第49話 作業2日目
「うわぁぁぁ……!」
案内された部屋に入った私は、圧倒されていた。
天蓋付きのベッド! 絨毯はフワッフワ! 装飾品はキラッキラ!
うっかり壊して弁償という話にならないように気をつけないと……
部屋には立派な浴室もついていて、まるでスイートルーム。泊まったことなんかないんだけど。
ドサリと荷物を下ろした私は、とりあえず扉という扉を全部開けてみた。
トイレ、浴室、クローゼット。そのどれもがギルドの自室よりも広いときた。
「もし身の回りの世話をする者が必要じゃったら遠慮なく言うといい。人を手配してやろう」
「い、いえ! 自分でできますので……!」
得意げに部屋に案内してくれたミィミィさんのありがたい申し出を丁重にお断りする。ただでさえこんなに広い部屋なのに、お世話係の人までいたら気が休まらない。部屋では1人でのんびり過ごしたいもんね。ピィちゃんは一緒だけど。
ピィちゃんは興奮気味にビュンビュン室内を飛び回った後、ふかふかのクッションがいくつも並べられたソファを寝床と決めたようで、ボフンとクッションの海に沈み込んでいる。
「今日は慌ただしくてすまなかったのう。食事は後で部屋に運ぶ手筈となっておる。今夜はゆっくり休んで英気を養っとくれ。明日はネッドを使いに寄越すでな。また明日から本格的によろしく頼むのじゃ!」
「はい! ありがとうございます!」
「じゃあの。ワシは仕事が溜まっておるでな、ギルドに戻るのじゃ。また明日のう」
「おやすみなさい」
ミィミィさんは後ろ手でひらりと手を振ってから部屋を出ていった。
「ふぅぅ……」
私は、ピィちゃんがくつろいでいるソファとは別のソファにドカッと腰を下ろした。
まさかこんなに素敵な部屋を用意してくれていたとは。てっきりギルド職員用の部屋を借りるとばかり思っていたのに。
ミィミィさん曰く、今回の派遣依頼は王家の承認を受けたギルドの要請である。つまり、全面的に王家が後ろ盾となった依頼なのだ。そういえば、ネッドさんが使者としてドーラン王国に来た時にも話していたっけ。
私たちが訪問するにあたり、来賓用の客間を3部屋用意してくれていた。私、マリウッツさん、アルフレッドさんそれぞれに1室ずつである。まさしくVIP対応というやつだ。
2人もすでに各部屋に案内されているので、今頃は荷解きをして一息ついている頃だろう。
「それだけ期待されているってことだよね。明日から頑張らなくちゃ」
私は食事が運ばれて来るまでの間に荷解きを済ませ、入念にオリハルコンのナイフの手入れをした。明日中には倉庫の魔物を片付けてしまいたい。それからは当日運び込まれてくる魔物を回してもらおう。忙しくなりそうだけど、その分やりがいはある。
その後運ばれてきた豪勢な食事を恐縮しながら頂戴し、たっぷりのお湯に浸かってほこほこに温まってから、部屋の照明を落としてベッドに潜り込んだ。
サルバトロス王国のギルドマスターも優しいし、マリウッツさんもアルフレッドさんもいる。大丈夫。きっとやり遂げることができる。
「ピュイ」
「ふふ、一緒に寝る?」
モゾモゾとピィちゃんが布団を突いてきたので中に迎え入れてあげる。ピィちゃんは布団の中でくるりと回転してから丸くなって寝息を立て始めた。
私は目を閉じると、ゆっくりと夢の世界へと落ちていった。
◇◇◇
「次、運んでください!」
「これぐらいでいいか?」
「ありがとうございます!」
「僕は素材を向こうの倉庫へ運んできますね」
翌日、ネッドさんの迎えでギルドへとやってきた私たちは、早速倉庫の魔物解体に着手した。
サルバトロス王国のギルドは、王城から歩いて程ない距離に位置しているので移動は苦にならない。
今日はアルフレッドさんの手も借りながら、私たちはテキパキと魔物解体を進めていく。
マリウッツさんが作業台へと魔物を運び、私がその魔物を解体する。そして素材別に解体された魔物はアルフレッドさんが荷台に載せて別の倉庫へと運んでいく。解体した魔物の種類や数はしっかりとアルフレッドさんが管理表を作って記録してくれている。流石仕事のできる男。
倉庫の外から、相変わらず悲鳴のような叫び声が定期的に聞こえて来るので、早く当日持ち込まれる分に参戦できるように頑張らないと、と気合が入る。
そして、私たちの見事なまでの連携プレーで、昼食時には倉庫の半分を残すのみとなった。それでも今処理しているのは2日以上前に持ち込まれた分だから、昨日の積滞分がまだ残っているんだよね。
お昼はギルド内の食堂でいただくことになっている。
私、隣にマリウッツさん、対面にアルフレッドさんという席順で並んで座る(座る場所を巡って小さなバトルが起きていたけどこの席次で落ち着いた)。
海に面している国なので、メニューにも魚料理が豊富だ。3人とも日替わりランチを頼み、ブラックトラウトという鮭に似た魔物のムニエルをいただいた。
「おお! お前たちも昼飯か。順調かのう?」
ちょうど食べ終えた頃、同じく日替わりランチのプレートを手にしたミィミィさんがやって来て、アルフレッドさんの隣に座った。よく見たらお子様ランチみたいな柄付きの可愛いプレートで、ムニエルにはピックが刺さっている。ミィミィさんの特別仕様のようだ。
「あ、ミィミィさん! こんにちは。おかげさまで順調に進んでます」
「そうかそうか。昨日はよく眠れたか?」
「それはもう。あんなに良質なベッドで寝たのは初めてです」
「はっはっは! そうじゃろう。来賓用の一等室じゃからのう」
得意げに笑いながら、口いっぱいにムニエルを頬張るミィミィさん。小さな口がモゴモゴ動いてウサギみたいに可愛い。今日もツインテールがよく似合っている。
「では、我々は作業に戻ります」
アルフレッドさんの言葉を合図に、私たちが立ち上がると、ミィミィさんは「ああ、そうじゃ」と何かを思い出したようにフォークを置いた。
「今夜、王家との謁見が予定されておるでな。よろしく頼むのじゃ」
「あ、はい。分かりまし……え?」
ニカッと満面の笑みで、あまりにもサラッと言うものだから、アルフレッドさんも固まってしまった。さすがのマリウッツさんも表情が強張っている。
うんうん、分かる。いきなり謁見って言われてもねぇ。困りますよね……って。
「ええええっ!?」
「すまんすまん。すっかり言うのを忘れておったのじゃ!」
あはは、と頭を掻くミィミィさんは全く悪びれていない。
そういう大事なことは早く言ってください!
私は思わず頭を抱えてしまったのだった。




