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ギルガメッシュの迷宮  作者: グミ屋
1/5

第1話 冒険者リュート

初投稿です。

下手な作者ですので、誤字・脱字、お気づきになったことがありましたら、ご指摘お願いします。

 その昔、世界は争いに満ちていた。

 繁栄のため。

 自己の利益のため。

 理想のため。

 愛する国のため。

 真の平和のため。

 人類は様々な思惑を胸に、武器を取り、血を流し、屍を積み上げ、争いを続けた。


 しかしある時、とある国で王が生まれた。

 王は言った。


「俺はこの国の王ではない。何故なら俺は、この世界の王だからだ。たかがこんな国一つで、満足する筈がない」


 そして、王は次々他国を征服していった。

 ある時は永久凍土に覆われた白の国を。

 ある時は竜人が支配する天空の国を。

 また、ある時は樹の海に隠れた妖精の国を。


 王は自ら前線に立ち、獅子奮迅の活躍を見せた。更に王は、自らの従属に不思議な力を持つ道具・〈宝具〉を与えた。


 やがて王は、真の世界の王となった。そして世界は王の名の下に一つとなった。


 ある者は言う。かの王は、悪魔の如き暴君であると。

 ある者は言う。かの王は、賢者の如き名君であると。


 世界を征服することで、この世から争いを無くし、今なお人々から称えられる覇王。

 彼の名は、〈英雄王・ギルガメッシュ〉。


 ☆


 木製の大きな両開きの扉を開くと、ムワッと酒と煙草と、あとなんか分からない臭い、更に建物内の喧騒が俺に迫ってきた。

 ……なんかこの臭いとかを感じると落ち着くなぁ。最初はくさいと感じていたんだけど。先輩曰く、この臭いになれたのは、冒険者稼業になれてきた証、らしいが、そんな実感は今のところ無い。

 俺は扉をくぐり、建物の中に入る。一仕事終えた飲んべえ共がテーブルで酒を飲みながら騒いでいるの横目に、奥のほうにあるカウンターに近づいた。

「おばちゃーん、今戻りました」

「あいよ、ちょっと待ってな」

 そう言うと、カウンターの奥から、縦にも横にも大きな中年の女性が現れた。

「おばちゃん、これが依頼のキラービーの針20本、んでこっちが途中で見つけたルナ草5本です」

「どれ、ひー、ふー、みー、よー…………うん、ちゃんとあるね。ほい、これが報酬だよ」

 俺はここ、〈冒険者ギルド〉の受付嬢兼酒場のオーナーであるおばちゃん(本名はギルマス以外知らない)に、長さ30cmはある鋭い針を20本、魔力を回復させるポーションの材料になる薬草5本を渡し、銀貨が入った袋を受け取った。

「しかしあんたも大分出来るようになったねー。単独でビーを倒せるようになったんだから」

「いやー、そんなこと無いですよ。皆みたいに魔法が使えればいいんだけど、俺〈加護無し〉だから」

「まあ、確かにあんた最初は全然だったしねぇ~。魔法が使えないのに冒険者やろうと思う奴なんて、あんたくらいじゃないかい?ま、あたしも加護無しなんてあんたしか見たこと無いけど」


 俺こと、リュート・リードは、この〈バビリニア王国〉の首都・ウルクにある冒険者ギルドに所属する冒険者だ。冒険者とは、人々の依頼を受けて、魔獣の討伐や一般人では危険な場所にある薬草などを採取するのが、仕事である。またこの他にも、伝説の王、ギルガメッシュ王の宝や神秘のアイテム・〈宝具〉が封印されている迷宮ダンジョンの攻略などを行う。そして冒険者は4つのランクに別れ、ランクが上なほど難しく、報酬が良い依頼を受けられる。

 因みに俺はこのギルドに3年所属しているが、未だに一番ランクの低いCランクである。


「ちょっとリュート!」

「ん?おー、お前も依頼終わったのか?」

 振り返ると、茶髪をツインテールにした女冒険者、エリナが大股で近づいてきたので、片手をあげて答えた。

「おー、じゃないわよ!あたしも行くっていったじゃない!」

「えー?んなこと言われてもな~……」

 今回の依頼を受けた時、「私も行くわ!あんた一人じゃ不安だからね!」なんてこいつに言われたが、俺だって冒険者だ。先輩からキラービーを倒す方法を聞いたし、魔法が使えないなりに俺だって工夫して戦うくらいできる。それに……。

「お前らの邪魔しちゃ野暮だろ~」

「は、はぁ!?」

「だってほら。レオンから依頼、誘われてたじゃん」

 俺の依頼についていくとエリナが言った後、レオンがエリナに話しかけていたのを目撃した。

 実はこいつが、うちのギルドの注目の若手冒険者として大活躍中の、Aランク冒険者のレオンとデキてるという噂を聞いたのだ。見た目も実力もダントツのレオンと、これまた見た目が良いエリナが一緒にいると、実に絵になる。そしてレオンはよくエリナと話しているので、あながち間違いではないだろう。

 エリナは俺の同期で、Bランクでありながらかなりの実力があり、また面倒見も良いので後輩から慕われ、未だにCランクの俺の依頼を手伝ってくれる良き友人だ。 

「お前も俺なんかと一緒より、恋人と一緒のほうがいいだろ?」

「バッ!何でそんな話になんのよ!?レオンとあたしはそんな関係じゃないし!」

「またまたぁー、素直じゃないなーお前も」

「バッッカじゃないの!?大体なんでそんなことになってんの!?」

「え?プロポーズされたって聞いたから……寧ろしたのか?」

「ちっがーう!」

「ぅおーい、リュート~!」

 その時、野太い声が聞こえた。声が聞こえた方を向くとよくお世話になる巨漢の先輩がノッシノッシ近づいてきた。俺はまだギャーギャーうるさいエリナに軽く謝ってから、先輩のほうに小走りで近づいた。

「何ですか先輩?」

「ああ、ギルマスが呼んでるぞ。マスタールームに行ってこい」


 ☆

 

 現在俺は、ギルドの建物の奥にあるマスタールームの前にいる。基本的にここには何らかの報告か、この部屋の主であるギルドマスターに呼ばれる以外には、あまり立ち寄らない場所だ。そのためか、少し緊張しながら、俺は扉をノックした。

「マスター、リュート・リードです」

「おう、入れ」

「失礼します」

 部屋の主から許しを得た俺は、部屋に入る。

 ……いつ来ても思うが、すごい部屋だ。

 おおよそ20メートル四方の部屋の壁には、所狭しと大量の武器が飾られている。しかしそれらは全て飾りものではなく、間違いなく俺が愛用するロングソードなんかより、遥かに切れ味も価値も高いものばかりだ。そしてこの部屋の主は、大量の書類が置かれた、これまた高級そうな机の上に足を投げだした姿勢で、馬鹿でかい斧を磨いていた。

「突然呼び出してすまなかったね」

 そう言って、マスターは斧から俺へと視線を移した。

 短く切りそろえた金髪と顔を横に切り裂く古傷、そして猛禽類を思わせる鋭い碧眼の女性。

 彼女こそ、冒険者ギルド・ウルク支部のマスターである。

「いえ。それより、何か依頼ですか?」

「ああ、そうだよ」

 そう言ってマスターは机の上に置いてあった書類を手に取った。

「リュート、確かお前は〈加護無し〉だったね」

「は、はい。そうですが……」

 〈加護無し〉。というのはつまり、魔法を使えない人間をさす言葉だ。

 この世界では、人に分類される種族は生まれた瞬間、この世界の力の循環を担う霊的存在である〈精霊ウトゥック〉から加護を受ける。精霊から加護を受けたものは皆、精霊から力を借りて、魔法を使うことが出来るようになる。しかし、1千万人に一人の確率で加護を受けられなかった者が現れる。それが、俺のような〈加護無し〉だ。何で加護を受けられないのかは未だに判明していない。ある宗教家は、前世で悪行を重ねた罰であると説いたらしい。が、それを証明する手立てはなく、原因は不明らしい。

「まったく酔狂な奴だねぇ。日常生活でも不便だってのに、わざわざ冒険者になるなんて」

「……良く言われます」

 実際、魔法が使えないから魔動ランプ一つ付けられなくて苦労するが、それも一手間掛ければ、何とかなるものは何とかなるものだ。冒険者稼業もそうだ。先輩達に魔法を使わなくても魔獣に勝てる方法を教えてもらい、魔法が使えなくても剣だけでも負けないように訓練してきた。それに、手伝ってくれる仲間もいる。だから、苦しいことだらけだが、何とか俺は冒険者を続けられている。

「ふむ……まぁだが、お前の努力は認めよう。そしてそれは、実を結んだようだぞ?」

「え?」

「単刀直入に言おう。私とSランクどもとの会議の結果、Cランク冒険者、リュート・リード!」

「は、はい!」

「お前に昇格試験を受ける権利を与える!」

「……え?」

 ……何だって?

「し、昇格試験……ですか?」

「ああ、つまりお前はBランク冒険者になれるかもしれないってことだ」

「!ほ、本当ですか!?」

「無論、試験となる依頼を成功したら、だがな」

「あ、ありがとうございます!Cランク冒険者リュート・リード!昇格試験を受けさせていただきます!」



「リュートの昇格にかんぱ~い!」

『かんぱ~い!』

「まだ昇格してないけどね」

 マスタールームから出た後、呼びに来てくれた先輩が皆に声を掛け、俺のお祝いをしてくれた。

 同期の何人かや後輩数名もお祝いしてくれた。目の前のテーブルには大量の料理が並べられている。周りの飲んべい達も一緒になって騒ぎまくっていた。

 ……本当に、長かったな~……。

 俺は今までの3年間を思い返して、ため息をついた。

 このギルドにやってきて3年。加護無しながらも必死に依頼をこなし、どんどん強くなっていく同期の話を聞きながら、悔しい思いをしながら頑張ってきた。

 ……全ては、こんな俺を育ててくれた孤児院のため、そして……

「なあリュート、お前占いってやつを信じるか?」

「……?まあ、人並みには。何だ?お前、占いできんの?」

 酒が回り、宴がいよいよ盛り上がってきた時、ふいに同期の男がそう話しかけてきた。

「おうよ。最近タロット占いにハマってな。丁度良い機会だ。試しにお前を占ってやるよ」

 と言いながらポケットからカードの束を取り出した。特に断る理由も無いので、お願いした。

「なにを占うんだ?恋愛関係か?」

「んー……じゃあ今度の依頼の成功について頼む」

「よーし分かった」

 男は俺にカードを一枚一枚見せたり、テーブルにバラまいてシャッフルしながらブツブツいったりしたあと、またカードを集めて揃えると、裏返しで扇状に広げて

「さあ、この中から一枚選びな。それがお前の運命のカードだ」

 と、カッコつけながらいった。俺はちょっと笑いそうになるのをこらえた。

「ちゃんと当たんのかこれ?」

「なめんなよ。今100人くらい占って大体6割当たってんだぜ」

「微妙な数字だな……」

 そう言いながら、俺はなんとなく真ん中より左を選んでカード引いてみた。

 裏返すと、カードにはみすぼらしい服装で荷物を担いだ男と白い犬が描かれていた。番号は0。下の方に〈The Fool〉と書いてあった。

「お、愚者の正位置か。なかなかいいんじゃないか?」

「そうなのか?」

「ああ、そいつは変化や始まり、可能性を表してんだ。今度の依頼は、お前にとって新しい変化の始まりってところだな」

「変化の始まり?」

「つまりは依頼は大成功!お前はBランク冒険者になれるってこった!」

 と言って男は大笑いしながら煙草に魔法で火をつけた。

 ふいに、俺は何故か嫌な予感を感じた。突然のチャンスに不安になったのかと考えながら、俺はなんとなく服の胸元を握りしめる。そこに、布と違う硬質な感触を感じた。服の下に隠している「大切なもの」を握りしめる。これを握りしめると何故か落ち着くのだ。

 ……うん、大丈夫。絶対上手くいくに決まってる。そして、俺もBランク冒険者になるんだ!

 

 この時の俺はまだ知らない。この依頼から始まる、俺の運命を。そして、「彼女」のことを。

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