第12話 休日の過ごし方
「給料日にはちと早いが、持っていけ!」
「わあっ! ありがとうございます!」
突然休日を頂戴することになった私に、ドルドさんは2週間分のお給金を袋に入れて手渡してくれた。
こっちに来て初めてのお給料!
私はウキウキと袋を覗き込んだ。
そこには、金貨が5枚と、銀貨が7枚、そして銅貨が8枚入っていた。
ちなみにこの世界は、国ごとの通貨は存在せず、どの国もお金の価値は同じらしい。
イメージとしてはこんな感じ。
大金貨は日本円で10万円、金貨10枚で大金貨1枚と交換ができる。
金貨は日本円で1万円、銀貨10枚で金貨1枚と交換ができる。
銀貨は日本円で1000円、銅貨10枚で銀貨1枚と交換ができる。
銅貨は日本円で100円、小銅貨10枚と交換ができる。
小銅貨は日本円で10円。
日本円で考えると少なく見えるけれど、もちろん物価も違うので、金貨が5枚というのはかなり羽振りがいいのではないかしら。アンが金貨1枚あれば1ヶ月十分に生活ができると言っていたっけ。
「うちの給料は、金貨3枚を基本給として、解体した魔物の数やランクに応じて歩合で給金が増えていく仕組みになっててな。サチの対応件数はずば抜けてるからな。これでも足りないぐらいの活躍だ」
「〜〜! 嬉しいです! ありがとうございます!」
前の会社はサービス残業が当たり前だったので、頑張りに応じてお給料が増えるなんて素敵すぎる職場じゃない!
お金の入った袋が随分と愛おしく感じて、胸にギュウっと抱き寄せた。
そんな私の様子を微笑ましげに見つめていたアルフレッドさんが、僅かに躊躇いがちに話しかけてきた。
「あ、あの、サチさん。お休みはどう過ごされるのでしょうか? ……も、もしよろしければ、僕が街を案内「受付嬢のアンを誘ってみようかと思います! あっ、すみません」
ああっ、またアルフレッドさんが全て言い切る前に早まって答えちゃった。慌てて謝罪をするも、アルフレッドさんはハッと我に返ったように両手を振ると、「気にしないでください! 良い休日をお過ごしください!」と言って走っていってしまった。わさわさ揺れる赤髪と同じぐらい耳が赤く見えたけれど、気のせいかな? 悪いことをしてしまった。
「へえ、アルフレッドの奴……」
顎髭で遊びながら、楽しそうにニヤついていたドルドさんだったけど、カウンター内からナイルさんの「ドルドさああん! ボールピッグの山が減らないっす! 助けてくださいっす!」という悲痛な叫びを受けて、やれやれと肩をすくめながら助力に向かった。
「あ、アンも明日休みか聞かなきゃ」
私は自室に戻る前に受付カウンターに寄ろうと足を向ける。
そういえばギルドの制服と元々着て来たオフィスカジュアルな服以外には、寝巻き代わりにといただいたシャツとズボンしか持っていない。
外出用の服が欲しいなあ。あと、解体で手をよく洗うから荒れちゃってるんだよね。ハンドクリームとか売ってるのかな……あとは何か美味しいものが食べたい。
アンは流行にも明るそうだし、色々案内してもらえると嬉しいなと思いながら受付カウンターに到着した。
ちょうどアンは手隙のようなのでそそくさとカウンターに近寄る。
「ギルドへようこそ! ご用件は……って、サチじゃない。どうかしたの?」
にこやかな営業スマイルを崩して気さくに話しかけてくれるアン。私は簡単に事の次第を説明して、明日休みかどうか尋ねた。
「えー! 偶然! 私、明日お休みだよ! 一緒に街に出かけましょうよ。案内したいお店がたくさんあるの!」
アンは爛々と目を輝かせて、前のめりに私の両手を握った。
「嬉しい。ありがとう! こっちの世界の流行りとか分からないし、とっても助かるわ」
「まっかせて! こう見えて流行には人一倍敏感なんだから!」
えっへん、と胸を反らすアンが可愛い。
思わずフフッと笑ってしまい、和やかな空気が流れる。
「――おい、そこの女。邪魔だ、どけ」
が、その時。
明日のことでウキウキと浮ついていた心を凍てつかせるような冷たい声が降って来て、目の前のアンの表情が強張った。
恐る恐る振り返った私は目を見開いた。
私の後ろには息を呑むほどに麗しい男性が立っていた。
濃紺のサラサラストレートの短髪に、吸い込まれるほどに美しいアメジスト色の瞳は氷のように冷たい。背に剣を背負っているところを見ると、冒険者……だよね?
「ま、マリウッツ様……! 失礼いたしました。すぐに受付いたします」
素早く営業スマイルを貼り付けて対応するアンはプロだわ。目配せされた私は慌てて場所を譲る。
『明日また説明するね!』
アンの目がそう言っていたので、私は頭を下げて自室へと撤退した。




