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探索者の(非)日常  作者: 悠
2/2

猫耳千秋さん

 ある日の朝。

 いつも共に暮らしている執事の千秋が、急におかしなことを言いだした。


「京子さん。俺、ついに猫になってしまいました」



 ほら、おかしい。

 昨日の夜からだ。彼の様子がおかしくなってしまったのは。

 昨日の夜も、遅くに帰ってきたというのに、“ただいま”も、“遅くなってしまい申し訳ございません”も何も言わずに、さっさと自室へと引きこもってしまったのだ。

 今まではこんな事は一度だってなかったのだから、さすがの私も心配した。

 けれど、朝になったら、千秋さんはこんな調子で。


「何それ? 馬鹿にしてる?」


 拳を構えつつ、彼に尋ねてみるが、彼の表情は変わらず、読み取れない。

 しれっとした顔をしているが、こいつはなかなかのアホだ。

 しっかりしているように見えて、実はポンコツ。加えて、不運体質。

 私の事を守る、とか言っておきながら、自分の方が危ない目にあっていたり、とか。

 全く、執事のくせに。


 心の中で彼に悪態をついていると、千秋は不自然に被っていた黒のニット帽と、薄い革製の手袋を外した。

 そうして、隠されていたものが露になる。


「猫、耳……?」


 千秋の髪と同じ茶色の猫耳に、手のひらにはピンク色の肉球。そして、鋭い爪。

 注意深く見てみれば、千秋の口からも猫のような鋭い牙が見え隠れしていた。

 本当に、猫みたい。


 千秋は、信用していただけました? と言いながら、頭を傾けて可愛らしさを演出した。

 ノリノリで猫に成りきっているのだろうか。あざとい。

 彼も、イケメンの部類に入る人間だ。一応、女である私は不覚にもときめいてしまった。


「尻尾はないの?」


 私はこれでも、不可思議な出来事に遭遇したことが何度もある。

 千秋の猫化なんて可愛いものだ。

 これぐらいならば、すぐに適応してやるさ。


 そう思いながら、私は千秋の肉球をしっかりと堪能する。

 うん、ぷにぷにして良い感じ。


「あります。でも、京子さん遊ぶでしょう?」

「うん。だからほら、隠してないでさ」


 よこせ、ほら。

 目で訴えながら、右手は肉球を堪能したまま、左手だけを千秋の目の前に差し出す。

 ほらほら、尻尾もよこせ。どうせ可愛いんだから。



 嫌ですよ! 肉球を差し出しただけでも良くないですか?!

 と主張する彼の意思なんてものは無視していこう。


 千秋の背後に回ろうとするが、逃げられる。

 じり、じり。

 私が一歩進めば、千秋は一歩下がる。

 もう一歩私が進めば、千秋は今度は二歩下がった。


「……おとなしく差し出しなよ。そうしたら痛い思いはさせないよ」

「それ、貴方が言われる立場だと思っていたんですけどね」


 引きつる顔を必死に動かし、苦笑いで私に説得を試みようとするが、失敗。

 残念。私、一度決めたら最後までやり通すの。



「覚悟ォ!!!!」

「お許しください!」


 無駄に広いこの家の中に、私と千秋の声が響く。

 その直後、今度は走り回る音も、数十分程度おさまることはなかったとさ。



__________



「結局、捕まえられなかった」

「危なかったですけどね」



(二人のDEX値は同じである)

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