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夢とあの人と返答

 ぼんやりとした景色の中に、瑞高はただよっていた。

 瑞高は経験からすぐに夢の中だと気づき、そのまま成り行きに任せた。

 世界は無音で白一色だった。

 そのうち、ぼんやりとしていた夢の世界が形を成してきた。

 白い机に白衣を着て、印象的な髭を生やした先生らしき人物。

 それから、小さな子供を膝に乗せている女、その横に座っている男。

 その世界は白黒だったが、音は鮮明に聞こえた。


「本当に、本当に異常は見当たらないんですね?」

「ええ、検査結果ではそう出ています」


 勢いに押され、両手で落ち着くように伝えながら、髭の先生は答えた。


「それではなんですか? この息子の謎の……力は」


 男は子供の父親のようだ。となると子供を膝の上に乗せている女は母親だろう。


「そのことなんですが、こちらの方で長期観察、という形をとらせていただきたいのですが」

「え……?」


 その光景がぼやけていき、音も静かに消えていった。

 無音の世界に取り残された瑞高は体を動かそうと思ったが動かなかった。

 まるで重いものに乗られているような、そんな圧迫感で体がまったく動かなかった。

 そうこうしているうちに、また場面が構成されてきた。

 その場面は、スタンドライトの明かりに照らされている机で、頭を抱えている髭の先生だけのようだ。


「まったく、本当に不思議だ。なぜなんだ……」


 髭をわしゃわしゃとしながら、うわ言のようにさらに続ける。


「なぜ触っただけで睡眠が――」


 そこで音声も光景も急に消え、代わりに聞き覚えのある声が夢の世界を大きく揺らした。



「先生! 先生! 起きてください!」


 瑞高に覆いかぶさるようにして寝てしまった居貝を起こそうと、空は必死に大声を出す。


「先生!」


 その一言が腰に響いたのか、痛そうに顔を歪める。

 今、保健室で起きているのは空だけだ。

 後藤田は、居貝が寝たのを見るや否や、そそくさとどこかへ逃げてしまった。


「まったく、本当に世話が焼けるよ!」


 いつものあの言葉を使おうとして、急に空は小学校時代を思い出した。

 元気に走り回っていた空と瑞高。だが、ある日突然眠るようになってしまった親友。

 そんな親友を起こそうと、体をゆすったあの夏の日……。


「一体……どうしちゃったんだろうな」


 そこで我に返り、瑞高の耳元でささやこうと顔の近くへ行く。

 だが、その道を大きな図体の居貝が塞いでいるため、どうやっても耳元へたどり着けない。


「あーもう! これじゃあ、あの人の名前の効果が薄くなっちゃうよ!」

「あの人って?」

「そんなの、銘乃めいのさんの名前に決まっているじゃないか!」

「ふーん……」


 固まる空。恐る恐る会話の相手を確認をする。

 その相手は、黒く、さらさらとしているストレートの髪の毛を、肩を少し過ぎたくらいで整えてあり、眉毛もまつげも、しっかり手入れされている。

 目は曇りがなく、優しい眼差しで空を見つめていた。

 鼻は小さく、顔の構成を邪魔していない。唇は潤いに満ちていて、柔らかそうだ。

 身長は百六十センチ程度、体重はもちろんわからない。

 体系は中学生三年生にしてはしっかりと成長していて、少しふっくらとしている。

 さらに学級委員というおまけ付きで、全校の男子からも女子からも憧れられている。

 もれなく、瑞高もその一人だった。ちなみに、瑞高と空と同じクラスである。


「私の名前にどんな効果があるの?」

「え? ああ、あのさ、えっと……」


 慌てふためいてベッドの角にかかとをぶつけ、体勢を崩して居貝の体に触れそうになった。


「危ないっ!」


 銘乃は体に似合わぬ機敏な動きで手を伸ばし、倒れそうな空を引っ張る。

 その勢いで空は銘乃にぶつかりそうになったが、それを華麗に銘乃が避けたので、空はカーテンに顔を埋める形になった。


「え、今の声って」


 驚いて起きた瑞高は、自分の上に居貝が寝ているのを見てさらに驚いた。

 だが、目の前にいる人物を見て、驚きを通り越し硬直した。


「あ、おはよう。瑞高くん」


 右手を軽く振りながら、はつらつとした笑顔を浮かべる。

 その光景が瑞高にとってあまりにも至福だったのだろう。

 ベッドから飛び起き――そのときに居貝を蹴っ飛ばし――普段の瑞高からは想像もできない速さで銘乃の前にかしこまった。


「ちょっと、どうしたの? そんなにかしこまらないで」


 突然そんなことをされた銘乃は戸惑い、顔を上げるように促した。

 その後ろで、空が居貝の様子を見ていた。居貝はまだ眠っているようだが、蹴られた跡がくっきりと顔に残っているのを見て、空はあやうく吹き出すところだった。


「銘乃さん、どうしてここに?」


 上ずった声だが丁寧に質問する。

 それに対する銘乃の返答は意外なものだった。


「私、あなたに――瑞高くんに会いにきたのよ」


 その一言で、瑞高は完全に停止し、空は「えーっ!!」と叫び声を上げたが、居貝は大きないびきをかくだけだった。

夢の中って本当に良くわかりませんよね。

最近はうどんのつゆがもずくになる夢を見ました。

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