念頭に置くべきだ。

 多少飛躍しているかも知れないが、ありえなくも無い自らの想像に、「厄介だな……」と小さく呟いて、ハンクは眉を(ひそ)めた。


「でもさ、まずはサラさんたちが何処にいるのか見付けないと。話はそれからじゃないのさ!」

 ほんの一呼吸ほどの沈黙が降りた後、ハッシュが努めて明るくそう言うと、渡りに船とばかりにシゼルがニヤリと笑みをこぼす。

「ああ、その通りだ。冒険者ギルドに申請を出すにしても、まずは居場所の特定が最低条件だな」

「でも、どうやって探そう? とりあえず、ハンクが見た記憶の場所を探すのが一番の近道なのかな?」

 テーブルに頬杖をついたリンが、ハンクを横目で見ながら、うーんと唸った。

「そうね。私もそれが良いと思うわ。キミ、なにか覚えてることってないの?」


 その言葉に、アリア達4人の視線がハンクへと集まる。突然水を向けられたハンクは、頭の後ろで両手を組んで天井を見上げた。天井を見上げたまま、ラーナの記憶の映像を思い出す。

 ややあってから、ハンクは視線をアリア達に戻して口を開いた。


「最初に見た、サラとラーナが話してた場所は石造りの部屋で暖炉があった。その次に見た訓練場っぽい大きな建物は、木造だった。密偵部隊が訓練する施設みたいなことを言ってたと思う。外の景色までは気にしてなかったから覚えて無いけど……これじゃあ、あまり役に立たないかもな……」

「そんなことないわ。密偵部隊の訓練施設なんて、普通に考えれば帝都にあるはずよ。それに、サラ先生の存在はなるべく外部に知られたくないはず。だとしたら、なるべく目の届く宮殿の近くで管理しようとするはずよ」

「だとしたら、僕らの目指す場所は、帝都フレイベルクだね」


 帝国にとって、サラは重要な存在だ。そして、その存在を秘匿しなければならない。アリアの言う通り、宮殿の近く、もしくは宮殿内部に専用の部屋を設けていても何ら不思議は無いだろう。

 だとすれば、目的地はハッシュの言う通り、リガルド帝国の首都、帝都フレイベルク。さらに言えば、皇帝の住まう、広大な宮殿敷地内だと思われる。

 そうなれば、外部では大した情報は集まらないかもしれない。

 とはいえ、サラの情報を得る為とはいえ、迂闊に宮殿に忍び込んだところで、他国の密偵と疑われて捕縛されるだけである。いくらギルドに依頼の正当性を保証して貰っても、それでは何の意味も無いのだ。

 情報を集める為に、何か手段を講じる必要がある。


「もしそうだとしたら、宮殿内に使用人のフリして潜り込むとかでもしない限り、有力な情報は得られないかもな」


 何気なくハンクがそう言うと、再び、全員の視線が一斉にハンクに向けられた。

「「「「それだ!」」」」

 突然ハモった4人に気圧されて、椅子に座ったまま後ずさりそうなハンクを後目に、早速誰が潜入するか話し合うアリア達4人。しばらくして、シゼルとハッシュが潜入班、ハンク、アリア、リンが居残りという事で話がまとまった。


 ――実際のところ、シゼルとハッシュしか適任者がいなかったのだ。


 ハイエルフのアリアや、一度ヴィリーと戦っているリンが候補から外れるのは、言うに及ばないだろう。

 残るハンクが候補から外れたのは、この世界の事を知らなさすぎて、正体が露見せずに済むとは思えない、と言うのが主な理由だ。

 さらにリン曰く、ハンクには重大な欠点があった。


「ハンク。あなたの生命核は気配が強すぎて、何処にいるか丸わかりなんだ。ドルカスで私がいきなり話しかけたのも、そのお蔭。だから、そのまま帝都に入ったら、すぐにヴィリーに気付かれる。宮殿に潜入なんて、今のあなたには無理。

 そう言う訳だから、これから帝都に向かうまでに生命核の気配を絶つ練習をしてね。コツは私が教えるよ」


 そう言ってリンはにまっと笑い、ハンクに新たな課題を突き付けたのである。

 その後、明日になったら旅の準備と帝都方面への護衛依頼を受注し、その依頼の都合に合わせて帝都へ向けて出発すると言う事で方針が決まり、この打ち合わせは終了となった。

 そして、5人が席を立とうとしたその時、食堂の扉が開いて見知らぬ少女が現れ、澄んだ良く通る声が室内に響いた。


「お話し中、突然ごめんなさい。冒険者ギルドから紹介されて来たんですが、護衛依頼、引き受けて頂けませんか?」


 肩にかかった亜麻色の髪をさらりと揺らして、その少女は、はにかむ様に微笑んだのだった。

活動報告にも書いたのですが、先週は体調不良で投稿できず、気が付いたら2週間経ってました……すみません。


あと、もう1点。突然&今更ですみません。10話から12話に出て来る睡眠魔法の名前を、アスフィクシアに変更しました。こっちの方が魔法の効果に近い言葉かなあって思ったら、変えずにいられませんでした(笑)

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