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VERTEX  作者: 銀乃矢
第1章 FRC編
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第1話「ルーキー」

ここは岡山県にある、岡山国際サーキット。

ここで今、FRCの開幕戦が行われている。


「よう、大輝(ヒロキ)、今日の調子はどうだ?」

そう声をかけてきたのはこのチームの監督だ。


「あ、監督、お疲れ様です。いい感じです。タイムも去年より速くなってるんで。」

「そうかい。まあ、去年みたくクルマは壊すなよ?」

「分かってますよ。あれは俺も辛かったです。」


「そういえば、話は変わるんだが、HRN Grand(グラン)Prix(プリ)から新人が出るの、知ってるか?」

「堀…堀本海(ほりもとかい)でしたっけ?」

「そうだ。あいつはすごいぞ?今日の練習走行が初めての走行だったのに、いきなり3番手のタイムだ。速いよ。」


堀本海、18歳。

16歳でFIA-F4にデビューし、翌年17歳でF4のチャンピオンを獲得。その実績があって今年からステップアップを果たし、FRCへと参戦することになった。


この後の初予選も注目が集まっている。


このあとは明日の決勝レースのスタート順位を決める予選が始まる。


クルマを整備するピットガレージでは各チーム、マシンの最終調整を行っている。


そんな中、自分はマシンや機材を運ぶトランスポーターというトレーラーたちが並ぶパドックエリアでストレッチをしていた。


その時、目の前を黄色いレーシングスーツを着た人が通る。


「あいつが堀本海か。いいな、最初から速いって。」

背中には大きくHRN GP(グランプリ)と書かれていた。


「さて、ピットで準備始めるか。」

道具を片付け、Dream racing Projectとピットへと向かう。

ピットでは整備士(メカニック)たちが各々の担当箇所の最終調整を進めている。


「おう、ヒロキ、準備はOKか?」

「はい、大丈夫です。予選頑張りましょう。」

「まあ、一番頑張るのはお前だけどな。」笑顔で伝えてくる。


ヘルメットを被り、目の前に止めてあるダラーラF320に乗り込む。

そして、エンジンを始動させる。

背中にエンジンの振動が伝わってくる。


ピットを離れる前に無線チェックなどを進めていく。


他チームの選手たちは少しでも早く計測を始めようとピットレーン出口を先頭に長い列を作っていた。


この列に入ってしまうと思うようにタイム計測が出来なくなってしまうので、俺たちはピットで予選開始まで待機することにしている。


この時間にFRC、フォーミュラレーシングチャンピオンシップについて紹介しようか。

このレースシリーズではダラーラF320、国際自動車連盟規格でいうF3に該当する車両のみ使用が許可されている、実力が全てのレースだ。


このシリーズの特徴としては、最低2年で日本トップカテゴリーの「SUPER GT」や「スーパーフォーミュラ」へと昇格していくのも特徴の1つだ。


『ヒロキ、予選が始まった。やっぱり混雑している。もう少し待とう。』

監督から無線で伝えられる。



『OK、そろそろ落ち着いてきたな。行ってみようか。』

「了解、いってきます。」


蛍光ピンクの車両がピットガレージを離れていく。

現在の順位は22位、最下位だ。


「タイヤに熱を入れないと。もう事故るのはゴメンだぜ。」

そういいながらクルマを蛇行させる。

これをウィービングという。


レーシングカーのタイヤには溝がないスリックタイヤというものを使っている。


路面とタイヤが擦れて熱で溶けたゴムが路面に張り付く。この溶けたゴムのことをラバーという。

その上をタイヤが転がると普通のクルマでは走れない速度でコーナーを駆け抜けていくことができるというのがスリックタイヤの仕組みだ。


岡山のホームストレートに戻って来る。

ラインを通過したら計測が始まる。

一つ一つコーナーを丁寧に駆け抜けていく。


このまま行けばトップタイムを記録できる。

ただ、このレースの予選は3回に分けられて行われる。

まず、予選1回目で下位7台が切り捨てられる。

そして予選2回目で5台が切り捨てられる。

そして最終予選では残った10台でトップ10を決定する。


このような方式をノックアウト方式という。

ここでトップタイムを出してもすぐに明日の決勝レースを一番前からスタートできるということではないのだ。

ただ、ここで上位に入れれば予選2回目へと進む可能性は高くなる。


そして、各予選で切り捨てられた選手たちのスタート順位はその時記録したもので確定する。


ピットに戻って来ると、全車両のタイムが確認できるタブレットを手渡される。

そこには1位松下と表示されていた。

このまま予選が終わればいいのに。


しかし、それほどこの世界は甘くない。

どんどん他車がタイムを更新していく。

気づけば自分の名前は予選1回目脱落ゾーンに表示されていた。

このままでは予選1回目敗退となってしまう。


ピットを離れ、計測へと移る。


焦る気持ちが先走ってしまい、小さなミスを連発してしまう。


最後にはコース両端の白線の外側にクルマが飛び出してしまう。

慌てている自分はそんなことに気づけない。


タイムは…?


『大輝、2番手だ、2番手。ただ、今運営の方から走路外走行検証中になっている。お前、さっき第6、第7コーナーで思いっきりコースオフしてたぞ。』

「結構いい感じに走れたのに…」

『いい感じにって、コースの外側まで使ってたからな。ただ、これは違反だからな。』


走路外走行、トラックリミット違反とも言われている。

これは、クルマについている4つすべてのタイヤが白線から飛び出したらアウトということだ。

コーナーの外側まで使えればコーナーを速く曲がれる。しかし、コース外を使うのは他車から不公平にアドバンテージを得てしまう。

そのため、ほとんどのレースでは走路外走行は禁止となっていて、必ずペナルティがある。


裁定が下されるのは早かった。

ピットへと戻っている最中、無線で伝えられる。

『大輝、裁定が出た。走路外走行が確認された。タイム抹消。お前は明日のレース、22位最下位からスタートだ。』

「そんな…」悔しさのあまり、ステアリングを叩く。


ピットへと戻り、クルマから降りる。


モニターの自分の名前の隣にはNO TIMEと表示されていた。


打って変わって堀本はトップタイムをマークしていた。

うちのメカニックの中にも堀本のことを話題にしているやつがいた。


自分は耐えられず、ピット裏のテントへと向かう。


「大輝、ちょっといいか。」

「…あ、監督。すみません。」


「その…今日は残念だったな。明日、巻き返せるように頑張ろうな。」

「…はい。」


結果、堀本は明日の決勝レースを2位からスタートすることが決まった。


そして、足早にホテルへと戻った自分はあることを考え始めていた。




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