第三話
そして次の日。ぶらりと幼子の家まで徒歩で向かっていく碧の姿があった。
「しかし、山奥に住む美少女か。少女……美女だったら良かったのに。俺がロリコン扱いされたらどうするんだ」
ぶつぶつと呟きながら、田舎道を歩いていく。木々が日差しを遮ってくれるので、幾らかは涼しい。濃い緑の香りがする。
幼子の家は、村外れにある。
村の中でも最も寂れた場所へと歩いていくのに、碧はだんだんと気だるくなった。
「これで美女とデートするのだったら、幾らでも歩くのだが。ああ、何故幼子とやらはあと五年早く生まれなったのか」
そんな無理難題を言いながら、碧は草を踏んで進んでいく。小さな村であるから、村外れにもそう歩くことはなかった。
幼子の家は、寂れていた。
和風の佇まいである。小さな古い家屋が、木々に埋もれるように建っていた。
玄関らしいものはあれど、チャイムとか、そういう物は見当たらない。何処から入っていいものか、碧は少し悩んだが、堂々と真正面から入っていく事にした。
引き戸になっている入り口らしき場所を、とんとんとノックする。
「もしもし? 幼子さんのお宅ですか?」
声をかけるも、応えはない。
試しに引き戸に手をかけると、からりと簡単に開いた。
「田舎は無用心だな」
言いながら、勝手に玄関で靴を脱ぐとあがっていく。躊躇はなかった。この辺りは、鍵をかけないでいる事が多いと先に聞いていた。恐らく、幼子も鍵をかけていないのであろうと思って、碧はちょっとした冒険家気取りで家へとあがりこんだ。
とは言っても、小さな家である。住人は、すぐに見つかった。
『死んでいる』
と、碧は少女を見た一瞬、思った。
蒼白い死体が、縁側に転がっている、と見えた。
慌てて腕をとって脈を測ってみるが、規則正しく血が流れていた。というか、身体が熱くて、息もしている。
「寝ているだけか」
人騒がせな、と碧は思った。布団も敷かないで、縁側に横たわっているのだから、何か事件があったと思われても仕方がない。
寝崩された浴衣を着た少女は、小さく規則正しく寝息をたてていた。
改めて、横たわる少女を見遣る。
皮膚が薄く、白い。痩せているが部分部分は程良い丸みを帯びている。色が白くてまるで病人のようだ。閉じられた瞼に密に生えた睫毛は長く、神経質そうである。床に乱れて広がった髪は長く豊かで、身体の栄養を奪っていったかのように黒々と艶かしい。
眠り姫の様に、王子様を待っている姫君の様にも思える。目を閉じていても美しさが際立つ少女だった。
ん、と少女が寝返りを打った。浴衣の裾が乱れる。日に焼けていない白い脚は無駄毛がなく、産毛が光っていた。真っ直ぐに伸びた脚は、見るからに滑らかそうである。
青がついつい、しゃがみこんで脚をよく見ると、パンツが見えそうだった。
もうちょっと、と思って、碧はそっと浴衣を捲った。
「くち! ふぅ……ん……?」
くしゃみをしてから、寝ぼけたような声をあげて、少女は薄目を開いた。
「おはようございます。はじめまして幼子さん。碧と申しま……」
幼子――叶美月――は、じっと碧を見つめた。日本人形のように整っていて、黒い夜色の瞳だった。
「状況を把握致しました」
美月は薄く口端を歪ませた。
「はい」
「小説家先生とは貴方の事でしょう?」
「はい」
淡々とした口調で続けられる言葉に、「あ、怒ってる」と言う事は察しの良い碧ではなくても分かると言うもの。
碧はそっと、捲っていた浴衣を整えようとして……。
思いっきり庭に蹴り出された。




