冒険者ギルド
ようやく会話が発生しました!
遅いですね、はい。すみません...
目を開くと視界に飛び込んできたのは、見慣れてはいるが一度たりとも起きぬけに見たことのない光景だった。
だがいつもの通りじゃないと言うにはむしろそのことよりも、もっと決定的に違う点が私の目の前に広がっていた。
目の前に広がっている天井は、私がいつもログアウトするときに利用するときに使用している宿屋の天井に間違いはないのだろうが、見慣れているだけにその違いははっきりと分かった。
「天井に汚れがある....?」
ついつい声を出して確認してしまうほど今の私の混乱していた。
確かにこのガーデッドオンラインは他のVRゲームと比べても綺麗なグラフックの再現がなされてはいたが、さすがに天井に年季の入った傷や汚れがあるほど凝っているわけでもなかった。
しばらく混乱していたが冷静に状況を分析するならば、これは意識を失う前に運営が言っていたアップデートによる結果だろう。
そこまで考えた時点で私は混乱よりも興奮が勝って色々と確認していたくなった。
とりあえず部屋を出て下に降りてみる。
「おや、お客さんお目覚めかい?」
降りた直後で宿屋の店主から声をかけられたことによって私の興奮は最高潮に達した。なぜなら今までNPCが進んでプレイヤーに声をかけることなどなかった。だからこのNPCはどこまで対応してくれるのか興味が俄然沸いた。
「ええ、おかげさまでゆっくり休めましたよ」
若干不愛想に返してしまったのは私の性格によるところが....私は無用なトラブルを避けるためにあえて素っ気なく返したのだ。
....断じて私のコミュ力がないわけではない、断じて....
「それはよかった!朝食を用意しておりますからいつでも食堂へお越しください。では私はこれで」
そういうと店主は背中を向けて下がっていった。
正直ここまでとは思っていなかった。私に話しかけてきたこともそうだったが、ちゃんとした会話が成立したし私の言葉を理解できているように感じた。
これでNPCはかなり高度なやり取りができるようになったと見るべきだろう。
もっと確認する前にとりあえず運営からのメッセージを確認することにする。アップデートしたわけだし情報が上がっているはずだからだ。
結果から先に言うとメッセージの確認は叶わなかった。というかそもそも致命的なことにチャットやメッセージ送信といったコミュニケーション機能が全て使用不可能になっていた。
それだけならまだよかった。だがもっとも致命的なバグかそれとも意図したことか、メニューからログアウトボタンが消えていたことだ。
「いやいやいや、そんなどこぞのラノベじゃあるまいしログアウトできないなんてことが...」
だが何回確認しようがやっぱりログアウトボタンが綺麗さっぱり消えていた。
それと気になることに、今いるプレイヤー達の強さのランキングを示すために順位を表示していた数がおかしなことになっていた。
今まで6万人前後が最高の数字だったのが、今や500億を軽く超えていたのだからこれがどういう意味か分からないわけがない。
つまりNPCから他の人種に至るまでおそらくこの世界全ての知的生命の数なのではないだろうか。
そう思ったらいてもたってもいられず着替えて外出する準備をすることにする。
「とりあえず冒険者ギルドにいって情報を集めないとね...」
そこで新たなことに気が付いた。装備欄からボタンで着替えができないようになっていたのだ。
これが示すところはつまり...実際に自分で着替えるしかないということであり、脱ぐ必要があるということだ。
そういうことですぐさま部屋の鍵を閉めてから着替えを始めた....。
冒険者ギルドに来て思ったことは喧噪がいつもより大きいといったところと、NPCと思われる冒険者が受付で店員と会話したり報告していたことが特に衝撃的だった。
しばらく圧倒されていたがすぐに気を取り直して受付に話しかける。
「すみません。ここ最近の情報が欲しいのですが。」
「最近の情報ですね?それでは冒険者カードの提示と銀貨一枚をお支払いください。」
ここはいつも通りの対応だったので、無言で冒険者カードと銀貨を提示する。
「ご確認させていただきます。...っ、Sランク!?.......あっ、申し訳ございません。」
いつもと違ったのは事務的に処理されるわけではなく驚かれたことで、これで周りに私の冒険者ランクが知られてしまった。
「Sランクだと....?」
誰かがそう呟いたのを発端として次々と私に冒険者たちが群がってきた。
「おい、兄ちゃん。Sランクってマジなのか?」
中年の冒険者がそう声を私にかけてくる。今の私はローブで全身を隠しているので男性と間違われているようだ。
どう対応したものかと逡巡していると、この騒ぎを聞きつけたのか奥の方からギルドマスターと思わしき人が出てきたようだ。
「冒険者諸君静かにしたまえ!冒険者ランクに関しては個人情報になるため詮索はご法度だ!すみませんがギルドマスター室までご同行願えますかな?」
前半が冒険者ギルドにいた全員に対する言葉で後半が私への言葉のようだ。別段断る理由はないし、このままでは面倒なことになること請け合いだったので素直に頷いた。
「すみませんな。ではこちらに」
ギルドマスターの後に続いていくと奥のギルドマスター室へと通される。
中に入ると椅子に座るよう勧められたのでそのまま椅子に座った。
「まずはこちらの不手際で冒険者ランクの情報漏洩と騒ぎへと発展させてしまったことをお詫び申し上げます。まことに申し訳ない。」
座るやいなやすぐにギルドマスターが速攻で頭を下げて謝ってきた。
「いえ、冒険者ランクについては特に気にしていませんし、騒ぎになったことは困りましたけどそれも対応していただきましたので問題ありませんよ。」
「本当に申し訳ない。そう言っていただけるとこちらとしても助かります。」
再度ギルドマスターは頭を下げるとこちらを興味深そうに見る。
「それにしても女性の方だったのですな。それでSランク冒険者とはすごいですな。」
関心しているように見えて、その実こちらに疑惑の視線を向けてくる。
どうやら女性でSランク冒険者というのは珍しいどころかいないのかもしれない。それどころかSランク自体を見たことがない可能性まである。
まあそれも仕方がないと言えるだろう。冒険者ランクはSSランクからEランクまでの7段階に分かれている。
一般的に一人前だと認められるのがCランクで、多くの人がこのランクである。その中でも才能があるものや熟練の域まで達したものがBランクとなれる。Aランクはさらに一握りで、何かしら強力な才能を持っていないとなることができない。
そしてSランクだが...一人で戦争の戦局を左右できるとまで言われるほどであり、また強さ以外にも立場のあるものから功績を認められる必要がある、といったように一筋縄ではなれないのだ。
「ええまあ、色々とありましたから。...それより、本来ここには最新の情報を求めてやってきたのですが...いいですか?」
これ以上話が長引くと面倒だと判断したので早々に用事を済ませることにする。
「そう、ですな...分かりました。」
ギルドマスターはまだまだ詮索する気満々だったようだが、私の不穏な雰囲気を感じ取ったのか素直に承諾の返事をしてくれた。
これでようやく当初の目的が果たせるというわけだ。
....面倒なことになっていないといいなと思いつつ私は話に集中することにした。
誤字・脱字、読みづらい部分などありましたらご指摘いただけると幸いです。
投稿間隔が段々と遅くなっている気がする....