教頭と腰と大声
長い間が開いてしまいました。
久しぶりなので至らない点が大量です。
厳しいご指摘をお待ちしております。
「まったく! 近頃の若いやつらは……」
見事な坊主頭が職員室の照明の光を反射し、鈍く輝いている。
肩幅が広く、夏の太陽に焼かれたこげ茶色の肌のその大男は、青いジャージを着た細い男を、あきれた目で見すえている。
「これで何回目だと思っているんだ! 授業中に教師が寝るなど言語道断だ!」
迫力のある、うなるような大声が、職員室全体を緊張感で支配する。
この大男の名は居貝。この学校の教頭だ。
そして、この目に見えそうな怒りの的になっているのは、華奢な体をしている後藤田だった。
この二人は対極の存在だ。居貝は一見すると体育の教師に見えるが、担当教科は数学だ。
居貝は生徒から恐れられ、恨まれている。だから居貝の授業はいつも静まり返っている。
運がいいことに、瑞高のクラスは数学担任が違う先生だった。
「それは……弁解の余地もありません」
眼鏡を直し、右手に持つ名簿もきまりが悪そうに位置を直した。
居貝は机を叩き、見下す目つきをより一層鋭くした。
「どうせ、この後の言葉は『ですが、居貝先生も、会えばお分かりになると思います』だろ!」
「その通りです……」
うつむき、左手を口に当て、消え入るように後藤田は肯定した。
その姿を見た居貝は、激しく歯ぎしりをし、さっきよりも強く机を叩きつけた。
だが、すぐに妙に落ち着きを取り戻し、静かな声音でこう言った。
「いいだろう。会ってやろう。その《眠りに誘う生徒》にな」
「まったく、もう! 瑞高は本当に手のかかる!」
まるで母のような口ぶりで、瑞高の寝る保健室のベッドの横でつぶやく。
その部屋にはベッドが3つ。先生が座る回転する椅子が1つ。その他薬品などがたくさんしまわれている棚があった。
カーテンに囲まれているベッドの周りは、落ち着ける、居心地の良い空間だった。
「……昔はこんなんじゃなかったのになぁ」
椅子に座りくるくる回りながらカーテンと瑞高を交互に見る。
そしてどんどん回転速度を上げていき扇風機の中くらいの速さになった。
その時、いきなりカーテンがさーっと開かれた。
そのことに驚いた空は椅子から弾き飛び、腰を強く打ちつけた。
「痛い! 痛い痛い痛い!」
腰を曲げて床の上で固まる。
だが、カーテンを開けた主――居貝はそれには気づいていないようだ。
その傍らにいる後藤田も、顔色を悪くしているだけだった。
「こいつがその生徒で間違いないな!」
「はい……。その通りです……」
「そうか、じゃあ触ればいいんだな!」
どうやら、居貝は瑞高に触ろうとしているようだ。
それに気づいた空は全力で止めようとしたが、腰が痛く声が出せなかった。
その間に居貝は瑞高に触れて大きく息を吸い込んだ。
居貝の大声は、運動場の端から端までゆうに届いてしまうほどの爆音だ。
自慢のその爆音で、瑞高を飛び起きさせようとしているようだった。
一瞬の沈黙の後、居貝の口から息が漏れた。
その息はただ静かで、轟く音は何もせず、居貝が崩れ落ちるだけだった。
ちなみに、僕は保健室に3回お世話になりました。




