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雪月花  作者: 湯灯畳
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第六十八夜 未来


世界は、常に未来に向けて回っている。


未来を置き去りにすれば、世界に置き去りにされる。


「未来のない者お断り」――

そんな無言のただし書きが、確かにある。


誤魔化しは効かない。


どれだけ逃げても、現実は追ってくる。


それは、一人旅の中で嫌というほど知った。


 


確かに、一人は楽だ。


でも――


生きることの芯だけは、見誤ってはいけない。


色も、味も、意味も。


取り戻せなくなる前に。


 


確かな居場所を作るためなら、抗う。


届かなくても、掴もうとする。


それが、俺の未来だ。


 


嘘でもいい。


罠でもいい。


どれだけ歪でも、過酷でも。


 


人は――


幽霊でなんて、いられない。


 


――翌朝早く。


 


「さて……」


 


まずは、考える。


吹雪のタイミングで現世に繋がる――

そんな話があった気がする。


ここへ来た時も、確かそうだった。


 


でも、さすがに自殺行為だ。


 


……他に方法は。


 


いや。


変な理屈を積み上げても、どうせ意味はない。


現実的に、山を下りる方法を考えるしかない。


遭難した時の心得、みたいな話を思い出すしか。


 


荷物をまとめる。


スマホの充電は大丈夫。


相変わらず、GPSは反応しない。


 


「……一度は受け取ってもらえなかった金だけど、

 置手紙代わりに、一応置いていこう」


 


ロビーには、誰の気配もない。


靴を履いて、外へ出る。


 


雪は、やんでいた。


 


とりあえず、道に従って歩くしかない。


どこかでGPSが反応することに賭ける。


 


……どれだけ歩いたか。


 


同じ景色の繰り返し。


現在地もわからない。


 


……違う。


 


これは、ただ迷っているのとは――


何かが違う。


 


ありえるのか。


こんなことが。


 


現実に。


 


 


――そのとき。


 


道の向こうから、人影。


 


こんな山奥で、着物姿。


小さな子供の手を引いている。


 


「……あの」


 


声をかけられる。


 


「はい?」


「この近くに、雪月花という旅館があると聞いてるんですが……」


「あ、ええ……まあ、はい」


 


新しい客、か。


 


知らない、と言えばよかった。


 


馬鹿だ。


 


子連れというのは、どうも苦手だ。


 


「でもここからだと、けっこう距離ありますけど……」


 


振り向く。


 


――すぐそこに、見えていた。


 


「……」


 


何となく、宿の前まで一緒に歩く。


 


女将が、出迎える。


 


だが、その目は――


 


「じゃあ、俺はこれで――」


 


言いかけて、足が止まる。


 


……客か。


 


また忙しくなるのか。


 


放っておくわけにもいかないだろ。


 


いや。


別に、俺が戻る義理はない。


 


でも――


 


「……あの、よければ」


 


気づけば、口が動いていた。


 


「中まで、案内しますよ」


 


 


自分で、自分に呆れる。


 


何やってんだ。


 


帰るんじゃなかったのかよ。


 


 


……いや。


 


違う。


 


これは、ただの親切だ。


 


それだけの話だ。


 


 


――そういうことにしておく。


 


 


……というか。


 


やっぱり、帰れなかった。


 


 


どうする、これ。


 


――第六十八夜・了

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