表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雪月花  作者: 湯灯畳
44/61

第四十四夜 道

「……くっ」


爺ちゃんは瓦礫の中で、

仰向けに倒れたまま――


さっきまでのことを、

思い出していた。



社の中。


片膝をつく、疵の男。


息は上がっている。


だが、

目は死んでいない――


爺ちゃんは、

短く問う。


「……何故、だ」


声が、わずかに震えた。


疵の男は、顔を上げない。


「お前には……関わりなきこと」


即答だった。

拒絶でも、威嚇でもない。


断定。


爺ちゃんは一瞬、言葉を探す。


「村の者が、狙われておる」


「それで、関わりなきとは――」


「人ではない」


遮るように、低い声。


「妖だ」


爺ちゃんの喉が鳴る。


「……お前、それは」


「人は、斬らぬ」


疵の男は、

初めて爺ちゃんを見る。


その目に、熱はない。

迷いもない。


「かつて」


「人を……救い続けた者がいた」


短い言葉。


それ以上は、ない。


だが――

爺ちゃんには、分かってしまった。


救い続けていた。

妖と関わりながら。

それでも、人を。


「その者は……」


問いかけかけて、

爺ちゃんは言葉を飲み込む。


疵の男は、

続きを許さない。


「奪ったのは、妖だ」


「誰も、信じなくとも」


一拍。


「だから、狩る」


理由は、それだけ。


爺ちゃんの肩が、

わずかに震える。


「……人が」


「見捨てたとは、考えぬのか」


苦し紛れの言葉だった。


疵の男の眉一つ、動かない。


「考えた」


「だが、それで人を憎めば」


一拍。


「――悲しむ」


その瞬間。


爺ちゃんの胸が、

強く締めつけられた。


この男は――

危うい。


思っていた以上に。


「お前……」


「止めるな」


疵の男は、立ち上がる。


「これは、俺の生き方だ」


諭しは、

届かない。


説得は、

意味を成さない。


刹那。


爺ちゃんの呼吸がひとつ、

乱れた一瞬を――


男は、見逃さなかった。


一撃。


視界が反転する。


身体が宙を舞い、

背後の木戸が砕け散る。



――そして、今。


砕けた木戸の向こうから、

疵の男が歩を進める。


爺ちゃんは、

瓦礫の中で息を整えながら、

思っていた。


止められぬ。


あれは――

仇討ちではない。


正義でもない。


ただ、

人を救っていた者の背を、

最後まで裏切らぬと決めた男の道。


その背中が、

あまりにも、

人の形をしていたから。


――第四十四夜・了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ