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第39話 和解と再会

 三重人格だったヴァクト陛下は、人格と体が分かれて三人の人間となった。だが、休む暇はない。

 今、ヨルはポーラを連れてレッドリアの王城に来ている。

 玉座の間にて、玉座に座るファイア国王の前でヨルは深々と頭を下げていた。


「ファイア国王、今までの行いに深くお詫び申し上げる」

「む……まぁ、いいだろう……」


 ファイアの返事は快いとは言えない。ヨルの軍隊が奇襲を仕掛けてきて、拘束されたかと思えば解放されて謝罪してきた。

 一連の事情を知らないファイアにとっては、一貫性のないヨルの行動は不可解で不審に思える。むしろ不気味だ。

 ヨルが黙っているので、玉座の隣でファイアに寄り添うようにして立っていたルアージュがファイアに進言する。


「お父様、私は許してあげてもよろしくてよ。ヨル様は悪魔に乗っ取られていたのですわ」

「悪魔だと? それは真か?」

「えぇ。でも浄化されたみたいですわ。今はヨル様から魔力を感じませんもの」


 ヨルだけではない。アサもヒルも本来の体に戻ってからは魔力を持たない、ただの人間になっていた。

 聖女の体内に魂を取り込まれた事で本当に浄化されたのだと言える。

 さらにヨル自身の心の闇も浄化されたようで、以前の冷酷非道さは消えていた。そんなヨルはルアージュにも頭を下げる。


「ルアージュ。今までの事は全て謝罪する。すまなかった。どうか許してほしい」

「ふん、別によろしくてよ」


 こう素直にヨルに謝られるとルアージュは怒る気にもなれない。むしろ調子が狂ってしまう。

 それよりもルアージュはヨルの隣にいる黒髪の女性が気になった。


「ヨル様、そちらのご令嬢は?」

「妃のポーラだ。紹介が遅れたが、オレはポーラと結婚した」


 ヨルはポーラの肩を片手で抱き寄せる。結婚式も挙げていない夫婦だが、改めて王妃として紹介されるとポーラは照れてしまう。

 ポーラは赤くなった頬を隠すように丁寧な一礼をして名乗る。


「ルアージュ様、ファイア陛下、初めまして。ヨル様の妃、ポーラです」

「まぁ。遊び人だと思っていたヨル様が心を入れ替えて、ようやく身を固めましたのね。心からお祝い申し上げますわ」


 ルアージュの発言は皮肉でも嫌味でもない。二人の寄り添う姿と表情を見れば純粋に愛し合っている事が分かる。

 ヨルが本当に誰かを愛して結ばれたのであればルアージュは諦めがつく。未練という名のヨルの呪いから解き放たれた心は清々しい。

 改めてヨルは玉座に座るファイアの正面に立つと本来の目的を告げる。


「ファイア陛下。ジョルノ国・第二国王ヨル・ヴァクトとして、レッドリア国との和平条約の締結をお願い申し上げる」


 大胆にもヨルは、レッドリア国に侵攻したその日に和平条約を結ぼうとしている。

 それでもファイアが以前に提示した和平の条件は『ヨルの謝罪』だったので意義はない。


「いいだろう。合意する。ルアージュも良いな?」

「もちろんですわ」


 それにヨルに侵攻されはしたが、レッドリアの兵士たちの負傷者は少なく死者もいなかった。

 これはヨルの情けというよりは、軍隊長デイズと副隊長カレンの采配による功績だった。


 そうして無事に和平条約を結び、慣れない外交を終えたヨルが足早に帰ろうとする……が、隣にポーラがいない。


「ポーラ?」


 玉座の階段を下りかけたヨルが振り返ると、いつの間にかポーラは玉座のファイアと談笑していた。


「そうか、ポーラ妃はランナ妃の姉上であったか! ポーラ妃も薬師であるのか?」

「はい。米粉さえあれば、風邪薬、胃薬、頭痛、肩凝り、腰痛などのお薬を調合できます」

「おぉ、それは頼もしい! ルアージュ、ちょっと米粉を持ってきてくれ」


 ファイアとポーラは完全に打ち解けていた。ポーラは、ちゃっかり薬師としての営業……もとい、しっかり王妃として外交している。

 上機嫌になったファイアは争い事などすっかり忘れた様子で、笑顔でヨルに呼びかける。


「ヨル殿も本当に良い妃をもらったな!」


 褒められたのはポーラだが、ヨルまでが満たされる褒め言葉であった。今後の外交の際もポーラの同行は必須だとヨルは密かに思った。



 その頃、ランナとヒルはジョルノ国の王城に戻っていた。馬車で到着すると中には入らずに城の裏側へと回る。

 奥へと進むと城壁の隅の地面に、地下へと続く石の階段がある。二人はその階段を下っていく。


「へぇ、こんな所に地下牢があったんだな」

「え? ヒルくん、知らなかったの?」

「わざわざ城の裏側に行かないしな。ゴミ置き場だとは聞いてた」


 今まで昼の5時間しか活動できなかったヒルは城での行動範囲も狭かった。

 階段を下った先は暗い地下牢の通路が続く。先ほどランナが入れられていた牢屋のさらに奥で二人は足を止める。

 見張り番の兵に牢の鍵を開けさせると、中に収監されていた夫婦が同時に視線を向ける。


「……ランナ!」


 先に牢から出たエリーナは、自分にそっくりな金髪金眼の娘、ランナを抱きしめる。

 ランナは幼い頃に感じた母、エリーナの温もりを16年ぶりに抱きしめ返す。


「母さん……父さんも。もう外に出ていいんだよ。全てが終わったから」


 エリーナに続いて牢から出たガイスは妻と娘の再会を見守っていたが、やがてヒルの事に気付いた。

 見た目はヨルにそっくりだが金髪。ガイスは16年前に見たヴァクト陛下の昼の人格の少年、ヒルを思い出した。


「私はランナの父、ガイスです。君は……いえ、あなたはヒル様ですか? 今は夜のはず……」


 それに、ガイスとエリーナが調合した毒薬によってアサとヒルの人格は死んだと思っていた。

 ヒルとガイスはお互いに事情を知らない。それでも陽気なヒルは太陽よりも明るい笑顔で答える。


「あぁ、オレはヒル・ヴァクトだ。色々あって、オレとアサとヨルは別々の人間になった」

「え……別々?」

「あとランナと結婚した! よろしくな、お義父さん!」

「えぇ!? 結婚!?」


 ヒルは軽い口調の割に衝撃の内容を伝えてくるが、ガイスが何よりもランナの結婚に驚いてしまうのは父親の性であった。

 思えばランナもポーラも国王と結婚した訳で、ガイスとエリーナの驚きは今後も止まりそうにない。

 抱き合うランナとエリーナ、そして見守るガイスの前でヒルは急に真面目な顔になる。


「今まで牢屋に閉じ込めていて、すまなかった。ヨルに代わって第三国王であるオレが謝罪する」

「ヒルくん……」


 両親との再会で涙ぐんでいたランナの瞳から新たに別の感情による涙が溢れだしていく。

 すっかり国王の顔になっているヒルは、ランナとの未来よりも先にガイスとエリーナのこれからを気遣う。


「これからの生活は国が全て保障する。ヨルが帰ってきたら謝罪させる。本当にヨルは悪魔だよな、まったく。一度死ねっての!!」


 最後はいつものヒルの口調に戻ってきている。それを言うなら、すでにヨルは一度死んで生き返っている。アサもヒルも同じだ。

 相変わらずツッコミどころが多いヒルの発言にランナは笑ってしまうが、その笑顔の意味はそれだけではない。


「ヒルくん。ヨル様は悪魔じゃないよ。ねぇ、もっと奥の牢屋も見てきてくれる?」


 ランナはその牢屋の中を見た事はないが確信している。ヨルがガイスとエリーナを処刑せずに地下牢に閉じ込めていた事が、何を意味するのかを。

 ヨルは悪魔ではない。だから悪魔には『なりきれない』のだと。それを実証するための答えはランナが示す方向にある。


「よく分からないけど、分かった」


 ヒルは一人で歩きだして暗い通路を進んでいく。一番奥、突き当たりの壁際にある牢屋。そこに全ての答えがある。

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