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第65話 先発隊、出立

「え……」


 ミィミィさんの嘆願に、(ほう)けた声を出したのは私だ。


「常に森の近くには偵察隊が控えて状況報告を上げてきておる。現時点では森に大きな変化はないところを見ると、まだ寄生先となる魔物が育ちきっておらんのじゃろう。叩くなら今じゃ。明日にでも先発隊を派遣し、機があれば一気に討伐に動く。じゃが、万一の事態への備えも必要じゃ。先発隊にもしものことがあった場合、お主の力を借り受けたい」


 ミィミィさんは真剣な目でマリウッツさんに向き合い、深く頭を下げた。

 サルバトロス王国のギルドマスターであるミィミィさんは、寝る間を惜しんで今回の事象への指揮を執っている。冒険者を統率する立場であり、イレギュラーの解消に奔走している。そして同時に、冒険者たちの身の安全を守る最善の方法も探し続けている。


 恐らく、ドーラン王国が誇るSランク冒険者であるマリウッツさんが戦線に参加することで、こちらの勝率、そして討伐クエストに参加する冒険者たちの生存率もグンと上がるのだろう。


 けれど、遥か昔に生息していたと言われる古代種の植物や、その植物が丹精込めて育てている魔物を相手取るとなると、相応の危険が付きまとう。


 流石のマリウッツさんでも、怪我をするかもしれないし、最悪の場合――


 不安な考えが頭をよぎって、思わずマリウッツさんの服の裾を掴みそうになった。けれど、寸前のところでグッと拳を握りしめる。


 固唾を飲んで見守っていると、マリウッツさんは頭を下げるミィミィさんをジッと見つめ、静かに口を開いた。


「その依頼、受けよう。先発隊と後続部隊のメンバーリスト、現時点で確認されている森付近の魔物の情報、森周辺の地図を後で見せてくれ」


「おおっ! 感謝する。一式の資料は、後ほどネッドに届けさせよう」


 望んだ答えを得られたミィミィさんは、嬉々としてネッドさんに指示を飛ばしている。私はその様子を見ながら、握り込んだ拳を胸に押し当てた。


「不安か?」


 私の様子に気づいたマリウッツさんが、窺うように顔を覗き込んできた。


 いけない。私は現地に赴くわけでもあるまいし、こうも不安がっていたらマリウッツさんも参加しづらいよね。とはいえ、取り繕うこともできないので、正直に答えることにした。


「……それは、もちろん。とても危険なクエストですから……どうか無茶は、しないでくださいね」


「ああ。必ず無事に帰ってくると約束する」


 不敵な笑みを浮かべるマリウッツさんには、不安な様子は微塵も見られない。自信に満ちた力強い瞳に映る私の方が不安でいっぱいという表情をしていて情けない。

 ブルブルと頭を振って、無理矢理気持ちを切り替えると、努めて明るい声を出した。


「魔物解体は任せてください! もしマリウッツさんが追加召集されても、魔物解体カウンターは私がしっかりと切り盛りしますので! それに、マリウッツさんが討伐した魔物は私が解体しますからね」


「ふっ、心強い限りだ。楽しみに待っているといい」


 こうして、私たちはいよいよ森に踏み込むための最終準備に奔走することとなった。

 まあ、私にできることは目の前の魔物に向き合い、ひたすらナイフを振るうことなんだけど。

 討伐に出る冒険者の皆さんが、存分に魔物を持ち帰っても対応できるように、私は私にできることをしよう。そう密かに誓って、ナイフを握る手に力を込めた。



 ◇◇◇


 そして翌朝。ギルド内のラウンジに、先発隊として参加する冒険者が集まった。


 人数は12名。氷雪系の【天恵(ギフト)】持ちが2名、前衛を得意とする冒険者が5名、治癒系の【天恵(ギフト)】持ちが2名、魔法攻撃を含む後方支援系の冒険者が3名という編成である。

 後方支援の中には、私たちをサルバトロス王国に連れてきてくれた【転移】の騎士の姿もある。彼はジェードさんと言うらしい。さっき顔を合わせた時に今更ながらご挨拶をした。

 顔色が優れなかったので、未知の脅威に飛び込むことを恐れているのだろう。そりゃ怖いよね。古代種とか、寄生型とか、宿主とか……不穏な言葉が行き交っているのだもの。


 集った冒険者たちは一様にピリリとした緊張感に包まれている。

 先発隊を見送るべく、ギルド職員に混じって、私、マリウッツさん、アルフレッドさんもラウンジに顔を出している。


「あ、いたいた。やあ、サチ。変わりなさそうだね」


「え、ヘンリー様!?」


 そこにひょっこり顔を出したのは、最近めっきり顔を出さなくなった第一王子のヘンリー様だった。すかさずマリウッツさんとアルフレッドさんが私を庇うように一歩前に出た。


「あはは、そんなに警戒しないでよ。今日はこの国の王族として、国のために危険に身を投じてくれる彼らを激励しにきたんだ」


 確かに、いつもの何を考えているのか読めない胡散臭い笑顔は鳴りを潜め、王子らしくキリリとした表情をしている。いつもこうしていれば、王族としての威厳もあって、少しは素敵に見えるのに。


「ごめんね、また遊びに行くって言っていたのに、公務が忙しくて中々抜け出すことができなくてさ。寂しい思いをさせたね」


「いいえ、全く」


「あはは、辛辣〜」


 前言撤回。やっぱりヘンリー様はヘンリー様だった。

 いつもの飄々としたやり取りに、どこか気を張っていた肩の力が抜けた。


 ……ん? もしかして、場の空気を和ませるためにわざと軽い話題を振ってくれたのかな。いや、それは買い被りすぎか。


 ヘンリー様はチラッとマリウッツさんに視線を投げ、小さく微笑んでから私に視線を戻した。そして、明るかった声のトーンを落とした。


「リリウェルが随分と迷惑をかけたようですまない。最近は大人しく部屋に篭っているようだが……あれは一度欲したものは手に入れないと気が済まない主義でな。ギルドが慌ただしくしている隙をついて、何か仕掛けてくるかもしれない。くれぐれも気をつけるんだ」


「は、はい……!」


 ヘンリー様の言う通り、マリウッツさんが片をつけたと部屋を訪ねてきた日以来、リリウェル様はマリウッツさんを部屋に呼ぶこともなければ、ギルドに顔を出すこともない。ようやく諦めてくれたのかと、みんなでホッと息をついていたところだっただけに、ヘンリー様の不穏な発言が気に掛かる。


「今は父上も、魔物討伐に関わる各所との調整や会議に追われていてね。監視の目が緩んでいるからこそ、好き勝手することができたんだ。さりげなく僕が牽制しているから、表面上は反省したふりをしているが、きっと何か企んでいるに違いない。あ、そろそろか。じゃあ、ちょっと行ってくるよ」


「え、あ、はい。行ってらっしゃいませ」


 忠告するだけしたヘンリー様は、ミィミィさんに呼ばれて壇上へと上がってしまった。「全員、必ず生きて帰るように」「まず第一に命を大切に行動してくれ」「吉報を待つ」と、冒険者たちを労う言葉をかけている。

 第一王子直々の言葉に、冒険者たちは随分と鼓舞されているようで、「おおおおっ!」と地響きのような雄叫びを上げている。


「何事もなく、終わるといいのですが」


 真剣な面持ちでアルフレッドさんが呟いた。

 今回の討伐クエストが無事に完了すれば、きっと魔物の大量発生も徐々に落ち着いてくるだろう。


「そうですね」


 私たちが見守る中、ジェードさんの【転移】の光が弾け、12名の冒険者からなる先発隊が出立した。

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