第五章 復習と和解
伯爵は私が想像していたような伯爵ではなく、女性的な伯爵だったが。
私にはそれが愛おしく思えて。
私の価値観を大きく揺さぶり、これまでの私を作り変えてくれた。
彼こそが私の運命の人だったと、今なら思える。
私達は新婚旅行を楽しんだ後、伯爵の領地であるローゼンバーグへと戻り新婚生活と言う名の今まで通りの生活を始めた。
伯爵と一緒にガーデニングをして、料理を作る幸せな日々。
少し変わった事と言えば、伯爵は私の事を『イヴ』と呼ぶようになり、私は伯爵の事を『ギャズリィ』と呼び捨てになった事くらい。
「ギャズリィ……私今とっても幸せです。ギャズリィは……幸せですか?」
「もちろんですわ。イヴと出会えて本当に良かった」
私達は手を取り合い、庭を歩いた。
そこには愛と幸せが満ちていた。
ある日、私はかつての婚約者である殿下と再会した。
彼は私との婚約破棄の後、妹のメアリーと結婚したそうだが。
メアリーは元々浪費家で、その上我儘で傲慢で、何から何まで一番ではなくては気が済まないタイプだ。
勉強が大の苦手で、正妃教育が全く進んでいないと風の噂で聞いた。
正妃教育は私も経験があるから分かるが、あれは並の令嬢では耐えられないだろう。
その証拠に、今の殿下はやつれており、あまり幸せそうには見えなかった。
「イヴ……君は幸せか?」
「ええ、とても幸せです」
私は殿下に頭を深く下げる。
「ギャズリィ様に合わせて頂いた事、深く感謝しております。殿下、ありがとうございました」
「……そうか。君が幸せならそれだけで充分だ」
本当は私の冤罪を晴らし、メアリーも殿下も失墜させるつもりだった、が。
伯爵に出会えた事に感謝していたのは事実だった。
だから、私は殿下への復讐をやめ、新たな人生を歩み始める事にした。
私なんかが手を下さなくても、いずれメアリーも殿下も地に落ちていくのだろうし。