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第118話 マリウッツの過去② ◆マリウッツ視点

「お、これなんかいいんじゃね?」


 町には冒険者ギルドの出張所があったため、そこでクエストの掲示板を吟味していると、クルトが一枚のクエスト依頼を指差した。


 魔狼の群れの討伐依頼。

 近頃、町から続く街道沿いに出没しては商人の荷馬車を襲ってくるという。

 統率の取れた動きで食糧を食い荒らしては近くの森へと帰っていくらしい。

 同じような被害が数件確認され、正式にギルドから討伐依頼が出されたようだ。


 魔狼はDランクの魔物。

 俺たちのパーティでもこれまで何度も倒してきた魔物だ。


 今回の群れは数が多く知能も高いようで、若いパーティが無茶をしないようにクエストのランクはCと設定されていた。

 俺が加入してから、パーティランクはCに上がっていた。そのため、これは受注可能なクエストだ。


「うん、魔狼の群れだったら油断しなければ倒せると思うわ。それに、うちにはマリウッツもいるんだもの」


 杖を握りしめながら答えたのは、後衛であり、【電気】の【天恵(ギフト)】を持つリーリアだ。

 黄色い髪は毛先が跳ねていて、いつもふわふわ揺れている。その瞳の色は鮮やかな桃色で、先日クルトが店で見ていた耳飾りのことを思い出した。


 今、彼女の耳に何もついていないところを見ると、まだ渡せていないのだろうな。


「そうだね。魔狼が出るのは日が暮れてからが多いそうだ。日中にしっかりと準備を整えて、今夜にでも街道に出てみよう」


 治癒師のソリドも同調した。淡い水色の髪に、垂れ目で優しい面持ちの男だ。

 クルトとリーリアが揉めたときはいつもソリドが仲裁する。幼い頃からそうらしい。つくづくバランスの取れた三人だと思う。


「マリウッツもいいか?」


「問題ない」


 最後に俺が同意し、クルトは掲示板から依頼書を千切ると受付カウンターへと向かった。




 ◇◇◇



「この辺りだな、目撃証言が多かったのは」


 日が暮れてすぐに町を出た俺たちは、魔狼の被害が多く報告されている街道を歩いている。

 魔狼が狙うのはいつも大荷物を持った商人だというので、俺たちは町で借りた荷車に食糧を載せて引いている。荷台にぶら下げたランプだけがぼんやりと辺りを照らしている。


 今夜は風がある。風に乗って肉の匂いを嗅ぎつけた魔狼が姿を現せばいいのだが。


「クルト」


「ん? なんだ、マリウッツ」


 俺は先頭を歩くクルトの背中に声をかけた。

 頭の後ろで腕を組みながら大股で歩くクルトが振り返らずに返事をする。


「このクエストで、俺は後方支援に回ろうと思う」


「んええ!? どういう風の吹き回しだよ」


 クルトは小石につまずいて数歩よろめいてから勢いよく振り返った。

 リーリアとソリドも驚いている。


「お前がいつも言っているだろう。俺たちはパーティなのだと。俺はいつも前に出過ぎてお前たちの活躍の場を奪ってしまっていた。誰かに頼る戦い方というものを、俺も覚えていきたい」


「マリウッツ……」


 素直に自分の考えを伝えると、クルトは感極まった様子で唇を震わせた。大袈裟な男だ。


「ようし! それじゃあ俺が先頭に立って魔狼を牽制する。数が多いらしいから、討ち漏らしたやつはマリウッツに任せる。ある程度数を減らしたら、俺とマリウッツで一ヶ所に魔狼を追いやろう。そこにリーリアが雷を落とす。どうだ?」


「悪くない」


「分かったわ」


「僕はいつでも【治癒】できるように控えているね」


 各々の役割を確認し、迎撃態勢を整える。

 そういえば、剣の師匠にも言われたことがある。「人に頼ることを覚えろ」と。


 自分の力だけでどうとでもなるところを、グッと堪えて戦況を見極める。

 なかなか難しいことだと思うが、今日の戦いが自分を変えるいいきっかけになるといい――この時の俺は、漠然とそう思っていた。


「来たぞ!」


 街道を挟むように魔物の気配を感じる。

 目を凝らすと闇夜に赤い目が浮かび上がり、ギラリと怪しく光った。赤い目はザッと確認した限りでも三十は下らない。つまり、十五頭はいるということだ。

 通常、魔狼は五頭前後で群れを作ることが多い。複数の群れが集まってできた一団なのだろうか。群れ同士がさらに群れるなど、そんな話は聞いたことがない。


 ヴヴヴ、という唸り声が風に乗って聞こえてくる。

 俺はシャラリと剣を抜き、構えた。


 いつもの俺ならば、周囲を囲われていようが問答無用で飛び出して、反射的に飛びかかってきた魔物をただひたすらに切り倒していく。奴らの生存本能を刺激してやれば、こちらに注意を向けさせることは容易いからだ。

 クルトたちに任せて問題ない魔物には極力手を出さないが、比較的ランクが高く危険な魔物は彼らに危険が及ぶ前に俺が切り伏せるのが常だった。その度にもっと頼れと苦言を呈されていたのだが。


「よし、マリウッツ! 俺が左手を受け持つ。お前は右手を頼んだぞ!」


 左手奥には深い森がある。だからか、魔狼の群れも左手に半分以上が集まっている。

 半数以上をクルト一人では――そう思って口を開きかけた。


「大丈夫だ、俺を信じろ」


「! ああ。任せたぞ」


 だが、そんな俺の考えを読んでいたかのように、クルトは力強くそう言った。


 そうだ。俺は、クルトを信じて任せる。

 今日は一歩引いて戦うと決めたのだ。

 危なくなれば助太刀すればいい。俺にはその力がある。


「いくぞ!」


 クルトの掛け声を合図に、俺たちは左右に散った。

 そしてすぐにザシュザシュッと肉を切る音や、獣たちの「ガウガウッ」と威嚇する声が聞こえてきた。時折、バチバチッと電光が弾ける。


 順調に討伐しているようだな。

 クルトもこの数ヶ月で随分と腕を上げた。

 まだまだ脇が甘いところがあるが、Cランク冒険者の中でも上位に食い込む実力の持ち主だろう。


 これは、助太刀不要か?

 目の前の魔狼を着実に仕留めながら、俺はそんなことを考えていた。


 魔狼を切り伏せていると、明らかに他の魔狼よりも巨大な個体が激しく警戒しながら威嚇してきた。唸りつつも、ジリジリと後方に下がる素振りを見せている。退路を確保しようとしているのか。


「ヴヴヴ……ガウガウッ!!」


「お前がこの群れのボスか?」


 肩越しにチラリとクルトたちの状況を窺う。すでに目は暗闇に慣れているので、周囲の様子はよく見える。

 うまく連携をとって戦えているようだ。何頭かが後方の森に向かって逃げていく様子が確認できる。これなら多少離れても問題はないだろう。


 案の定、魔狼は俺が視線を外した隙に逃走を図ろうとした。


「逃しはしない。クルト! 少し離れるぞ」


「おう! 油断するなよ!」


 この個体を仕留めれば、群れは統率を失うに違いない。そう思って後を追う。


 だが、俺はこの後すぐ、クルトに任せて彼らから離れたことを後悔することになる。

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୨୧┈┈┈┈┈┈ 6月1日連載開始┈┈┈┈┈┈୨୧

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