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第38話 露天風呂Ⅰ②

 




 ‥‥ゴゴゴゴゴ‥‥ン!



 山を下りて村の家々が見えた頃、地響きがしてきた。周りの家の女性たちが、心配そうに窓から顔を覗かせている。


「何でしょう?」


「たぶん、Botが出たんだと思います。でも、砲台があるんで村には入りません。村の入り口で暴れるだけです」


 村の人はそんな感じだったけど、やはり不安げだった。女性ばかりなのだから、それはそうだろう。


 渚さんが目配せをしてきた。3人で村長さんの家まで走った。


「ああ、お客人方。無事でしたか。大屋敷へ避難してください」


 村長さんはそう言って、わたしたちをあの大広間のある家屋へいざなった。そこには、村中の人が避難してきていた。




「やっぱり、若い世代の人がいないわね。迎撃してるんだわ」


 大広間の中心を開けてもらい、わたしたちはそこに腰を下ろす。周りを観察しながら渚さんはそう呟いた。


「聞いて。ほら、聞こえるでしょ?」


 渚さんの言うとおり耳をすますと。



 ‥‥ゴウンゴウン、ゴウンゴウン♪



 と、地響きのような音が下から響いてくる。


「村の重力子エンジンよ。ちょっと型が古そうだけど、今から、Botを追い払う為に、村の砲台から威嚇射撃をするはず。ラポルトと同じA2/AD、近接阻止でね」


 彼女が言うのと同時くらいに、ゴゴォ! と砲撃の地響きがしてきた。幼い子達が悲鳴をあげて、お母さんに抱きついた。


「やだあ、怖い!」


「大丈夫よ折越さん。ここの人たちも慣れてるわ。大丈夫」


 こういう時に国防大学校附属中学(ふぞく)の子は本当に心強い。さすが軍人さんの卵。

 男子だったら胸に飛びこんじゃうかもだよ? 渚さん。





「アピ!」


 聞き覚えのあるか細い声。


「アピがいないの! ああ、誰か‥‥アピを」


 錯乱気味の声、アピちゃんのお母さんだ。

 わたしは声の方に駆け出していた。


 アピちゃんのお母さんは、床に臥せって、半身だけ身を起こしていた。

 か細い声で、姿が見えない娘の心配だけをしている。

 お母さん自身だって、健康とは言えない状況なのに。



 わたしは目頭が熱くなった。純粋に娘のことを思う母、わたしの欲して止まないものが、ここにあった。


 ‥‥わたしが動かなければ! そんな衝動に体の内側から突き動かされ、もう止まれなくなっていた。


「わたしが探しに行きます! アピちゃんはわたしの患者です!」


 思わず、叫んでいた。




 ***




 アピちゃんを探すのに、わたしが土地勘もなく村をむやみに探しても無意味だ。村の人と相談して、アピちゃんの家まわりだけを見てくることになった。


「アピの家のある村の入口あたりは、今、立入禁止区域になってます。皆避難してきたんですが、アピがいないとは」


 後ろから声を掛けてきたのは村長さんだった。

 いつの間にか渚さんと折越さんもいる。


「村長様。見れば若い女性はみんな迎撃に出ていますね。小職は国防大学校の生徒です。私達3人で見に行きます。いえ。決して無理はしません」

「まかせてぇ。イザとなったらちなみが愛依ちゃん担いで走るから!」


 ふたりもわたしを後押ししてくれた。お客様にそんな、という村長さんを置いて、わたしたちは大広間を出た。


「いい? 逢初さん、Botの動きを把握しつつ、アピちゃんの家に向かうわ。場所がわかってるのはあなただけだから、案内して!」


「はい!」


 渚さんにそう言われ、村の入口方面へ走っていく。




 近づくにつれ、砲撃の爆発なのか、砂煙に見舞われるようになった。


「ああ~。せっかくお風呂入ったのにぃ。後でもっかい行こうね」


「そうね。ゆっくり行きましょ。アピちゃんも連れてね」


「あそこ、あの丘を登った赤い屋根が、アピちゃん家です」


「待って。Botが近いわ。ここで一旦待機しましょう」


 渚さんの指示で、家の影に隠れてから、建物づたいに、ジリジリと近づいて行ったんだけど。



「爆煙が来たら、その場で姿勢を低くして。下手に動くとはぐれちゃうから」




 そう彼女が言っていたのに。








 はぐれてしまった。





 砂煙の中を少し動いただけなのに。あと少しでアピちゃんの家だと思ったら勝手に足が進んでしまった。

 今、わたしの目の前にはアピちゃんの家の玄関ドアがある。


 まわりは、――砂塵で見えない。


 わたしは、何かに突き動かさせるようにドアを開けると、家に入った。




 この村の家はおおよそレンガか木造で、コテージのような作りだ。入るとすぐに8畳くらいの部屋、テーブルと椅子、ソファと暖炉がある。わたしは、その暖炉のある部屋を抜け、お母さんが臥せっていた奥の部屋を目指そうとした。









 その時。





「動くな。振り返らずに、両手を机に置け」





 わたしの全身から冷たい汗が出た。男の声だった。






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