3. 診察の前に予診があります
「さて、先ほどの新規の患者さんが問診票を書き終わりましたね。一緒に預かりと確認に行きましょう」
「はい」
受付でお待ちの患者さんのもとに二人で伺います。さて、ここからはひたすら私のお話を聞いていただく時間になります。
「ご記入ありがとうございます。お預かりいたしますね。内容を確認させていただきます」
記載漏れがあれば改めて書いてもらってください。気になる部分やさらに詳しく伺いたい内容は追加で聞きます。あ、ついつい忘れてしまうのですが、問診は個室でお願いします。
聞かれる側になるとわかるのですが、自分の情報を知らない人に知られるのって感情的に嫌ですし。
特に病院での情報は取り扱い注意です。当院では問診や聞き取りは別室で行っています。
「ここまでで何かわからないこととか気になることはありますか?」
「あの、予診は何を目的としているのでしょうか」
「予診は先生の業務がスムーズに行えるよう補助することで、結果的に患者さんの待ち時間も減らせます。普段から通院されている方ならば、どのお薬が欲しいのかとかうかがっています」
あ、待合の隅にある個室の前で何人か待っておられますね。
「では、面談室で予診をしましょう。適宜説明しますね」
この面談スペースでは皆様自由に利用いただいています。先生に相談しにくいけれども、私たちのような相談員には伝えやすいお困りごとというのもありますので。
必要とあれば診察室での相談を促します。判断に迷う場合は報告をしたほうが無難です。抱え込まないほうが大事です。
あと、所有魔術の体質を把握しておくと、相談に乗りやすいと思います。
「所有魔術の、体質?」
「え、聞いたことがありませんか?」
「はい」
「所有魔術と身体的体質の関連とかは」
「初耳です」
「そうなんだ、魔術師団ではやらないんだ」
あ、これは私語ですね。仕事に切り替えないと。
「えっと、では、これ、時間があるとき読んでください」
面談室の書棚に置いているリーフレットです。患者さん向けですが、イラストもあって読みやすいんですよね。自画自賛。イラストはゲイルさん作。意外な特技です、ありがたや。あまり最初から知識を詰め込みすぎると、しんどくなりますしね。えぇ、せっかく来てくださったんですもの。できるだけ長く、いていただきたいので。大事に大事にお育てしますとも。
「お久しぶりです、ドーラさん。熱そうですね?暑さ対策ですか。
火属性魔術師の方は体に熱がこもりやすく、熱中症になりやすいですからね。水の魔石を首に巻いたうえで、風の魔石で涼むことを試してみてください。先生に処方してもらいましょう。水分も適宜取ってくださいね」
「ダガルさん、今日は湿布はどれぐらい必要でしょうか?一か月分ですね。土属性魔術師の方はお仕事終わりに筋肉痛と肩こりがつらいですよね。筋肉疲労に効くストレッチをご案内いたします。湿布でもつらいときは飲み薬の痛み止めも先生に相談できますよ」
「あ、ミーナさん、また手がこんなに冷えていらっしゃいますね。テオドリックさん、覚えておいてください。水属性魔法の方は手足などの末端が冷えやすいんです。冷えは体によくないんですよ。ブランケットをお渡ししますので待合にいる間温かい恰好をしてください」
「シャーゼリットさんは風属性魔術師です。はい、もう、そのままご自由にお過ごしください。え?もっと見てくれ?どうして脱ぐんですか。脱がなくていいです。食事にもいきません。はい、テオドリックさん、次の方をお呼びください」
「ツベルさん!治癒魔法をかけても24時間は働けません!きちんと睡眠をとってください。光属性魔法の方は本当に…。いいですか、ご自身の魔法でご自身を治癒して仕事をするという判断をする時点で頭が疲れています。過労です。もっと魔法が使える薬をくれ?部屋の中にちかちか太陽が見える?幻覚障害かもしれない?あなたに必要なことは休息です。あーもう、テオドリックさん、この方を空いている診察室に寝かせてきますよ!」
い、いつもはこんない叫んだりはしませんよ。患者さんには丁寧に、礼儀正しく、が大事です。えぇ。怒鳴ったりなんてしてはいけません。ただですね、優先順位というものがありまして。このままでは患者さんの命に係わる!と判断した場合は、多少、ほんの少し、言葉が乱暴になることが、なきにしもあらずといいますか。
「わかりました、先ほどの方が緊急だったということは分かりましたので、落ち着いてください」
「いつもは、いつもはこんなんじゃないんです。もっとちゃんとしているんです」
ツベルさんを診察室に寝かせて、私一人の反省会。いたたまれない。患者さんに強く言っているところを初日の新人さんに見せてしまうなんて。
「テオドリックさん、ところで」
さっきツベルさんを誘導するときにちょっと気になったことがあるんです。テオドリックさんの首筋。ちょっと失礼いたします。
「首のあたりの皮膚がただれていらっしゃいますね。闇属性魔術師の方は紫外線に反応しやすいので日焼け対策をお勧めします。かぶれているところは院長に軟膏を処方してもらいません?治った後におすすめの日焼け止めを案内しますね。サンプル品がありますのでよろしければ。肌に合うかどうか試してみてくださいね」
「近い、近いです、ノラさん!」
「え、ごめん。距離感近すぎた?控えるね」
「---っ!!!」
「え、なんか、ものすごく何か言いたげだけどどうしたの?言って?」
「言えません、何でも、ありません」
ほ、本当に?顔真っ赤だよ。え、なんかごめん?