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第76話 謝恩パーティ①

 討伐作戦から帰還して早くも5日。

 森の調査は順調に進められ、ラフレディアの子株も残されていないと確認が取れたらしい。

 日々持ち込まれる魔物の量が少しずつだけど減ってきたことを実感していた矢先に、倉庫に飛び込んできたミィミィさんが叫んだ。


「パーティじゃ!」


「パ、パーティ?」


 突然のことに私たちは目をしぱしぱと瞬く。

 ザンッと解体していた魔物の最後の部位を切り落として、ミィミィさんの話を聞くことにした。


「そうじゃ。王族主催の謝恩パーティじゃ! 王族以外の貴族は招かず、討伐に関わった冒険者やギルド職員のみを招いた気安いパーティを開くことになったのじゃ。サチ、アルフレッド、マリウッツ、お前たちもぜひ参加してほしいのじゃ。国王直々に此度の活躍に礼を言いたいそうじゃぞ」


「パーティ……!」


 映画やアニメの世界でしか見たことがない華やかな会場、そして豪華な料理を思い浮かべてだらしなく頬が緩む。あ、でも。


「私、パーティに着ていけるような服は持っていませんよ?」


 2人も同意するように頷いている。

 そんな私たちの前に、ミィミィさんはと得意げな顔でビシッと人差し指を突き出して、「チッチッチ」と左右に振る。


「心配するな。会場、料理、給仕、それに衣装やヘアセットまで全て王家が負担するのじゃ! それゆえ、ドレスにタキシードも一流のものがたっくさん取り揃えられておる! 着替えも全部王家専属のメイドたちが手を貸してくれるでのう。安心して参加するがいいぞ!」


「ふわあ……! 素敵! それで、パーティはいつですか?」


「今夜じゃ!」


「えっ!!!」


「というわけで、王城へ出発するのじゃ〜!」


 ミィミィさんはいつも急……! 心づもりする暇がない!


 私たちは「ほれほれ! 行くのじゃ!」とぐいぐい背中を押してくるミィミィさんの勢いに呑まれるがままに王城へと連れて行かれてしまった。




 ◇◇◇


「うわぁ……!」


 王城の一室に放り込まれて、壁一面を埋め尽くすドレスに囲まれながら、たくさんのメイドにあーでもないこーでもないと着せ替え人形のようにお世話をされてしばらく。ピカピカに仕上げられた私は、鏡の前の自分に見惚れていた。


 ロイヤルブルーのドレスは、銀糸が織り込まれていてキラキラと光を反射して美しい。デコルテはレースで上品に隠れているので過度な肌の露出がなくてホッとする。

 久しぶりに履いたヒールも高すぎず、クッションがよく利いていて歩きやすい。

 高級な化粧品で肌も整えられ、淡く化粧が施されている。髪は香油で手入れされて緩く結い上げられている。


 流石王城勤務のメイドたち。凄腕だわ。美しく磨き上げてくれた彼女たちに礼を言うと、みんな満足げな笑みを浮かべてくれた。


「サチ、準備はできたかのう? おお! 似合うではないか」


 ちょうどいいタイミングで桃色の愛らしいドレスを身に纏ったミィミィさんが顔を出した。いつもは左右の高い位置で結んでいる淡いブロンドの髪は、後頭部で1つにまとめられてふわふわと揺れている。


「ミィミィさんも素敵です!」


「そうじゃろう。素材がいいからのう」


 ミィミィさんはふふん、と胸を反らすと私の手を取った。


「さあ、行くぞ。間もなくパーティが始まるのじゃ。男連中は先に会場に向かわせておるでな」


「はい!」


 アルフレッドさんとマリウッツさんも嫌そうにしながらもそれぞれ衣装部屋に連行されていたので、どんな仕上がりになったのか楽しみだったりする。


 そして、ミィミィさんのエスコートで、私は王城の広間へと足を踏み入れた。


「わあ……!」


 まさに豪華絢爛。高い天井には輝くシャンデリアがいくつもぶら下がっている。広間の中心はダンススペースになっていて、すでに何組かが形式にとらわれない自由なダンスに興じている。

 壁際に沿うように、円卓がいくつも並んでいて、見たこともないような豪華な料理が目白押しだ。


「さあ、思う存分楽しんでくるのじゃ!」


「はいっ!」


 私は早速近くのテーブルを物色した。うわああ……お肉がお花みたいに飾り付けられてる! 肉料理、魚料理、ケーキまで品揃えは豊富だ。サラダ1つにもみずみずしい野菜が使われていて、元料理人志望ではなくても一級品が取り揃えられていると分かる。


「サチさん」


 さて、どれから手をつけようか、と贅沢な悩みを抱えていると、聞き慣れた声がした。


「あ、アルフレッドさ……んん?」


 笑顔で振り返った私は、思わず目を瞬いた。あれ、確かに声はアルフレッドさんだと思ったんだけどな……


 振り返ったそこにいたのは、銀のタキシードに黒いネクタイを締めたスラリと背の高い男性だった。燃えるような赤い髪を後ろに撫で付け、後頭部で綺麗にまとめている。眉も綺麗に整えられ、スッと通った鼻筋に、綺麗な翠緑色の瞳を有していた。


「あ、すみません、人違いだったようです」


「えっ、いや、アルフレッドですよ!?」


 ペコリと頭を下げると、その人は慌てた様子でブンブンと両手を振った。

 え!? 本当に!?


 驚いて失礼ながらもう一度まじまじと見てしまう。確かに特徴はアルフレッドさんと一致するけど……トレードマークの丸眼鏡をかけていない。


「はは……実は一時的に視力を回復させる【天恵(ギフト)】を持つ方がいて、お願いしたんです。ですが、やっぱり落ち着きませんね」


 眼鏡がないのにクイッと持ち上げる仕草をしている様子がおかしくて、ついフフッと笑みを漏らしてしまった。


「びっくりしました。とっても素敵ですね」


「え、あ、そ、ありがとうございます」


 お世辞ではなく、本当に素敵だ。元々背が高いから、いつもボサっとしている髪を整えるだけでもかなり印象が変わる。

 素直に褒めると、アルフレッドさんはカアッと顔を赤くしてしまった。どうしても眼鏡がないのが落ち着かないようで、しきりに鼻の頭を掻いている。


「そういえば、マリウッツさんは一緒じゃないんですか?」


「ああ、彼は冒険者の皆さんに囲まれていますよ。討伐に参加した人は彼の強さを目の当たりにしましたからね。仕方ありません」


 アルフレッドさんが指差す方を見ると、広間の隅に人だかりができていた。どうやらその中にマリウッツさんが埋もれているらしい。なんとまあ。ブスッと不貞腐れているマリウッツさんの様子が目に浮かぶようで思わず苦笑した。


 アルフレッドさんに視線を戻すと、何やら目を泳がせて口を開けたり閉じたりしている。そして、覚悟を決めたのか、ムンッと気合を入れた表情で私を見た。


「その、もしよろしければ、ぼ、僕と踊ってくれませんか?」


「え……?」


 スッと差し出された手を凝視してしまう。まさかダンスに誘われるとは。


「はは……ギルドの祝勝会で、マリウッツ殿と踊っていたでしょう? 僕は主催側でしたから持ち場を離れることができず、彼が羨ましくてたまらなかったんです」


 アルフレッドさんは恥ずかしそうに差し出した手と反対の手で頬を掻いている。


「ええと……まともに踊れませんが、それでもよければ」


「はいっ! 僕も踊れませんから!」


 それは得意げに言うことではないのでは?

 ニパッと笑顔を咲かせるアルフレッドさんが可愛い。この人はどこか大型犬のような愛らしさがある気がする。


「では、よろしくお願いします」


 互いに微笑み合い、手を取り合う。

 アルフレッドさんの手はとても大きくて、私の小さな手はすっぽりと包み込まれてしまう。

 遠慮がちに腰に回された手にグッと背中を支えられ、途端に距離が縮まった。ドギマギしながら曲に合わせてゆらゆらと広間を漂う。チラッとアルフレッドさんを見上げると、パチリと目があって、ふにゃりとした笑顔が降ってきた。


「サチさん、綺麗です。ドレスもとっても似合っています」


「へっ、あ、ありがとうございます」


 アルフレッドさんの言葉は真っ直ぐすぎて、胸がむずむずしてしまう。


「後程、国王陛下にご挨拶に伺いましょう。この国の問題もひとまず解決しましたし、数日後にはドーラン王国に帰れると思いますよ」


「本当ですか!」


 サルバトロス王国に来て、一月と少し。毎日が濃厚すぎて、随分長く滞在している気がするけど、そろそろドーラン王国が恋しくなってきている。アンにだってずっと会えていないから、帰ったら一緒に街に出かけよう。話したいことが山ほどある。


 楽しく談笑していると、あっという間に1曲踊り終えてしまった。


「さて、マリウッツ殿を救出して、国王陛下のところへ行きましょうか」


「そうですね」


 アルフレッドさんに手を引かれながら、私たちはマリウッツさんを人混みから助け出しに向かった。

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୨୧┈┈┈┈┈┈ 6月1日連載開始┈┈┈┈┈┈୨୧

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