大山デブ子とガレー船
〈瓜揉や白泉と云ふ俳人二人 涙次〉
【ⅰ】
永田です。皆さんご存知の通り、テオくんは自分の血筋を引いてゐない、然も【魔】とのミックスの仔たちを育てる羽目になりました。男の子3匹、女の子1匹の計4匹です。文・學・隆・せい、と名付けたんださう。
その仔らと、母親であるでゞこちやんは、今、私と八重樫火鳥との、愛の巣にゐるのです。賑やかなのは結構ですが(私たちの猫・風はびつくりしてゐる)、これは一體だうした事なんでせうか。
それは或る【魔】の出現に依つて始まつたのです。通稱「駄河馬」と云ふ【魔】、まあ「ニュー・タイプ【魔】」の一種なんでせうが、が、テオくんの夢に出てきた。「私の廣大無邊の母性に、あの仔たち、預ける氣にならない?」と云ふんださうです。テオくん、データを取り出してみた。すると、「母性は騙り物、【魔】と人間界の生き物とのハーフを付け狙ふ、惡辣な【魔】」であると、PCは回答を出してきた。
「駄河馬」は寺山修司氏描くところの大山デブ子そつくりな、あちこち肉のはみ出た巨女で、年経た河馬の化身だと云ふ。彼女の乘り物は、ご大層なガレー船「アルゴ號」で、その漕ぎ手に、先に述べた仔らをこき使つて、利用してゐるらしい。
そんな奴に、自分の(却つて決心が付いた)仔らを渡してなるものか。と云ふ譯で、「駄河馬」の目の届かない、埼玉県の私たちの陋屋に、彼らを隠して仕舞はう、と云ふ譯。
【ⅱ】
テオくんは、これが仕事化するのは吝かでない、然し、自分の懐をこれ以上痛めるのは、莫迦らしい、と思ひ、思ひ付いたのが、ガレー船拐帯。「アルゴ號」を横取りし、上野の博物館に賣り飛ばして仕舞はう、とまあそんな事を思い付いたのでした。
どの道、邪魔になつてくるのが、「駄河馬」の存在。これは、カンテラさん・此井先生に頼んで、だうにかして貰ふ。仕事の代金は、ガレー船の賣り上げから出す、とテオくん、心に決めました。
【ⅲ】
さて、どのやうに「駄河馬」に連絡を付けるか。それが難題と云へば難題。また夢に出てくるかだうかは、分からない。こちらからコンタクトを取りたい譯です。
それには、極秘、と書かれたCD-ROMを開けてみる、しかなさゝう。これは、門外不出のデータばかりを入れた、謂はゞテオくんの奥の手である。そこには... ありました、ありました。魔界の電話番号(魔界にも電話が引かれてゐるのです)。これで「駄河馬」に、文はじめ4匹の聲を聞かせてやれば- 急ぎテオくん、悦美さんのマツダ サヴァンナRX-7に分乘し、私たちのアパートの部屋を訪れた。4匹の子供たちの聲を、サンプリングした譯です。
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〈人生の人生たるや摩訶不思議私は今日も生きねばならぬ 平手みき〉
【ⅳ】
電話で「駄河馬」に聞かせてやつたさうです。どの程度信憑性を彼女が感じたかは知りませんが、兎に角、テオくん、「子供らをあんたに預けるよ」と噓を吐いた。それに、「駄河馬」乘つてきたさうです。
ガレー船「アルゴ號」は、「思念上」を航海する船で、空も飛べば、大地も走る。それで、多摩川の河川敷で會はう、と「駄河馬」には云つて、バックにカンテラさん、此井先生を引き率れて、意氣揚々とテオくん、登場。
「駄河馬」に會ふ- う、醜い、と云ふのも何ですが、先に述べた巨女の上、全身を蟾蜍の如き疣に覆われ、惡臭を放つてゐる... カンテラさん、のちに語るには、「早いとこ斬つちまひたかたつたよ」とのこと。で、遣り取りも早々、「駄河馬」、「あの仔らは?」‐テオくん「へへーんだ。自分の仔をお前のやうな惡に預ける奴がゐるものか」‐「た、たばかつたなあ!」
カンテラさんこゝで堪らず、「しええええええいつ!!」と斬つた、んださうです。「アルゴ號」で奴隷勞働させられてゐた諸君は、此井先生が解放してあげたさう。博物館の學藝員さんたち、附いて來て目を疑つた。こんな修羅場は初めてだつたのでせう...
【ⅴ】
つー事で、仔猫ちやんたちは無事でした。博物館に「アルゴ號」は賣れ、危ふく魔道に墜ちるところだつた人びとが、人間界に帰つて來た- 誠に以て大團圓。全部、テオくんの思ひ付きに依るもので、彼の天才つぷりを、カンテラさん以下、一味は、改めて確認する事頻り、だつたさうです。
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〈箱庭にバイクもなしや我生きて 涙次〉
お仕舞ひ。テオくん、だうやら子供らを「認知」したやうですな。誠に結構、毛だらけ、猫灰だらけ。猫だけに・苦笑。ぢやまた。