第1話
ホワイトテイルが一面になっている新聞を片手に、コーヒーを飲む1人の少年がいた。
名前は、ベル。16歳。
ここは通っている高校の中庭だ。周りにはお昼を食べる生徒で賑わっている中、彼は一人でベンチに腰を掛けている。
サラサラの紺色の髪に、美形で、中性的な顔つき。そんなベルは、学園の美少年として密かに有名だが、本人は気づいていない。
新聞を見つめるベルの表情は、何処か寂しげで暗い雰囲気だ。
「…怪盗、ホワイトテイル。最近この話題で持ちきりだな…」
ベルは小さな声でそう呟いた。
「…怪盗ホワイトテイル、バルシェ美術館にまたもや侵入、2作品を盗む…か」
「…ベールッ!何見てるの?」
背後から、1人の少女がベルに後ろから抱きついた。茶髪のボブヘアーに、小さな赤いリボンをつけている。
「わっ!サリ、どうしたの?」
ベルは一瞬ビクッと身体を震わせたが、すぐに優しい声でサリの方へと振り返った。
「どうしたのじゃないよ!何、新聞なんか読んでるの?」
「いや…別に、なんとなくだよ」
「なにそれ〜?…えっ!ホ、ホワイトテイルじゃん!見せて見せて!」
サリは強引に新聞を取り上げる。
「ふむふむ…また盗んでいったんだ…ホワイトテイルさんって、本当かっこいいよね!」
「え!?サリ、駄目だよ。この人は、自分の欲望のために、人を傷つけてるんだよ」
サリの冗談ぽい言葉に、動揺するベル。彼は真面目で何事も真剣に捉えてしまう性格なのだ。
「人は殺してないじゃない!」
「…そうだと、いいんだけどね」
「怪我をしてる人がいるから、駄目?」
「…。とにかく僕は、彼を追ってるように見せかけて、本当は楽しんで見ているような人達が理解できないだけだ」
ベルは新聞をサリから奪い取らず、そのまま歩き始めてしまった。
「ちょ、ちょっと待ってよ!新聞、いいの!?」
するとベルは後ろを振り向き、
「いらないよ。僕にはこんな人、関係ないんだしね」
そう言って去っていった。
1日の授業が終わり、ベルはある場所へと歩いて向かっていた。
ベルは、現在一人暮らしをしている。厳密に言えば、まだ物心つく前に両親が離婚し、母親に引きとられた。その後はずっと母と2人で暮らしてきたが、ベルが高校生になる直前に病に倒れ、近くの病院で入院生活を送っているため、ベルは小さなアパートに一人で暮らしているのだ。
家から高校までは電車で通った方が早いが、ベルは自分が住む、このカルディアが好きで、街並みを眺めながら毎日歩いて高校に通うことが一つの楽しみになっている。
「日が落ちてきたなぁ…」
しかし、いつ見てもこの街は美しい、とベルは思った。自分のこの何かぽかりと穴が空いた心を、少しでも満たしてくれる。そんな気がした。
ベルは自然と、ホワイトテイルがやってきたという、バルシェ美術館に足を運んでいた。
しかし、予想していた通り、立ち入り禁止という文字が目に入った。ベルは近くの警備員に話しかける。
「…しばらくは無理ですか」
「あぁ、折角の所、すまないなぁ」
「予想はしてましたが、こうやって見ると何だか切ない感じがします」
「これ以上盗まれるわけにはいかないからなぁ。少し閉鎖させてもらっているんだ。当分、ここは開かないよ」
「…わかりました。ありがとうございました」
ベルはそう言うと、美術館を後にした。
辺りはすっかり暗くなり、ベルは自分の中で裏近道と呼んでいる道へと入っていく。
毎日歩いているうちに見つけたこの道は、あまり日が当たらず、人気もない。
それがまた、華やかなカルディアにある暗い一面を見ているような気がして、気分が良いのだ。
「ホワイトテイルのせいで、しばらく鑑賞はお預けだな…」
バルシェ美術館は、世界の有名作品が数多く展示されており、しかも三階にカフェもあって眺めも良く、気に入っている場所の一つだ。そんな場所にしばらく行けないなんて、ベルの気分は落ち込んでいた。