恋は盲目
……なんで。
なんであの子は来てないんだろう!? 部長の彼女なのに。
本当に芦田の事が好きなの!?
私が彼女だったら、例え練習試合でもなんでも、応援にかけつけるのに……。
「……マネージャー!」
「えっ、何!?」
「キツすぎて痛いんだけど……」
しまった。芦田にテーピング巻いてあげてたんだった。怒りでつい手に力が……。
「ゴメンゴメン……」
慌ててはがして、新しいテープで巻き直す。はがした分はグチャグチャにっちゃったから、勿体ないけどポイ。
「頼むよー。マネージャーが一番上手いから頼んでんだからさ」
当たり前だよ。嫌がる弟を無理やり練習台にして、家で散々練習したんだから。
「だからゴメンって!」
猿も木から落ちるって言うじゃん? なにマネージャー猿なの? ……もう一回言ったらもう二度とテーピングしてあげない。なんて、軽い会話をしているうちにテーピングを巻き終えた。
「サンキュー! やっぱマネージャー上手いな〜!」
私がテーピングした右足にスパイクを履いて、軽くジャンプして調子をみている。水溜まりを気にしないから泥水が跳ねて、芦田の白いソックスと、私のジャージの裾を汚した。
ねぇ芦田……他の部員たちは、私の方がお似合いだって言ってるんだよ。
「ねぇ、彼女は来てないの?」
びっくりした。今のは私の台詞じゃない。副部長の鳴神だ。フェンスの向こうの自分の彼女に小さく手を振って、芦田を覗き込んだ。
「化学部の子だろ? どの子?」
「ん? 来てないけど」
「え……何で?」
芦田をからかおうとしていたんだろうな。鳴神が、言葉を無くした。
ホント、何で? 付き合い始めて一番最初の試合なのにね。
ちなみに鳴神の彼女は一つ下の二年生で『茜ちゃん』という。いつも応援に来ているから、鳴神のことが好きなんだって、一生懸命なのが分かる。
質問には答えず芦田は、ピ、ピ、ピという小さな音をさせて、自分のケータイを操作し始めた。
「あったコレ!」
言いながら芦田は、自分のケータイの画面を私たちに見せる。
「わ。キレイ……」
水彩画だろうか。霧雨の中で、ピンク、薄い青、白のアジサイが花を咲かせている。アジサイはこのグラウンドの駐車場にも咲いていたけど、この絵の方がずっと優しい雰囲気で、幻想的だ。
「だろ? コレの実物を観に行ってんの」
「へぇ〜……」
自慢気なのが意味不明なんだけど。
「蒼子さん、この画家が好きなんだって。今日は最終日だから本人が来るって、ずっと楽しみにしてたから」
だから試合のことは知ってるけど、来ないよ。そもそも誘ってねーもん。
そう言って笑った芦田が寂しそうに見えたのは、気のせいじゃなかったと思う。
だって普通は、彼氏の試合の方が大切、だよね?
やってしまった。
罪悪感と、ちょっと清々した気持ち。
ベッドの上で、うぅ〜……とか、あー! とか唸りながらゴロゴロしている私は、きっと相当アヤシイ。
両親に貰った『真白』という名にかけて、汚いことはしたくないと思っていたのに。
ヒロインを呼び出して嫌がらせを言ったりするライバルとか、サイテーだと思っていたのに。
部活に行く途中で見かけた、職員室から出てきた彼女をつい、呼び止めてしまった。しかも、階段下まで連れ出すなんて。
……完全に悪役のすることだし!
『ねぇ……何でアナタが芦田の彼女なの』
彼女は何か言おうとして、でも、何も言わずに俯いた。
『私の方が、ずっと前から一緒だったのに』
一年生の頃からずっと、部活も、クラスも一緒だったのに。
『私の方が、ずっと近くにいたのに』
なんで。なんでアナタなの。
『私だったら、芦田の試合には絶対行く』
芦田より大事な用事なんか無いから。
『部活が終わるのも待ってるよ』
大きくなる声を、責めるような口調を、止められなかった。
『私の方がお似合いだって、みんな言ってるんだから』
――ポタリ。と、涙が落ちた。
私のだったのか、彼女のだったのかは分からない。
『ねぇ、芦田のこと、すき?』
私は好きだよ。
ねぇ、ここで即答できないの?
『冷たいよ……』
だったら。
好きじゃないなら。
『芦田と別れ……』
『マネージャー?』
瞬間、私は走り出していた。
反則だよ芦田。
あのタイミングで登場するなんて。一体どこのヒーローなの。
そのまま帰ってきちゃったし。
彼女を泣かせた女だよ私。
完全に悪役。
カンペキ、ヤな女。
私の気持ちも、バレちゃったよね。
部活もサボっちゃったなぁ……。
「ふふっ……」
酷いこと言ってスッキリしたなんて、真白はホントはヤな奴だったみたいです。
パパママ、ごめんね?
紫陽花の花言葉は
『あなたは冷たい』
「あの、鳴神先輩。茜、思うんですけど」
「うん……?」
「真白先輩の気持ちってバレバレじゃないですか。なのに……芦田先輩、ヒドいです。冷たいです!」
「あはは。言うねぇ……。それは、アレじゃない? 恋は盲目ってヤツ。きっとみんな、平等に酷くて、平等に冷たいんだよ。……好きな人以外にはさ」
→end.
読んで下さりありがとうございます!
いじめる(?)側が主人公なら…という思い付きでできたお話でした。
芦田君大人っ!(笑)
実は名前にこだわってます。
酸性の土壌だと青い花、アルカリ性だとピンクの花が咲くらしいので、芦田(acid=酸)君の彼女は蒼子さん、鳴神(alkali=アルカリ)君の彼女は茜ちゃんになりました。
どちらでもない主人公は、真白。白いアジサイもありますし。
まぁホントはph関係無いらしいんですが。(苦笑)
誤字脱字等ありましたら教えて下さい。