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雪月花  作者: 湯灯畳
34/60

第三十四夜 間合い

翌日。

昼の辻。


敷布の周りに、

人の輪が、できている。


大きくはない。

だが、

途切れない。


薬包が、

いくつか、

箱から消えていた。


 


「これは、どう飲むんだい?」


 


年嵩の女が、

包みを指でつまみ、

問いかける。


 


薬売りは、

すぐには答えない。


 


一拍。


 


「湯の前でも、

 湯のあとでも」


 


「体が楽なときに、

 少しだけ」


 


「欲張らないのが、

 肝心です」


 


女は、

ふうん、と唸り、

包みを懐へ入れる。


 


「それで足、軽くなったら、

 教えておくれね」


 


冗談めかした声が上がる。


 


「効かなきゃ、

 笑い話さ」


 


笑いが、

小さく、

起きる。


 


薬売りは、

それに、

深くは、

乗らない。


 



 


雪月花の前。


 


玄関を掃き清めながら。


姐さんが、

人だかりの様子を見ている。


 


視線は、

売り手へ。


 


「……湯に合う、

 ねえ」


 


独り言のように。


 


「合う、合わない、

 って言い方は、

 嫌いじゃないけど」


 


はりみに塵を集める。


 


「何だか、ね……」


 


姐さんはそのまま、

忙しそうに宿の奥へ。


 



 


鳥居の前。


 


爺ちゃんは、

通りに打ち水をしている。


 


人の動き。

金の出入り。

笑いの間。


 


すべて、

目に入れて、

飲み込む。


 


「……様子見、だな」


 


隣のはる坊が、

小さく、

頷く。


 


「売り逃げの手合いでもない」


 


「だが、

 根を張る気も、

 まだない」


 


判断は、

急がない。


 


村は、

昔から、

そうしてきた。


 



 


境内。


 


木立の間を、

一人の男が、

歩いている。


 


無骨な足取り。


 


灯籠。

注連縄。

苔の具合。


 


手で、

触れはしない。


 


ただ、

見る。


 


「……」


 


息を、

ひとつ。


 


何も、

ない。


 


眉間に、

浅い、

しわ。


小さく、

息を、

鳴らす。


 


境内を出る。


 


道の先。


 


庵の前を、

通り過ぎる。


 


戸口に、

淡色の着物姿の人影。


 


若い娘。


 


一瞬、

視線が、

触れる。


 


男は、

歩みを止めない。


 


理由も、

ない。


 


ただ、

記憶の端に、

引っかかっただけ。


 


風が、

吹く。


 


湯の匂い。


 


粥の匂い。


 


それらは、

すぐに、

混じり合い、

消えた。


 


男は、

振り返らず、

歩き去る。


 


静けさだけが、

そこに残った。


 


――第三十四夜・了

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