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第112話 【魅了】の【天恵】

 私たちは思わず絶句してしまった。

 レイラさんは「なんてことだ……」と口元を手で覆って一歩後ずさった。


「うっ……うう……」


 膨れ上がっていた涙はとうとう溢れ落ち、ポロポロと少年の頬をとめどなく濡らしていく。

 しゃくりあげながら涙を流す少年を宥め、私たちは小屋の中へと案内してもらった。

 この小屋で生活しているのも、きっとこの子の【天恵(ギフト)】が原因なのだろう。


 小屋に入る前に、レイラさんが「【魅了】に勝てるか分からないけどね」と言いながら魔物除けの薬を撒いてくれた。


 小屋の中は、小さな木のベッドと机と椅子だけのとても簡易的な造りとなっていた。

 そして、一目見てすぐに分かった。

 この子はここで一人で暮らしているのだと。


「急に押しかけて怖い思いをさせてしまい、すみません。僕たちは君の身を案じているのです。もし良ければ、ここで生活するに至った経緯を聞かせてもらえませんか?」


 少年はベッドに腰掛け、私たちは立ったままだと威圧的に感じるだろうということで膝を折って腰を落としている。


 少年は話していいのか迷っているのか、瞳を激しく泳がせている。

 そんな少年を安心させるように、ピィちゃんが寄り添っている。


「【天恵(ギフト)】は誰もが生まれながらに持つものです。ですが、その力の発現タイミングには個人差があります。これは僕の推測なのですが、君は最近力が発現したのではないですか?」


 優しく問いかけるアルフレッドさんに、少年は弾かれたように顔を上げた。

 そして震える唇を開いて、ポツリポツリと事情を話してくれた。


 少年の名はカインといった。


「一ヶ月前に、父ちゃんの手伝いで森に木の実を取りにいった時に、急にさっきみたいに魔物が集まってきて……グスッ、俺、怖くて腰を抜かしちゃって……父ちゃんが僕を守ろうと戦って怪我をしたんだ」


 ヒックヒックと泣きながら事情を話してくれるカインくん。


 腕を怪我して倒れた父親の上に庇うように覆い被さりながら、無我夢中で『やめて!!!』と叫んだところ、どういうわけか魔物たちはカインくんの声に反応し、大人しくなったのだという。

 カインくんはその隙に森を出た。その後は父親を引きずるように門を目指し、門番に保護されて治療院に運ばれた。


「分かったんだ。きっと、俺のせいだって……俺が魔物を引き寄せたんだって……俺が王都に住んでいたら、きっと、あの時みたいに魔物が集まってきて大変なことになる。だから、俺はあの城壁の中では暮らせない。父ちゃんと、母ちゃんを危険な目にもう遭わせたくない」


 肩を震わせながら語る背中はとても小さい。

 小柄なので十歳ぐらいかと思っていたら、十二歳になったばかりなのだとか。


 もしかすると、城門の外まで魔狼が寄ってきたのも【魅了】によるのだろうか?

 あの時、カインくんは騒ぎが起こる前に何かを察していたように見えた。


「だから、王都から離れたこの場所で生活を……?」


「うん……俺一人だと魔物に襲われることはないから……父ちゃん、まだ腕の怪我、完治してないからさ……森の木の実や、病気の薬は俺が運んでた。二人は泣いて俺を引き留めるんだけど、でも、一緒にはいられないから……」


「たった一人でこんなところで……さぞかし大変だったでしょう」


 カインくんをふわりと抱きしめて背中を撫でるアルフレッドさん。カインくんは震えながら小さく何度も頷いた。


「うん……うんっ……それに、この力が誰かに知られたら、俺、もしかして捕まるのかなって……そう思うと、誰にも言えなくて……」


 カインくんの不安と恐怖、そして孤独はどれほどのものだったのだろう。

 たった十二歳の男の子が、一人で秘密を抱えて、家族を守るためにこんな森の中で生活をして――彼の気持ちを思うと、鼻の奥がツンと痛んだ。


「【天恵(ギフト)】は文字通り、天の恵み。きっと、あなたの【天恵(ギフト)】にも何か活かす道があるのでしょう。力を制御できるようになれば、魔物を逆に遠ざけることもできるかもしれません。今は危険でも、可能性を秘めた力だと思います」


 アルフレッドさんの言葉に、カインくんは叫ぶように反論した。


「でも、それっていつのこと!? 僕は、誰かを傷つける可能性がある力なんて、いらない。父ちゃん母ちゃんと三人で笑って過ごせるなら、それでいい!」


「――ならば、共に暮らせばいいだろう。たとえ魔物を呼び寄せようとも、王都の城壁は簡単には破られない」


 これまで黙って動向を窺っていたマリウッツさんが、静かに口を開いた。


「でも……僕がいたら、迷惑だから」


「それを決めるのは相手であって、お前じゃない」


 悲しげに瞳を伏せるカインくんに、マリウッツさんが真剣な表情で応える。

 どこかその声音は低く、目の前の少年を通して、別の誰かを見ているようだ。


 【遺恨解放】で、この子を【天恵(ギフト)】から解放できたらいいのに――


 無理だと分かっていても、脳裏にそんな考えがよぎった。


 その時、腰に装備していたオリハルコンのナイフがカタリと動いた。先ほどの戦闘で出番はなかったけど、念の為に持ってきていたものだ。


 もしかして……?

 そっと柄を握ってみると、カインくんを優しく包み込む光る糸が見えた。


「本当に、【天恵(ギフト)】を失ってもいいの?」


 静かにカインくんに近づいて、目線を合わせて問いかけた。

 カインくんは、泣いて真っ赤になった目をこちらに向けて、力強く頷いた。


「うん、僕はまた家族で笑って過ごしたい。そのためだったら、【天恵(ギフト)】を失ってもいい」


 カインくんの瞳に決意の意志を見出し、私も覚悟を決めた。


「じゃあ、あなたのギフト……私が【解体】するね」

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୨୧┈┈┈┈┈┈ 6月1日連載開始┈┈┈┈┈┈୨୧

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୨୧┈┈┈┈┈┈ 6月10日頃発売┈┈┈┈┈┈୨୧

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 なんかカインくんの境遇と「こんなギフト要らねえ」という願いを聞いてると、昔読んだ話を思い出しますね…確か『成長するに連れ段々美形に磨きがかかり、それ目当てに寄ってくる…
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