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今日は天気だ姉を殺そう

作者: スケキヨ
掲載日:2026/11/04

注意:作中の登場人物等は全てフィクションです。

 兄弟姉妹と言うのは、同じ親から生まれた他人らしい。


 かくいうわたしと姉も共通点は両親しかない。

 巨乳と貧乳、根明と根暗、LDH派とSTARTO派、そして不眠と過眠。


 姉は重篤な不眠症だった。飲んでる薬は種類も量もキツさも半端ない。洋ドラに出てくるレイプドラッグを普通に処方薬として飲んでいる。


 対するわたしは平均睡眠時間がそもそも9時間を超える上、ストレスがかかればかかるほど眠ってしまう謎体質だった。


 数年前の事だ。

 帰宅していつものように母と姉の喧嘩を仲裁し、姉が持ち出した三徳包丁を新聞紙に包んで物置の奥の方にしまい、そのまま仕事着も着替えず横になり、わたしは眠った。

 目が覚めて時計を見ると、眠ったのと同じ時間だった。


 最初は意味が分からなかった。もう一度時計を見て、PCを立ち上げて、日付と曜日を確認してぞっとした。


 わたしは24時間1度も起きずに眠っていた。

 食事もせず、水も飲まず、トイレにも行かず、丸一日眠っていたのだ。


 世界がせわしなく動くその間中、わたしは1人延々と、ただただ眠って過ごしたのだ。


 1日分世の中に置いて行かれたような焦りと、知らない間に何かをとりこぼしてしまった感覚に、言い知れない恐怖を感じた。


 姉の不眠もわたしの過眠も治らなかった。


 姉はどうせ眠れないからと夜遊びを始め、母からの連絡に鳴り止まない携帯電話の電源を切ったら職場に直接かかってきた。


 隠しても隠してもどこからか刃物を見つけて姉か母が振り回して救急か警察のお世話になる。


 疲れ果て、一区切りついて横になれば、次に目を覚ますのがいつになるのか分からない。

 

 知らない間に近所の火山が噴火し、

 知らない間に新しい政権ができて、

 知らない間にとうとう母か姉か、どっちかがどっちかを刺したか切ったかして騒ぎになっていた。




「おまえは寝てばっかりいる」

「あんたはいいよねいっつも寝てて」




 目が覚めると喉はカラカラで、唇はひび割れて血が噴き出し、体中の関節が痛かった。

 眠れば眠るほど疲れていくのはなんだか可笑しくて笑えた。




「おまえは眠れるからいいね」

「あんた寝てばっかで気楽なもんね」





 8月の夕方、夕涼みに喫煙所で一服しながら、ふと思った。

 もういい死のう。

 

 今だって生きていないようなものだ。どこへ行っても罵倒されるなら、何をやっても役立たずなら、眠っても起きていても地獄なら、もういいや。


 もういい。





__________

「東ティモールってどこか知ってる?」


 ぼんやりした口調で妹が何か言った。


 いつも声が小さくてもごもごしていて聞き取りづらくて、喋り方ひとつ取ってもいらいらする、血縁だけの他人。


 いつものくそださい作業着と長靴、右手は何かキラキラしたものを掴んだ状態で、上からダクトテープでぐるぐる巻きにしている。たぶん窓ガラスの破片。


 こいつはいつもそう。いつもキモい。いつも訳わかんない。

 

 お母さんと喧嘩した時、私がキレて包丁をふりまわしたら、こいつはなんでもないような顔して刃を掴んで取り上げて、「おかあさんの嫁入り道具でおかあさんを刺したらだめだと思うし、刺すなら刃を上に向けて逆さに持たないとだめだと思う」と言った。何それ意味わかんない。


 こいつはいつもそう。


「ひがし、ティモール、みんしゅ、きょうわこく、だって。あったよ。東ティモール」


 まぶしい。

 妹がPC画面をこちらにむけたらしい。液晶画面が光って何も見えない。


「ここ、インドネシアがあって、右下、ちがう、東の、南で、これ。この島」


 息が苦しい。

 帰ったら急に殴り倒されて、こいつひ弱でなんにもできない癖に、腕と足と、あと口、お母さん、たぶん向こうに見えるの、あれお母さんの足、


「寝て起きたら新しい国が出来てたことがあるんです、って言ったらさ、信じてもらえなくて。職場の、学校だったかな、なんか、誰かにね、話して。


知らない間に世界地図が変わってて怖かったって話をしたの。


ぜんぶ夢かもってさ、急に不安になってきて。


でもさ、今、調べたら、あったよ。ちゃんとあった。夢じゃない。


まあ夢でもさ。夢じゃなくなるまで繰り返せばいいよね」


 妹が何か言ってる。

 振りかぶった右手が、ぎ(・)ら(・)ん(・)と光った。

 

読了感謝申し上げますm(_ _)m

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