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野球と犬猿と空

「っと! ギリギリ……セーフ!」


肩で息をしながら、安心した顔で空は汗を拭った。

運がいいことにまだ体育の先生は運動場に来ていなかった。


「空……ちょっと、飛ばしすぎ」


少し遅れて運動場へ着いた瑞高は、両膝と両手を地面についた。

流れ落ちる汗の量が尋常ではない。睡魔はどこかへ吹き飛んだようだ。

二人が到着したのを見計らったように、先生が運動場へ出てきた。


「では、授業を始めます」


その先生は、体育の先生とは思えないほど華奢きゃしゃな体に、ぴったりと張り付いた青いジャージ。

それに度が強そうな丸い眼鏡を掛けていた。体育というよりは数学の先生という雰囲気だ。


「気をつけ。後藤田ごとうだ先生、よろしくお願いします」


男子学級委員があいさつをし、他のみんなも同じようにあいさつをした。


「はい。ではいつもどおり点呼を行います」


無駄のない動作で右手に持っている名簿を開いた。

その後、1番から順に――出席番号は五十音順のあ行からである――名前を呼んでいった。

そしてか行に入った。


「11番、希ノきのはし 瑞高くん」


瑞高を見て一瞬固まる。


「どうしたんですか、そんなに汗を流して」


本当に心配しているのだろうか。感情がまったくこもっていない。


「はい、少し……」


まだ息が上がっている中、瑞高は努めて平静に答えた。


「問題ないのですね」

「はい」


後藤田はそんな確認を取っただけだった。

そのまま、簡単な受け答えが続いて、空の順番がやってきた。


「24番、道坂みちざか 空くん」

「はい。先生! 今日は野球ですよね? だったら早くやりましょう!」


点呼に応じると同時になかなか始まらない授業に拍車を掛けた。

クラスの運動が出来そうな男女が賛同し、そうだそうだと口をそろえた。

だが、後藤田は眼鏡を直しただけで急ごうとせず、点呼を続けた。

空達が喚いたが、後藤田はとうとう最後の一人まで確認し終えた。

そして、淡々と今日の授業についての説明を始めた。


「今日の授業は野球です。男女別でチームを作り、それぞれで進めなさい」


それだけ言うと、笛を高らかに吹き鳴らし、自分は日陰へ移動した。

そのとき、もう1つの人影も日陰へ後藤田に隠れるようにして移動していた。

この先生は最初は細かいが、授業に関しては大雑把というか、適当である。

普段なら誰かが不満を漏らすのだが、今回は野球ということが、そんな事を弾き飛ばした。

野球が好きだからではない――別に嫌いというわけでもないが――野球のチームを自分たちで選べるからだ。

真っ先に声を上げたのは、先ほど空に賛同した男子だった。


「今日は俺たちのチームに入ってくれるよな、空!」


真っ直ぐ指を指された空は満面の笑みで頷いた。


「ちょっとまったぁ!」


次に声を上げたのは、始めのあいさつをした学級委員男子である。


「今回は俺たちの方に入るほうが平等だろ。そう思うよな? 空」


大げさなジェスチャーを交えながら説明する。

そこに、最初に誘った男子が割って入ってきた。


「また、お前か! 毎回毎回、俺の邪魔ばっかしやがって!」


真っ直ぐ指で指して、空を背後に庇った。

指を指された学級委員男子は大きなジェスチャーで対抗する。


「邪魔も何も、いつもお前の方ばかり行くから、平等にしようと思っただけだ!」


学級委員らしい宣言をしてこちらも指を指した。


「何だと!」

「やるかぁ!」


二人の間に火花が散る。

実はこの二人、昔から犬猿の仲で、事あるごとに対立している。

ちなみに、学級委員が犬芭いぬばいおり、賛同男子が猿唐えんとう新羅しらぎである。

そんな二人を見ていた瑞高が申し訳なさそうな顔をしながら、賛同男子――新羅に謝った。


「ごめん、新羅。今日は庵のチームに入るね」


喜びの声と、諦めの声が混ざり合い、不思議な和音が奏でられた。


「そうかぁ……わかった」


自分のチームを振り返りながら新羅が呟いた。


「今回はあっちの勝ちか」


そして、チームのリーダー、庵と新羅はジャンケンをし、新羅チームが先攻を取った。


「先攻をとってもなぁ……」


新羅はバッターボックスに立ちながら首を振った。

ピッチャーマウンドには空が立っている。キャッチャーは庵だ。

新羅も庵も、そして空も野球部だ。

両チーム全員がプレイボールと大きな声で開始を告げた。

その声を聞いた空が自信に満ちた顔で大きく振りかぶった。

一番高いところから、ゆっくりゆっくり腕を回していく。

次の瞬間、白い閃光がキャッチャーミットへ吸い込まれていった。

ミットにボールが当たる気持ちのよい音と共に、両チームから歓声が上がった。

僕はあまり野球に詳しくありません。

もし、そのことで不快になるようなことがありましたら

遠慮なくおっしゃってください。

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