伝説の木の下で
『ごめんなさい。桜次郎君の事は凄く気の合う友達としか見れないの。』
(友達ってとしかって...。)
『それに桜次郎君のおうち神社でしょ?私、神社やお寺ってちょっと苦手で...。』
(そー言えば梨々ちゃん修学旅行でも寺社は避けてたな~。家庭の事情なのかな~?)
『しかも一番の理由は私達の身分の違いが...。』
(えっ!?梨々ちゃんってそんな事言う子なの?)
『だからホントごめんなさい。高校は違うけれどいつまでも友達でいてね。』
(これってもう絶望的だよね...。)
と彼女は丁寧に断り頭を下げるとその場から走り去ってしまった。
桜次郎はその走り去る後ろ姿をぼんやりと眺めながら
「やっぱり梨々ちゃんは後ろ姿も可愛いな~。」
と呟きながら姿が見えなくなるまで眺めていた。絶望的な断られ方をしたにもかかわらず...。
たった今玉砕した少年の名前は【熊野 桜次郎】一方、走り去って行った少女の名前は【山縣 梨々】この2人が意外にもこの後、恋人同士に発展するとはこの時には、当人達はもとより、周りもまだ誰も気付いていなかった。唯一人を除いて...。
その一人はこの様子を遠くから見つめていた。校舎の教室の窓から見つめる大人の女性。彼女は彼等の運命を把握している唯一の人物であり、特に桜次郎の運命をあざ笑うかの様に、またその波乱に同情するかのように少し寂しげな表情をしていた。
また校庭の片隅から見つめる同級生の少女の姿もあった。
彼女もまたこの後、彼との運命に巻き込まれて行くのだが、そんな風になるとはこの時は思ってもいなかった。