59/60
第五十九夜 虚
――あれから、
どのくらい彷徨ったのか。
今もまだ、
はる坊の声が――
最期の息が――
胸を締め付ける。
笄で喉を裂いても、
頭を打ち付けても、
終わらない。
激痛も、
耐えがたい疼きも――
永遠のようだった。
ただずっと、
白い地獄だけが、
どこまでも続くだけ。
束の間の救いのように、
気を失って、
気付けば、
また歩く。
同じ場所――
ただ、
回っている――
ときおり、
はる坊の声が――
幻のように、
耳に、
まとわりつく。
振り払っても、
離れない。
私、
どうしたら……
――お母さん。
……
そうして、
時の固着した世界の中、
彷徨い、
幾星霜――
どれほどの時が、
流れたか。
ぼんやりと、
視界の隅。
違和感。
吹雪が――
弱い。
……いや。
弱いことに、
気づく。
激痛は、
変わらない。
内側から湧き上がる、
嫌悪も。
ただ、
吹雪だけが――
どこか。
ずっと、
何も、
見ていなかったのに――
ふと足元に、
何かが触れる。
見下ろすと、
古びた赤い、
文字。
心霊――
忌地……
特……
……
――忌地。
その一語が、
頭の中で、
繰り返される。
赦されぬ、
場所。
同じ……
私と。
もしかしたら――
この世のどこかに、
まだ――
静かに、
眠れる場所が――
……
やがて、
遠い白の向こう。
薄っすらと、
文字。
――慰霊、
と。
――第五十九夜・了




