第6話「聖地」
午後の最後のセッション、模擬レースが始まる。
「今回の最後の模擬レースではOTSも使えるよ。」
「おぉ、OTS、興味深いです。楽しみです。」
OTS、正式名称オーバーテイクシステム。ステアリング上のボタンを押すと、一定時間エンジンへの燃料流入量を増やし、パワーアップさせ、オーバーテイクを容易にさせるシステムだ。使用するとクールタイムとして90〜120秒間使用不可になる。
また、このシステムはオーバーテイクだけでなくデイフェンスにも使える。
「スタートポジション(順位)は8位ね。グリッドの方にもメカニックを立たせておくから、そのメカニックの指示に従ってマシンを止めてね。」
「了解です。」
マシンに乗り込み、最後の模擬レースに向けて準備を進める。
「最後のセッション、楽しむぞ。」
エンジンを始動させ、ピットを離れる。
サーキットを1周してホームストレートへと戻って来る。
RESAのメカニックが誘導してくれる。
その指示通りにグリッドの線内に止める。
『無線チェック、無線チェック、感度、音質どうですか?』
「OKです、しっかり聞こえます。」
『最後だからね。楽しんできな。』
「はい、最初からそのつもりですよ。でも、マシンが高性能すぎて自分がついていけるかどうか…」
『まぁ、そんなに気負わずに気軽に行こう。』
「うっす。」
『もうそろそろフォーメーションラップがスタートするから発進の準備ね。』
「了解。」
シグナルがグリーンになり、前方のマシンたちが走り出す。
それに続いて自分もついていく。
タイヤを温めながら1周走り、再び、グリッドへと戻って来る。
『停止位置完璧!OK。数値を事前に伝えたものに合わせておいて。』
「わかりました。」
ステアリングのボタンをポチポチ押しながら設定を変えていく。
『今、最後尾のクルマがグリッドについた。スタートするよ。』
レッドシグナルが一つずつ灯っていく。
オールレッドから…
ブラックアウト。
24台のマシンが一斉に走り出す。
堀本と自分、お互い順位を上げる。
後方では接触があったようだが、レースは続行となった
そこから進展はなく、スーパーフォーミュラ初のピットインを体験することになる。
「ピット入ります!」
『OK、準備できてるよ。』
ピットレーンに向かう。
ピット入口の白線に合わせてステアリングのPITのスイッチを押す。
強制的に80km/h以上出せなくなる。
ピットレーンを進むとRESA GrandPrixのエンジニアがチームロゴのボードを振りながら場所を教えてくれる。
そのまま自動フロントジャッキに突っ込む形で停車する。
マシンが自動でジャッキアップする。
メカニックたちが一斉にタイヤを外し始める。
甲高いインパクトレンチの音が響く。
STOPのボードを持ったメカニックがボードを上げる。
ピットを離れる。
再びレースに戻る。
『現在12位、12位、残りも頑張っていこう。』
「了解。」
目の前にはSFチャンピオン候補ドライバーの一人、杏堂拓実がいる。
追い抜くのは一筋縄では行かないだろう。
「そうだ、あのシステム使ってみるか。」
バックストレートに差し掛かる。
「ここだっ。」
OTと書かれたボタンを押す。
「うおっ!?なんだこの加速力!」
勢いそのままに杏堂を追い抜く。
システムの発動時間が終了する。
「なんだ、あの加速、やばいって…」
そしてゴールの時が来た。
『お疲れ様、9位、9位です。いい走りだったね。そのままピットに戻ってきて。』
エンジンを切り、マシンを降りる。
ガレージ内に向かうと監督と堀本が話し合っていた。
「松下くん、お疲れ様。どうだった?模擬レース。」
「初めて乗らせてもらうクルマでレースまで体験させていただけるなんて。本当に楽しかったです。」
「こちらこそ、本当にありがとうね。うちのチームに来てくれて。」
「今日で終わりですからね…本当に寂しいっす。」
「まぁ、来年また松下くんがスーパーフォーミュラに来れれば乗れるよ。」
「そうっすね。これからのレース頑張っていきます!」
「いい心意気だね。ぜひ、スーパーフォーミュラに来てくれることを願っているよ。」
守谷監督と固く握手した。
これで2日間のスーパーフォーミュラテストは終了となった。
駐車場へと向かい、自分の車に荷物を積み込んだ。
「テスト、終わっちゃったなぁ。ま、いい経験ができたよな。あとは7月の夏季大会か。今回教わったこと活かせば今まで以上に好成績残せるかもしれないな。」
その時、電話が鳴った。
そこには監督の名前が表示されていた。
「もしもし、監督、なんですか?」
『おう、お前に伝えたいことがあるんだ。』
「なんのことですか?」
『実はな…』
こんにちは、銀乃矢です。
以前週1での投稿を行う、とお伝えしましたが、今作の最終章まではできる限り毎日の投稿へと変更いたします。
何度も投稿頻度を変更してしまいすみません。