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雪月花  作者: 湯灯畳
55/60

第五十五夜 帰り道

翌朝。


「すまぬが、もう……」


「朝餉は……ふるまえぬ」


「どこか、他で……」


力なく、項垂れる夜桜。


「……そうか、金も……なかったんじゃな」


掌を返す。


手品のように、わずかな金。


音を立てて、床に落ちた。


「それを持って、行くがよい」


はる坊は、首を振る。


「……いえ、俺は」


「あの玉手箱に、望みをかけたい」


一歩、前に出る。


「どうすればいいんですか?」


「教えてください」


夜桜の顔が、曇る。


「あれは、ワケアリじゃと……」


「いいんです」


「他に道がないのなら」


「あれに頼りたい」


その目を見て、


夜桜の視線が、わずかに揺れた。


 


低い声。


「……死ぬぞ」


 


間。


 


「……え」


 


空気が、冷える。


 


「……あれは、あればかりは」


「命の保証ができん」


 


いや、それ以上もあるいは……


 


静寂。


 


はる坊が、口を開く。


「……村でも、そう言われました」


「生きて帰れないかもしれない、と」


「……でも」


 


胸元を掴む。


 


「俺は、もう死んでるんです」


 


夜桜の目が、見開かれる。


 


「もう、これしか道はない」


 


声が、強くなる。


 


「家に、帰りたい」


「だから」


「ゆき姉を、迎えに行く」


 


 


夜桜の目は、はる坊を捉えたまま、遠くを見ていた。


 


――ゆき姉。


 


なるほど。


堕ちぬわけだ。


 


この男が探しているのは、家族。


 


自分は最初から――


余所者。


 


これまで、幾人も喰らってきた。


 


……これは、罰か。


 


潮時、か。


 


……だが、進めばその先は。


 


……なればいっそ。


今、この手で――


 


――兄さま!


 


幼い声が、脳裏に響く。


 


ふわりと、桜の香り。


 


 


「……そうか」


 


「わしはまた……」


 


言葉は、続かない。


 


明日を信じる、男の目。


 


……敵わない。


 


 


「……よかろう」


 


「お前に、賭ける」


 


「――わしが届かなかった、その先に」


 


懐から、小さな種を取り出す。


それを、はる坊へ。


 


「これを、玉手箱に植えよ」


「鬼に、会える」


 


「あとは――お前次第だ」


 


 


そして。


 


初めて見せる、本当の――


 


笑顔。


 


 


「帰れるといいな、家に」


 


 


――第五十五夜・了

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