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第38話 露天風呂Ⅰ①

 




 ふたりの軍人にあった帰り道、僕は滝知山さんの言葉を思い出していた。




「オイ、待て小僧」


 僕は呼び止められていた。滝知山さん達の食事が終わり、村の人が片付けをしようとしている時だった。


 愛依(えい)達3人も、それを手伝っていた。日金(ひがね)さんは、用足しに出ていっている。


「で、お前か、DMT(ディアメーテル)乗ってんのは。ホントに女と小僧ひとりでやってんのか?」


「はい」


「DMTは何持ってきてんだ」


「モニタ製の中型(ケントロン)です」


「中型だあ!? 中型って、あ~~」


 滝知山さんは大仰に仰け反った。


「それじゃあ頭数に入らねえな。楽できるかと思ったのによ。ま、中学生をアテにしちゃあいかんか。オイ、小僧。大型DMT見たらすぐ逃げるんだぞ。敵も相手にはしねえとは思うがな。敵うワケがねえからな」


「はい、一応大型BOTとは遭遇したんで、わかるつもりです」


「そおいうのが良くねえんだよ。大型BOTと大型DMTを一緒にすんな。大型DMTが1機あれば、大型BOTなんて何機でも狩れるんだかんな」


「すみません」


 滝知山さんは、がっはっは! と豪快に笑って、でっかいジョッキに入った酒をあおった。



 そして。



「人を殺す時は、躊躇すんなよ。今の内に、後ろの女共とでも子作りしとけや」



 この台詞を言った。


 僕は慌てて後ろを振り返る。愛依達に聞こえていないかと思ったからだ。


 さいわい片付けの真っ最中で、大丈夫なようだった。


「絋国男子たるもの。軍人となり国防に努める事。で、戦死しちまう前に子種をくれてやる事。上手くいけば男が生まれてくるかもだからな。でねえと国が滅びる。がっはっはっは!!」


 滝知山さんは豪快に笑った。愛依達に聞こえなくて良かったよ。


 艦に戻ってから気まずくなったらイヤだからね。




 ***




 それから、僕はDMTに乗って帰艦した。


 渚さんが、滝知山さん達がラポルトに向かうので、僕が日金さんの言う通り先行して子恋さんに来訪を伝えてくれって。それで滝知山さん達とポイントで落ち合う役も頼まれた。


 国の通信網が回復してくれないと、こういう時本当に不便だ。


 渚さんは資材調達でまだ村長さんと交渉しなきゃいけなかったし、愛依は、アピちゃんがまだ心配だから、と、村に泊まる決断をした。折越さんはそのふたりの警護だ。


 女子達は村長さんの家に泊めてもらうそうだ。来客用の空き家は、あの軍人ふたりが占領してしまっていたからね。


 愛依と渚さんがお風呂に入りた~い! と言っているのを、折越さんが笑って見てた。明日になればいい事あるよ、みたいな事を言いながら。


暖斗(はると)くん、またね。後遺症候群はないと思うけど、医務室で一応データ取ってね」


 愛依はそう言ってにっこりと微笑んでいた。





 愛依の屈託の無い笑顔――、これがこの別れの後、しばらく見れなくなってしまうとは、この時は思いもしなかった。




 ***




 翌日、わたしたちは村長さんの家で目が覚めた。

 昨日の夜にクルーザーから着替えを持って来てたから、それに着替えようとすると。


「愛依ちゃあん。待って。着替えるのは後よ後」


 折越さんに止められた。そのまま最低限の身支度をして、村のヘルシーな朝食をいただいた。


 すると。


「じゃあ、着替え持って行こ」


 折越さんが、わたしと渚さん、ふたりの手を持って引っぱる。


 どこへ――? と聞こうとしたら、その行き先を村の人がこっそり教えてくれた。




 ***




「けっこう山道だね」


「だからぁ、夜は入れないんだって。危ないから」


「そういえば、艦のPCにもこの情報はあったのに、すっかり忘れてたわ」


 女子3人で村の最奥部、切り立った小高い山の、割と傾斜のついた山道を、登る。


 村の「お年頃組」の女の子たちが案内してくれて。彼女たちとは年が近いから、友達になれそうな感じかな。


 山道は、左巻きに緩やかにカーブしていって、村の反対側に出る。坂はキツイけれど、道はわりと平坦だった。

 村の女性も毎日行くんだから、踏みならされてるよね。




「わあああ!」


 わたしは、歓声を上げていた。


 木々が生い茂る山道を登りきると、急に視界が開けた。


 目の前には、滝と、それを受け止める大きな湯舟。

 天然の露天風呂だ。

 そして眼下の絶景。


 村の裏山は、荒野を上から見渡す天然温泉だった。



 湯舟は、階段状に4つある。滝のお湯が順番に流れ込むしくみになっていて、湯舟は朝日を反射して、水面がキラキラ輝いていた。



 手前に平らな場所が少しあって、そこが荷物置き場と脱衣場になっている。見れば、村の女の人が何人かもう来ていたんだよね。


 折越さんが得意げに解説する。


「この村の女の人は、お風呂は朝入るんだって。夜は危ないし、それが習慣だからぁ」


 わたしは、いくつもできた湯舟に興味がわいた。


「これは、鍾乳石みたいなものかな? それとも湯ノ花? 上から流れて来る温泉が、長い年月で作ったのかな? 大自然の造形美だね」


「すごいわね。シャワーの水をケチってるラポルトのみんなと、いつか是非に来たいわね」


 渚さんも上機嫌だった。




 ここへ案内してくれた女子たちが、スルスルと服を脱いで、身体を洗ったり湯舟に入ったりしだした。わたしは、その様子にちょっと違和感を感じた。


「ちょ、ちょっと待って。この露天風呂、前立てとか目隠しが無いよ。こんなに遠くまで見渡せる絶景がある、って事は、向こうの山々からもこっちが丸見え、ってことだよ? いいの?」


「愛依ちゃん。それがいいんじゃないの。暖斗くんも帰ったし、滝知山さん達はもう艦に向かったし、今ここにいるのは女子だけよぉ」


 そう言うと、彼女は着衣をばあっ、藤編みのカゴに投げ入れて、文字通りの素っ裸になった。渚さんも同様だ。



「うう‥‥」



 わたしは内心後ずさりする。


 だって。


 折越さんは、艦の憲兵をやるだけあって、何か格闘技を修めているって聞いたよ。そのとおり、ムキムキ、ではないけれど、ものすごく引き締まったウエストをしている。なのに、暖斗くんを惑わすくらいに、適切な部位に適切なお肉が乗っている。なんかズルイ。


 あれ? 渚さんもそうだ。折越さんほどのボリュームはないけれど、引き締まったおんなじ系統のボディだ。


 製造デッキの3Dプリンターの三次元スキャナーではないけれど、わたしの視認するところでは、折越さんがHカップ、渚さんがDカップ。



 しまった。あの15人の女子の中でスタイルがいいツートップと同行してしまった。

 しかも露天風呂イベントとは。



「どうしたのぉ。愛依ちゃん。タオルなんか巻いて」


「そうよ? 女耳村(じょじそん)ならでは。気にする事ないのに」


 ふたりは裸のまま洗い場へ歩き出した。前も隠さずに。


 わたしはここで、男子諸君に強く訴求したい。


 一部の女子は、男子の目がないと、ものすごく開けっぴろげだということを。



「わたしはいいです。なにか、遠くの山々から見られてるみたいな気がするので」


 そう言って、厳重にタオルを巻いて入浴した。村の人のOKもいただいて。


 思春期の子で、恥ずかしがってそうする子もいるから。源泉かけ流しで、滝ができるほどの湯量なのでまったく気にしないよ、と。


「なんか、配信動画の撮影みたいねえ」


 と、折越さんは笑ったけれど、わたしのぷにぷにボディは封印よ。




 湯舟に浸かって、あらためて風景を見た。荒野と所々の木々、登る朝日と地平線。心地いい湯気と肺に染み渡る清涼な空気。みなと市では見れない絶景だよ。


 あ、でも確かに、これだけ野趣あふれると、暗くなってからの帰り道が心配ね。ちょっとこわいかも。


 景色も見れるし、この村の人たちが朝風呂の習慣になったのも、確かに納得だわ。





「滝知山陸曹長の下のお名前って、確か『英雄(ひでお)』よね」


「はあ~。名前の通り戦争で活躍して、『英雄(えいゆう)』になったんだあ。じゃ、『英雄(えいゆう)さん』で、いいんじゃなあい?」


「でもうっかり本人の前でそう呼んじゃったら、すっごい怒りそう」


 お風呂に入りながら、なぜかわたしたち3人は、滝知山さんの呼び方を検討していた。まるでカンファレンスみたいに。まあ、「たきちやまさん」、って、ちょっと呼びにくいからなんだけど。


 で、結局、滝知山さんは「えいゆうさん」、日金さんは「付き人さん」、と命名が決まったよ。なんかちょっと日金さんはとばっちりだね。


 そのまま、お風呂から出て、3人で元の山道を降りていく。


 行きで道案内をしてくれた子たちは、もうとっくに上がっていたから、ちょうど同時に出た村の女の人についていった。まあ、迷うような道ではないのだけれど。


 わたしの前を歩くふたりは、Tシャツ姿。わたしは‥‥‥。


「逢初さん。ちょっとそのカッコ」


 渚さんにたしなめれちゃった。


「へへ~。わたし、お風呂上がりはこのカッコじゃないとダメなんです。真冬でも」



「愛依ちゃんセクシー。でもサービスショットはほどほどによぉ」


 折越さんにそう言われたら、「おまゆう?」と返したいところだけど、確かにそう。


 わたしは今、下は制服のプリーツスカート、上半身は水色に白いフリルのキャミソール1枚なのだ。



 昔から、お風呂上がりは必ずこう! 下着とかを着けるのがイヤ。



 ‥‥でも、ふたりが言いたいことは自分でもわかってる。



 このキャミは防御力が低い。それもかな~り。



「しもむら」で買ったキャミを着古しているから、もうくたくたなんだよね。体験乗艦をするにあたり、お気に入りでなおかつ着古してないものをチョイスしたつもりだけど、それでもこれだから。


 たぶん、横からか、上から覗きこまれるとアウト! かな~り見えてしまうかも。



「ったく。露天風呂であれだけ貞淑なそぶりだったのに、意外な一面だわ。くれぐれも英雄(えいゆう)さん達とそのカッコで鉢合わせしちゃだめよ?」


「は~~い」


 わたしは、着替えや制服を入れたトートバッグをふりまわしながら、そう返事をした。


 山道を軽い足取りで下りていくから、前を行くふたりには敵わないわたしの胸も、くたくたキャミソールの内側で、それなりに踊った。





 見えそうなキャミソール、軽率な行動。運命。


 このあと、わたしの行動すべてが裏目にでる。そして、その先には。





 望まない邂逅と、屈辱がわたしを待っていた。






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