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雪月花  作者: 湯灯畳
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第五十八夜 罪

鬼の目が光る、異界。


「お前が、次か」


遅れて、重い声が闇に沈む。


頭が締め上げられる、静寂。


「……ふむ、良き欲の器よ」


「夜桜の目利きか」


間。


さらに、間。


「して」


「望みは、何だ」


はる坊は、真っすぐその目を見る。


「雪女を、探している」


無言。


「……ほう」


「境界の妖か」


どろどろとした、生ぬるい風。


そして、一言。


「あれは――」


わずかな、沈黙。


「探せぬ」


はる坊は、目を離さない。


じっと真っすぐ、射貫くように。


「……だが」


「境界までは」


「連れてやろう」


「その先は」


「お前次第だ」


はる坊の目が、少し緩む。


「あれがおる境界は」


「人の身では耐えられぬ」


奥歯を噛む。


「力を授ける」


「その身の欲を松明とし」


「自らの目で」


「探すがよい」


そして、沈む光。


やがて、吹雪。


どこまでも、白に閉ざされた――


ここが、境界。


このどこかに、ゆき姉が。


身体が、燃えるように熱い。


この吹雪に晒されて、なお。


これが、鬼の力。


「ゆき姉ー!」


吹雪に巻かれ、眼前で掻き消える叫び。


 


どのくらい、彷徨ったか。


吹雪の影に、ゆき姉の幻影が――


現れては、消える。


 


一歩、踏み出すたび、


その距離は、わずかに近づく気がして。


 


手を伸ばせば、


触れられる気さえした。


 


――なのに。


 


指先が、熱い。


 


胸が、締め付けられるほど、


求めているはずなのに。


 


同時に、


何かが、内側から


せり上がってくる。


 


触れたい。


 


違う。


 


――欲しい。


 


どこまでも、白の中を。


歩き続ける。


ただ、歩き続ける。


彷徨えるほどに、


身体の熱が、


少しずつ――


上がっていく。


 


不意に、背後から、


消え入りそうな声。


 


――兄さま。


 


その瞬間、


胸が、強く軋む。


 


同時に、


熱が、跳ね上がる。


 


「……うぬは」


脳内に響く、鬼の声。


「……欲の焔を」


「二つ持つか」


 


「僥倖!」


「罪深き魂!」


「そして、世にまたとなき」


「強靭なる名器也!」


声が、膨れる。


 


「お前こそ――」


「我が依り代に相応しい!」


 


その瞬間、体中から――


強烈な光と共に、炎が噴き出す。


 


「輪廻を超えて」


「我を生き写し」


「現世の鬼となれ」


 


高らかに響く、鬼の嗤い声が、脳を焼き焦がす。


視界が、赤く染まっていく。


 


 


……ゆき、姉。


 


 


そして――


"俺"は、死んだ。


 


 


――第五十八夜・了

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