ホストはお弁当を交換する
ホストとしての仕事が終わるのは夜中なので、それから家に帰って寝ると高校に遅刻する可能性もあるので寝ないで登校することが多い。
今日もお弁当を作ってから家を出た。
別に毎日、ホストとして勤めるわけではないので今日は睡眠がとれる。たぶん、今日家に帰ったら食事を作る余裕もなく、倒れるかもしれない。帰りにお弁当でも買って帰ろうかなぁと考えながら登校した。
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昼休みが始まると、いつも通りに岩佐さんは僕の机のところまできた。
「それじゃあ、一緒に食べよっか!」
岩佐さんはいつでも明るいので、近くにいてくれると本当にありがたい。今日はやっぱり徹夜ということもあってちょっと元気がないから、岩佐さんの元気に当てられて少しは回復できるかもしれない。
「そうですね、食べますか」
岩佐さんはいつも通り、椅子を持って来て、僕の机で一緒に食事を始める。
「岩佐さんのお口に合うかは分かりませんが、作ってきましたよ」
「あ、ありがとう!義幸くんのお弁当が作ってくれたお弁当だったら、どんなものでも嬉しいよ。私は今日という日を一生忘れないと思う!」
そこまで言われると、余計に心配だ。もちろん食品もしっかり昨日のうちに買って、作った。自分のお弁当よりもかなり力を入れたのも事実。やっぱり誰かに食べてもらうわけだから、変なお弁当を食べさせるわけにはいかないし。
今日の最後のお客さんがかなりお酒に酔ってしまい、色々と相手が大変だったのでかなり疲れてしまった。正直、働く前はああいうお客さんばかりだと思っていたので、イメージとしては合っている。でも、今まであんなお客さんがいなかったので余計に疲れてしまったんだと思う。
ああいうお客さんにも慣れて行けば、今日みたいにすごく疲れなくはなってくるかなと思っていたりする。
そんな感じで疲れていたので、お弁当を作っている時も意識が朦朧としていた、一応、お弁当の中身は確認したので変なものは入っていないので、大丈夫という判断をして渡した。
だって岩佐さんの僕を見る目が期待に溢れていたから。あんな目をしている人に渡さないなんてことはできない。
そして僕も岩佐さんからお弁当をもらった。
「私の方こそ、義幸くんのお口に合うか分からないけど、精一杯作ったので良かったら食べてください」
お礼を言って、岩佐さんのお弁当を開けてみるとそこにはザ・お弁当がそこには広がっていた。卵焼き、たこさんウインナー、ほうれん草とベーコンのソテー、ミートボールなどが詰め込まれていた。彩りも鮮やかで食べるのが楽しみになるようなお弁当。
「見た目も綺麗ですね。こんなお弁当を本当に頂いてもいいんですか?」
「食べてください。私は義幸くんに食べて欲しくて、このお弁当を作ったので!」
「ではいただきますね」
まずは卵焼きを口に運び、咀嚼をしていく。一口噛むごとにたまごの甘さが口全体に広がっていく。自分でも卵焼きを作ることは普通にある。家族に振舞うとかなり評判はいいけど、たぶん岩佐さんの卵焼きの方が美味しい。
普通に飲食店でお金を出して、この卵焼きが出てきたとしても満足するぐらいの美味しさだと感じた。
「美味しいです。こんなに美味しいと毎日、岩佐さんのお弁当を食べたくなりますね」
「ま、まいにち!?」
「はい。本当にそう思うぐらいに美味しいですよ」
「…そ、それなら毎日、義幸くんのために作って来るよ。もっとお弁当の腕も上達させて、義幸くんの舌が満足してくれるまで!」
「今のままでも十分満足できているけど、楽しみにしています」
もしかして、岩佐さんは料理の道で生きていこうと思っているんだろうか。味もかなり良いし、そういう夢を持っているのであれば全力で応援する。
今の時点でしっかりと料理の世界で頑張ろうとしているのは本当にすごい。
岩佐さんは僕がお弁当を食べるのをずっと見ていた。僕が食べ終わると、やっと岩佐さんは僕が作ったお弁当の蓋を開けた。
お弁当を交換する時ってこんな風に自分の作ったお弁当が食べられるのをずっと見ているものなんだろうかと疑問は残るものの、僕は見ていた。
僕のお弁当も岩佐さんと同じで、定番のお弁当といった感じのものを作った。
「義幸くんのお弁当をずっと見てきましたけど、やっぱり上手ですよね」
「そんなことないと思うよ。岩佐さんの方が上手だし」
岩佐さんは僕のお弁当をどんどん食べ進めていく。それも美味しそうに食べてくれるので、寝ずに作った甲斐というものがあった。
やっぱり料理を作った方としては『美味しい』という言葉を言ってもらえるのが一番嬉しい。よく妹たちは『兄ちゃんに作らせてごめん』とか『兄貴のために料理頑張る』と言ってくれる。たぶん、男の僕に作らせていることに対する罪悪感のようなものがあるんだと思う。
でも、僕はそんな言葉を聞くために料理を作ったわけじゃない。一言、美味しいと言ってもらえるだけで満足なんだ。
まぁ…そんなことを妹たちに言ったらもっと落ち込みそうだから言わないけど。
「義幸くんってすごいね。男の子って料理が出来ない人がほとんどなのに」
「僕は昔からお母さんに教えてもらっているからね」
本当は違う。
前世の頃に一人暮らしで自炊をした方がいいと思って、料理を作り始めたらハマってしまったんだ。だから、一通りの料理はできる。
「へぇ…義幸くんって本当に丁寧な人なんだね」
「丁寧?」
「うん。だって他の男の子はお母さんのことを『クソババア』とか『お手伝いの人』みたいな感じで言ってるもん。でも、義幸くんは普通に『お母さん』って呼んでいるし」
この世界の雰囲気を考えれば、母親に対する呼び方はそんな風になるだろう。僕は前世のことがあるし、何より母親が苦労しているのを見てきている。だからさすがにそんな風に呼べない。
「そんな風にお母さんって呼んでいるのを聞くと、なんかとってもいいの。ちゃんとお母さんのことを家族として見ているんだなって…」
「家族だからね」
僕がそう言った時の岩佐さんは一瞬悲しそうな顔をしたものの、すぐにいつもの明るい彼女に戻った。
その後、少し話しているとチャイムが鳴って、岩佐さんは自分の机に戻っていった。




