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雪月花  作者: 湯灯畳
38/60

第三十八夜 気運

雪月花は、忙しかった。


温泉粥の評判が、

日に日に増していく。


それが、

手に取るようにわかる。


有名な商家のご隠居、

町の名家のご子息――


これまで、

迎え入れたことのないような、

富貴の人々まで、

噂を聞いてやってくる。


不治の病、

言えない疵――


それぞれが、

それぞれに、

抱えたまま、

笑顔で向き合う――


 


この村は、

本当に、

人を選ばない。


 


ゆき姉は、

そのことが、

ただ、

嬉しかった。



辻。


薬売りは、

不機嫌だった。


「何か、おかしいな」


声に出したのは、

独り言にしては、

少しだけ、強い。


敷布の上。

箱の中。


昨日と、

ほとんど、

変わらない。


包みの数も、

値も、

並びも。


だが――


人の立ち方が、

違っていた。


足は、

止まる。


視線も、

向く。


けれど、

手が伸びない。


話は、

聞く。


頷きも、

ある。


それでも、

買わない。


「……効き目が、

 出るのは、

 少し先、でしたね」


そう言えば、

皆、

曖昧に、

笑う。


「ええ、まあ」


「今日は、

 もう少し、

 様子を見ようかと」


「宿で、

 体が、

 軽くなったものですから」


その言葉が、

一度、

二度。


重なる。


薬売りの、

眉が、

わずかに、

寄る。


「宿……?」


聞き返すと、

相手は、

気まずそうに、

首を振った。


「いえ、

 あの……

 雪月花の」


それ以上は、

言わない。


言わなくても、

伝わる。


薬売りは、

包みを、

一つ、

取り上げる。


掌で、

軽く、

転がす。


重さは、

変わらない。


だが、

その感触が、

少し、

遠い。


「……なるほど」


呟きは、

低く、

辻に、

落ちた。


 


――第三十八夜・了

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