第4話 拳士と隠者とトレジャーハンター
ギルドマスターから迷宮攻略の依頼を受けた俺と、俺の〈ガーディアン〉であるフールは、マスターから〈迷宮探索許可証〉を貰い、迷宮攻略の準備のため、ギルドの建物から外に出た。
首都であるここ〈城塞都市ウルク〉は、一言でいうと「戦士達の街」である。
都市の周りは高い城壁に囲まれ、王城を中心に蜘蛛の巣のように放射線状に大通りが伸びている。街の中には冒険者ギルドを始めとした様々なギルドが存在する。
更に王家を守護するために設立された、世界的にも有名な〈イシュタル騎士団〉がこの街を拠点に存在している。
そのため、商店街にはたくさんの武器屋や防具屋、宿屋にアイテム屋など、様々な店舗が軒を連ねている。
「ご主人様、これからどちらに向かわれるのですか?」
「ああ、ついてくれば分かるよ」
今俺達が居るのは、ギルドの建物が密集する通称・ギルド通りと呼ばれる東側の通りだ。
ギルドが密集しているだけあり、通りには冒険者御用達の武器屋や鍛冶屋などが並んでいる。
通りを歩いているのも、鎧を着込んだ冒険者やそれらを相手に声をかける売り子、木箱を山積みにした馬車ばかりである。
俺は通りを西側、つまり王城側に向けて歩いていく。
歩くこと数分、それなりに大きな二階建ての建物が見えてきた。
入り口の上にはでかでかと〈情報屋ギルド〉と書かれた看板が見えた。
「情報屋……ギルド?」
「そっ!その中でも〈トレジャー部門〉に用があるんだ」
〈情報屋ギルド〉。
その名の通り、このギルドは様々な情報を集め、人々に情報を提供するのを生業とする者達のギルド。
情報と言っても様々ある。
例えば、明日から一週間の天気の情報。
例えば、各地に生息する亜人や魔獣達の生息図や生態、現在の彼らの動向の情報。
例えば、株の値動き。
などなど、様々な情報を調査し、新聞を作成したり、人々に有料で公表するのが彼らの仕事である。
そして今回俺が用があるのは、迷宮の位置を記録し、冒険者と共に迷宮に潜って罠の発見や索敵を行い、迷宮の難易度などの情報を調べる迷宮探索の専門家。その名も〈トレジャー部門〉である。
ギルドの建物の中に入るとすぐに受け付けが見えた。
あまりこのギルドに来なかったので、入り口のすぐ近くにあるのは少し違和感があった。
冒険者ギルドの場合は入り口からすぐにおばちゃんが経営する酒場に入り、受け付けが酒場の奥にあるのだ。まあ、仮に誰かが冒険者ギルドに押し入ったとしても、冒険者全員で取り押さえられるようにするための構造だが。
情報屋ギルドは冒険者だけでなく一般人も立ち寄るから入り口に近いのかもしれない。実際、横に長い受け付けには、何人もの受付嬢が立っており、受付嬢の1人とおばちゃんたちが、天気予報や最近の旬の食材、子育てについてなどを質問したり、逆に情報を提供したりしながら談笑をしている。
「ようこそ情報屋ギルドへ!本日はどのようなご用件でしょうか?」
こちらに気づいた受付嬢の1人が笑顔で応対した。とりあえずそちらに近付く。
「冒険者ギルドの者です。迷宮探索のために、トレジャー部門の方に同行をお願いしたいのですが」
「分かりました。少々お待ちください」
俺のオーダーに応え、受付嬢が奥に引っ込む。少しして、受付嬢は分厚い名簿を持って現れた。
「お待たせしました。現在トレジャー部門で未契約の者は3人おりますが、何か指定はありますか?」
うーん、指定か……特にはないがやはりここは経験か?しかしこれから旅する以上人柄も重要なポイントだ。
どうしようか、と考えていたときだった。
「ん?あんた、冒険者か?」
と、後ろから声をかけられた。
振り返ると、そこには20代半ばくらいの男性がいた。
金の短髪に青い目、茶色で鍔の広い、確かテンガロンハット?だったかという帽子をかぶっている。薄い色の動きやすそうな服と袖のない上着に青いジーンズというズボン、腰には二種類の形の違うダガーと小さなポーチがついたベルト。
その姿は本で見た、西の大陸の〈アメルトリア共和国〉の開拓時代の「カウボーイ」とかいう人々に近い姿の男だった。
「ええっと……貴方は……?」
「おっと、こいつは失礼。まずは自己紹介からだな。俺はガイ。ガイ・クリードだ。トレジャー部門に所属する、しがないトレジャーハンターって奴さ」
そう言って男、ガイさんは帽子を取ってニッと軽薄そうな笑みを浮かべながら、簡単に自己紹介してきた。
「あ、はじめまして。冒険者ギルドのリュート・リードです」
「やっぱりな。うちのギルドに剣を担ぎながら来るのは、冒険者か強盗くらいだからな」
そう冗談を言ってガイさんは握手を求めてきたので、こちらもそれに応じた。
「やっぱりあんたもあれかい?迷宮攻略で俺達に用があるんだろ?」
やっぱり迷宮攻略の協力要請が冒険者ギルドから来ていたのかもしれない。なら話は早い。
「はい。失礼ですが、ガイさんはトレジャーハンターとしてのキャリアは……」
「ん?そうだな…………大体8年くらいかな。それなりに迷宮には潜っているぜ?」
「ちなみに今は契約とかは……?」
「いいや、今はフリーだぜ?」
「でしたら俺と契約してください。契約金も用意できています。報酬は〈宝具〉をギルドの支部や騎士団の駐在所に預けた際の報酬を人数分山分けでどうでしょうか?貴方の経験をどうか俺に貸してください」
「んー……良いけど、あんた、他に仲間は?」
「冒険者ギルドの仲間では、残念ながら誰もいませんでした。他のBランクの冒険者で一緒に来れそうな奴は居ませんし、Cランクは当然無理ですし上のランクはすでに高難度の迷宮の攻略中です。でも、1人だけ仲間が出来て……あれ?」
フールを紹介しようと先ほど彼女が居たところに目を向けるが、そこにフールは居なかった。
辺りを見渡すと、
「……ふむふむ成る程。では、やはりまずは胃袋から虜にする、と」
「そうそう!それにまだ若いんだろ?だったら尚更だよ」
「それに外堀!外堀から囲っちゃえば周りがたすけてくれるよ!」
「それから精の付くもんが良いよ!例えばジャイアントリザードの肉なんか入れたスープとかもうヤバいわよ!ダンナに食べさせたら一晩中ギンギラギンだったわ!」
「でしたらこのエロニア茸なんてどうですか?一口食べればどんな男性でもビーストに早変わりですよ?」
「何ですと!?よし!言い値で買いまぐっ!?」
「すいません!失礼します!」
おばちゃんたちと受付嬢の1人から何やら良からぬことを聞いていたうちのガーディアンの襟首を引っ付かんで離脱する。
危なかった。何が危なかったのか分からないが、取り返しのつかないことになる予感がした。
「すいませんガイさん。えーっと、こいつの名前はフールっていって……」
「げほっ、げほっ!もう!ご主人様ってば強引すぎですよー!」
「お前が怪しいこと聞いてたからだろ!」
「ははは。面白いねぇちゃんだな。んじゃあ俺も相棒を紹介するぜ。ハーミット」
「え?うおっ!?」
ギャーギャーと騒ぐ俺達を可笑しそうに笑ったあと、ガイさんは自分の背後に声をかけた。
すると、ぬぅっ、と突然ガイさんの背後から影が飛び出してきた。
新手の魔獣か!?と驚いたが、影をよく見ると、それが小柄な人間であることが分かった。
暗い紫色のローブで、すっぽりとフードで隠れていて顔や性別は分からない。ただでさえ小柄なのに猫背気味で更に小さく見える。フードの袖から覗く一切日焼けのない小さな手が、俺の身長より長く、先端がランプになっている木製の杖を握りしめている。
……ってちょっと待て。何でこの人物に気付かなかったんだ俺?先端がランプになってる長い杖なんて分かりやすい目印があんのに?
「悪いな、驚かせちまって。こいつただでさえ影が薄いのに俺の後ろに隠れるからな。ほら、前に出て自己紹介しろよ」
ガイさんに促され、ローブの人物はおずおず、いやビクビクと前に出てきた。
「…………………ぁっ……………はじめ……まして………………ハー………ミッ……トです……ぁ、あのあの………よろしく、お願い、します……………」
「あっ……と、リュート・リードです。よろしくお願いします」
……声小っさ!
蚊の鳴くような声とはこのことか。こちらの声まで小さくなりそうだ。
とつとつとした小さな声で、今にも消えそうな雰囲気とその小さな声から女性、しかも10代半ばか少し過ぎたくらいの少女といったところであることが分かった。
と、フールがそのローブの少女を見て、
「あれ?ハーミットさん?もしかしてガーディアンのハーミットさん?」
と言った。……って、え?
「え?あれ?……フール……ちゃん……?」
「あらら~、やっぱり!世界は意外と狭いですね~。お久しぶりでーす!」
「ひっ、ひさしぶり……!フールちゃん……!」
フールは実に気軽にハーミットの手を取り、ハーミットの方も先ほどより1.15倍くらい大きく、嬉しそうにフールと挨拶した。
……ってちょっと待て。まさか……。
「マジか!お前も持ってたのか、〈ガーディアン〉!」
そう言ってガイさんは右手を上げて袖を下ろして腕を見せた。俺も慌てて首にかけていた例のペンダントを取り出す。
ガイさんの手首には金色の腕輪が着けられていた。腕輪にはランプの形の彫刻が彫られており、ランプの真ん中に血のように真っ赤な宝石がはめ込まれていた。宝石に光が当たると「Ⅸ」という数字が宝石の中に浮かび上がった。
「こりゃあ、改めて名乗らせて貰ったほうがいいな。俺はアルカナ番号9の〈ガーディアン〉のマスターだ」
「ぎ、ギルガメッ………シュ王の…………宝具……〈ガーディアン〉の隠者……です……改めて……よろ、よろしくお願いします…………あなた、や……マスターに……ご迷惑をおかけしないよう………尽力します……」
☆
その後、俺はガイさんに契約金として銀貨50枚(※日本円にして5万円)を払い、契約書にサインし、無事ガイさんとハーミットという仲間を手に入れた。2人は後で今後の計画や親睦を深めるための食事会をするからと言って、酒場を予約するため別れた。
「まさか他のガーディアンのマスターにこんな早く会えるなんてビックリしましたね」
「だな。流石に予想外だったぜ」
ガイさんとハーミットについての感想を漏らしながら、俺達はウルクの守護神イシュタルを祀る神殿のすぐ近くにある建物にやってきた。
ここは〈ヒーラーギルド〉の建物だ。
〈ヒーラーギルド〉。
その名の通り、回復魔法の使い手達が集まるギルドだ。
このギルドに所属する者は、僧兵を始めとした神に仕える者や、回復魔法と戦闘技術を習得して冒険者や騎士とともに戦う者達が集まる。
このヒーラーギルド。実は冒険者ギルドと同じか少し古く、ギルガメッシュ王の時代から存在している。
何故、そんな時代から存在するかと言うと、このギルドの創始者がギルガメッシュ王の正妻であると言われる〈原初の巫女〉(名前はどの歴史書にも乗っていないので不明)だからだ。
そしてこの原初の巫女がギルドを立ち上げた時に言った言葉は、今でもこのギルドの合い言葉となっている。
その言葉とは、
「救いを求め、さまよう者よ。まずは極めよ。健全なる肉体を。さすればその身に、その腕に、健全なる魂宿り、悪しきを討ち、人を守る者とならん」
と、言うものである。
……その言葉は正にこのヒーラーギルドを表すものだった。なにせ……
「すごく、筋肉です」
「いや、フール。気持ちは分からんでもないが自重しろよ」
「だってどこもかしこも筋肉祭りじゃないですか!」
小声で言い合うフールと俺。
いや、確かにかなり大きな建物の中、案内の人や窓から見える中庭で、筋トレに勤しむ僧兵の集団も、腕に大量の本を抱えたメガネの人達も、皆さん羨ましいくらい見事な筋肉の持ち主達だった。受付嬢なんて神官服の上からでも分かるような無駄のない、筋肉の隆起が見えた。
実に羨ましい。俺もあれくらいの筋肉が欲しいのだがなかなかつかないのだ。何故だろう?
「まあ、あの巫女様が創始者なら当然ですかね……あの人、私と同じくらい細いのにパンチ一発で山みたいなゴーレム沈めたことありましたし。『あいつだけは敵にまわしたくない』ってあの腐れ王も言ってましたね……」
とフールが言った。
……ああそっか。こいつ、ギルガメッシュ王の宝具だから原初の巫女にもあったことあんだな。
そんなことを考えながら受け付けに近づく。
「ヒーラーギルドにようこそ。本日はどのようなご用件でしょう?」
「冒険者ギルドの者です。迷宮探索のため1人雇いたいのですが」
「はい、では少しお待ちください」
そう言って受付嬢の人は名簿をめくり始めた。
その時、
「これ、落ちていたぞ」
と言う声が後ろ、いや頭上から聞こえてきた。
驚いて振り向くと、まず目に映ったのは、俺の財布を乗せた大きなゴツゴツとした手と丸太のような太い筋肉の腕だった。目線を上に上げると、20代後半か30代ほどと思われる大男が立っていた。
でかい。とにかくでかいの一言につきる。
恐らく190cm、下手すると2mあるのではないかというレベルだ。
焦げ茶色の短髪に茶色の目、服装は詰め襟で足首近くまで体を覆っていて、藍色で鳥の意匠がされている服だ。腰から下にスリットが入っており、そこから黒いズボンが見えた。
これは確か、東の〈大蓮帝国〉の服だな。友達がよく見てた大蓮映画で出てきた服だと思うが……。
「あ、ありがとうございます」
俺は大男から財布を受け取る。少し触れた手は、まるで日向の岩のような印象を与えた。
「気にするな。無くさなくて良かったな」
それだけ言うと大男は立ち去ろうとした。
「あ、ヤン!丁度良かった、貴方を呼ぶところだったのよ!」
そう言って、受付嬢の人は大男を呼んだ。
「お客様、この人はヤン・キュウケン。回復魔法、武術ともに腕が良く、このギルドでもそれなりの実力者です。ヤン、こちらの方は冒険者ギルドの人よ」
「……冒険者か」
「は、はじめまして、冒険者のリュート・リードです」
「私はリュート様の従者。フールと申します」
う、上から見つめられると少し緊張するな……。フールはまったく緊張してないだけど。
「今紹介された通りだ。楊 丘倹。ヤンで構わない。よろしくな」
大男、ヤンさんがその太い首を下げ、軽く会釈してきた。
俺はその後、ヤンさんに迷宮攻略とその理由について説明した。ヤンさんは無言でこちらの話を聞いてくれた。
「と言う訳で、俺達は迷宮攻略の旅に出るんです。ですのでヤンさん。一緒に迷宮の攻略をしてくれませんか?今いる仲間にヒーラーがいないんです。ですから来ていただけると嬉しいのですが……」
と、ヤンさんに頼む。ヒーラーであれば誰でも良いが、受付嬢からオススメされるような人だ。戦力はあればあるほど良い。
「……ん。分かった。俺も迷宮の攻略をしたことが無い若輩者だが、これも経験。こんな俺で良ければ喜んで同行しよう」
そう言って、ヤンさんは握手を求めてきた。
「はい!ありがとうございます!」
俺は固く、ヤンさんの手を握った。
これでヒーラーが仲間になった。迷宮攻略の準備は、ちゃくちゃくと進んでいる。
☆
「ここか?」
「は、はい……こここ、このお店、です……」
ヤンさんと契約したあと、ハーミットがわざわざヒーラーギルドまでやってきて、食事会の準備が出来たと行って、案内にきた。
……のは良いのだが、最初まったく存在に気付けなかったので、とてつもなく驚いた。
なにせ突然肩をたたかれて振り返ったら、すぐ目の前にフードのお化けみたいに佇んでいたのだから。
「さ、さっきは……ごめんな、さい……声かけて、も……気付いて…………もらえなかったから……」
「いや、俺が気付かなかっただけだし、驚き過ぎだった。ごめんな」
「まあ、フールさんの隠密性は、ガーディアンでもトップクラスですからねー」
「……後ろにいた俺にも、目の前にいきなり現れたように見えたぞ。もはや一種の特技だな」
そんなことを話ながら、俺達は〈W .K .O.〉と言う名前の酒場に入った。入ると、奥のテーブルで既にガイさんがビールジョッキに口を付けているのが見えた。テーブルに近づくとガイさんはすぐにこちらに気付いて手を軽く上げた。
「よっ。待ってたぜ青年。悪いが先に一杯やらせて貰ってるぜ。……お?後ろのでかい奴は?」
「はじめまして、楊 丘倹だ。よろしく」
「おう、俺ぁガイだ。情報屋ギルドのトレジャーハンターをやってる。しくよろ~」
ヤンさんの会釈に対して、ガイさんはひらひらと手を振って答えた。
そんなやりとりを見ながら、俺達はそれぞれ席に着く。……のは良いのだが……。
「……フール、もう少し離れてくれないか?」
近い、めちゃくちゃ近い。
俺達は丸い円形のテーブルに座っているのだが、フールは何故か俺の左に座り、肩と肩をピッタリくっつけてきた。
「えー?良いじゃないですかご主人様~ん♡」
と言って今度は俺の腕に絡みつき、挙げ句スリスリと頬をすり付けてきた。
「いやマジで止めろそういうの!ほら!店の人たち見てるし!」
「そんなの無問題です!むしろ私達のラブラブっぷりを見せつけちゃいましょう!」
いや嫌だよ!だってさっきから舌打ちとか「爆ぜろ」とか「氏ね」とか物騒な言葉と殺気が籠もった視線が飛んできてんだけど!
「そ、それに、お前その……あ、当たってるっつーか……」
「ぐふふふ~。当ててるに決まってるじゃないですか~。もう!こんな事言わせるなんてご主人様のムッツリさ~ん♡」
……今最っ高にイラッと来たけど、我慢だ俺。公衆の面前で女の子をはたくなんて紳士として失格だ。
「ム!今ご主人様の考えが読み取れました!『今は仲間と親睦を深めるための食事会。しかし今、俺は酒の酔いに任せて君に酔いたい』っと!ふふふ!このフール、ご主人様のお考えはお見通してなのです!大丈夫ですよご主人様。私の手練手管でご主人様を骨抜きにして差し上げます!何なら!今すぐ!近くの宿屋で!ご覧に入れて差し上げ痛あっ!?」
……思わずチョップを脳天にヒットさせてしまった。反省はしている。だが後悔はしてない。
ヤンさんが「おしいな。もう少し手首のスナップを効かせていれば完璧だった」と言っているが気にしない。
そこにタイミングよく、給仕の人がビールと果汁を持ってきてくれた。俺はビールを受け取ると立ち上がり仲間たちを見回した。
「えー……ごほん!……皆、俺と共に迷宮攻略の旅にでることを了承してくれてありがとう。これから俺達は世界中をめぐって迷宮に入る。……大変な旅になるだろう。命の危険もある。でも!このウルクで出会い、若輩者の俺に力を貸してくれると、皆は言ってくれた。だから俺は、冒険者リュート・リードはここに誓う!皆のために俺も死力を尽くす!不甲斐ない俺だが、共に迷宮攻略をなそう!」
俺は仲間たちに宣誓する。
加護の無い俺だけど、絶対守ってみせる。俺に命を預けてくれた、仲間たちを!
「……ん。了解だリーダー。俺も俺のベストを尽くそう」
「だな。あんまり気張り過ぎんのもいけねぇが、なに、俺達がフォローしてやんよ。なっ、ハーミット?」
「は、はい……!……私の力……弱いです……けど……頑張り、ます……!」
「ご主人様~!ヤッパリ貴方様は最っ高です!このフール、例え火の中水の中!どこまでもお供させていただきます!」
「……ありがとう、皆!じゃあ、今後の俺達の良き旅に、そしてここで出会えたことに!乾杯!」
『乾杯!』
ジョッキがぶつかり合う音が、高らかに鳴り響く。
さあ、明日は旅の最終準備だ。
それが終えたら、ついにこの果てしない旅の始まりだ!
作中の世界の貨幣価値について
①金貨……約10万円に相当する
②銀貨……約1000円に相当する
③銅貨……約50円に相当する
④真鍮銭……約5円に相当する
バビリニア王国の首都・〈城塞都市ウルク〉について
作中でも語られていた通り、「戦士達の街」。
街は高さおよそ20mの城壁に囲まれている。
街の中心に王城があり、その近くに〈情報屋ギルド〉や〈商業ギルド〉、〈ヒーラーギルド〉の支部や店舗、そして住宅地が集中し、東西南北の城門近くには〈冒険者ギルド〉や〈イシュタル騎士団〉の兵舎が存在する。
都市の守護神は女神イシュタル。
ちなみに宗教的な中心地は、ここではなく副都である〈バビロア〉。