第4話「渡仏」
フランス、サルト県ル・マン市。
「ついに来たぞ!ル・マン!」高々と拳を突き上げる。
日本から飛行機に乗り、14時間。
「ヒロキー、何やってんだ、置いてくぞ〜」
「あ、それは困ります」
監督の後をついていくと、ピット裏のパドックにたどり着いた。
すげぇ。世界最高峰であり、伝統のレースなだけある。
パドックを歩く人の数も尋常じゃない。
人混みをかき分け、SPESracingのピットへとたどり着く。
ピットガレージに入ると、都内のホテルで展示されていた2台のLMP2カー(オレカ・07)が整備されていた。
「やっぱ、ピットで見るのは違いますね。かっこよさが。」
「そうだな。」
「それで、まずは今日のフリー走行…と行きたかったんだが、外を見てくれ。」
監督が外を指差す。
気づけばとんでもない豪雨になっており、今にもピットガレージに水が入ってきそうだ。
ただ、車両はジャッキアップされているので浸水の心配はない。
このあと、国際自動車連盟(FIA)からはフリー走行はキャンセルとの通達が来た。
つまり、SPES racingのメンバーは俺を含めた数人は本戦が初走行になるのだ。
憧れの聖地でのレース。
少し、不安も感じる。
一体どんなレースが待っているのだろうか。
それは明後日の午後3時に振られるチェッカーフラッグを受けるまでは分からない。