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雪月花  作者: 湯灯畳
12/14

第十二夜 寄り道(前編)

白い。


ただ白い。


だが、

前よりも近い。


何かが、

燃えている。


音はないのに、

熱だけが、皮膚を舐める。


――逃げろ。


誰かの声。


けれど、

その声の向こうに、

倒れている影がある。


手を伸ばした瞬間、


胸の奥を、

ぎゅっと握り潰されるような感覚。


白が、

すべてを覆った。




目を覚ます。


部屋はまだ暗い。


夢の内容は、

相変わらず、掴みきれない。


ただ、

胸の奥の圧だけが残っている。


外は静かだった。


雪の気配も、

風の音もない。




今日は、静かな一日になるかもしれない。


ぼんやりと考えながら、朝の支度をする。


あれから、

色んな客が来た。


地味な服装の老夫婦。


疎開の話などをしていたから、

かなり年を重ねているのだろうと思った。

だが、そうは感じさせないほど、

二人とも矍鑠としていた。


食事も残さず平らげ、

夜にはバーにも足を延ばしたらしい。


焼け跡の匂いが懐かしい、

などと。

奥様は、ずいぶん生々しいことも言っていたとか。


それから、静かな青年が一人。


たぶん、大学生くらい。

ガラケー?のようなもので、

一生懸命、食事の写真を撮っていた。


彼にはどこか、

同じ匂いを感じた気がした。


そうかと思えば、

立派な髭を蓄えた紳士もいた。


軍人のような言葉遣いなのに、

距離の取り方は柔らかく、

不思議と話しやすい人だった。


廊下の照明を見上げ、

何も言わずに、

ひとつ、頷いた。


それが、

なぜか印象に残っている。


皆、

それぞれに宿泊を楽しみ、

満足げに坂を下っていった。


最初のうちは、

一人一人を覚えていた。


だが、

次第に境目が曖昧になった。


違和感が、

消えたわけではない。


ただ、

考えなくなっていただけだ。


結局――

ここまで色んな客と話しても、

帰る方法は、見えてこない。


仕方ない。


誰も、

「帰り」を気にしているようには、

見えなかったからだ。


皆、

温泉に入り、

料理に舌鼓し、

朝を迎えて――


そして、

坂を下っていく。


その先のことを、

聞く気にはなれなかった。


――戻れない人。


その言葉が、

どうしても重かったのかもしれない。



そんな、昼手前。


玄関前の雪を払っていると、

ふいに、声がした。


「あら!

 まあ~、いい匂い!」


振り向くと、

時代劇から出てきたような、

着物姿の若い女性。


コスプレ……

いや違う、そういうことじゃない。


「ちょいとお兄さん!

 ここ、料理屋さん?」


「いえ、旅館ですけど」


「あら、そうなの?

 いい匂いね~!」


「ああ、

 板前が何か作ってるみたいですね」


「お食事させてもらうこと、

 できないのかしら?」


「え?

 ……あー、ええと」


玄関から、女将が姿を現す。


「どうぞ、お食事だけでも歓迎ですよ」


「あら、嬉しいわあ~」


女性は気兼ねすることもなく、

素直に宿の奥へと入っていった。


大丈夫なのか。


たぶん、いつもの創作まかないなのだが。


だが、

その匂いは、確かに腹を刺激していた。


……そういえば、

もう、そんな時間だった。


――第十二夜・了

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