第37話 英雄②
村長の家から、少し歩いた所に、その家屋はあった。
一家4人が住めそうな、普通の大きさの木造の家。
聞けば、昼間暖斗達が接待を受けた大広間は、村の公民館みたいな建物だったらしい。
そしてここは、空き家を客人の宿泊用に使っている家だそうだ。
「失礼致します」
渚を先頭に、村長にいざなわれて家屋に入っていく。12畳くらいの部屋があり、その最奥部には何人かの村の女性と、ふたりの男性が座っていた。
奥の大柄の男性が、大きなガラガラの声で、手招きをする。
「おう。お前らか。こっちだ。まあ座れ」
近づくにつれて見えてきたのは、ボサボサの髪を総髪に撫で付け、白髪交じりの髭をたくわえた、熊のような筋骨隆々の男と、その隣で大人しく座っている細身の男だった。
熊男が野太い声で言う。
「先に所属を聞いとくか」
「「所属?」」
暖斗、愛依、折越は戸惑う中、渚が即答した。
「申し訳ございません。所属はございません」
その言葉に、熊男は顔をしかめた。本当に、山奥の洞窟から出てきた熊の様な野性的な容貌だ。
「は? ネエちゃん何言ってんだ。DMTで乗り付けて、無所属とはどういうこった。あのDMTは民間機ってか」
「すみません。ここには村の方々が‥‥‥‥」
渚は大袈裟なそぶりでそう、小声で言う。
「ああ、そうかそうか。オイ! 女どもは散れぇや」
熊男がそういうと、給仕をしていた数人の女性たちは、そそくさと出ていった。
「実は、私共は、第054区域みなと軍港の中学生なんです」
「んあ? その作戦区域だと‥‥」
「はたやま県ですね。みなと市の軍港ですよ。確か海軍工科の系列校があります」
傍らの細身の男が答えた。まなじりの下がった人の好さそうな笑顔だ。
「そっか。おめえは工兵あがりだったな?」
「そうです。自分は工科中等出身なんだ。他県だけどね」
熊男に返事をしながら、細身の男は渚達に目配せした。
「で、何で中坊がDMT駆ってんだ。この国の人材難も、とうとうそこまで来たか」
「はい。左様です。小職らはみなと軍港にてヤサ級戦艦に乗艦。体験航行中でした。2日後に本部運営からの通信が途絶え、随伴艦も別任務で離脱しました。現在は下命に従い、艦態維持を目的として付近を掃空任務中です。そのタスク内でこの村の子供を発見保護したので、小職以下4名が護送致した次第です」
熊男は、髭をなでながら。
「‥‥村のガキって、お前らもガキじゃねえかよ。子供が子供を保護して、護送したってか。なんだそりゃ。うわっは! うわっはっはっは!!」
熊男が笑う。愛依は思わず耳をかばった。
そのくらいの大音声だった。
そして、ジョッキに注がれた透明の液体をどばどばと喉に流し込んでいく。酒だろう。
「あ、もしかして、みなと軍港で竣工した最新鋭艦の、素人の子供を乗せてあげるヤツ。君たちがそのメンバーなのかな?」
「なんだおめえ。知ってんなら早く言えよ」
「あ~すんません。たしか海軍の広報で。極小員数で戦える戦艦だっていう内外アピールと、地元への好感度アップ、軍志願者をあてこんだ企画ですよ。この子達みたいな本物の中学生を乗せて、本当に航行をさせるっていう」
「はっ! そりゃ筋金入りで酔狂だな。人材難なのは広報の奴らか。いかれた企画しやがって。中学生だぁ? 何ならそのまま前線に放り込んでみろってんだ」
熊男はまた、がっはっは! と大口で笑った。
***
「じゃあ君達は、随伴艦も無く、本当に子供だけで運航を? だって、本部運営とは連絡も取れないし、ネットも回復しないだろうに」
細身の男は、後ろの3人にも笑顔を向けながら、気さくに渚に話しかける。
「はい。それで、この村の子供を拾ったので、取りあえず送ろうかと」
「そうか。君達も大変な時に艦に乗ったね。実は我々も本部と連絡が取れず、ここで国境監視を取りあえず続けている次第だ。一向に回復する気配が無いから、そろそろ次の手を打たなきゃならないね」
そう告げると、まだ笑っている熊男を揺さぶった。
「上長。上長。笑ってないで、我々も名乗りましょうよ」
「‥‥お、そうだな! コイツは俺の部下の日金。俺は滝知山英雄。陸曹長だ」
「あ、どうも」と暖斗が頭を下げようとした所で。
渚の踵が、パアン! と鳴った。
「国軍大学校附属中学みなと校! 戦術科二回生! 渚陽咲であります!」
見れば、直立不動で見事な敬礼をしている。
「陽咲ちゃん‥‥カッコイイ」
折越がポロッと言った。
「後ろの3名は、みなと市の中学生であるため、軍礼はご容赦願います!」
熊男、もとい滝知山が面倒くさそうに答えた。
「んなこたあ気にしねえよ。辺境まで来て堅苦しいのはよそうや。で、俺らの方はここを引き払って、アマリアの方まで行ってみようかって所だ。本当に通信が回復しないんだったら、一ぺん本部まで戻るしかねえかもな」
「そうですね。Botも出ないですし」
傍らの日金も相づちを打つ。
そこへ渚が言った。
「先日村の子を襲ったBotは、明らかに目的を持った動き、プログラミングされている様でした」
「なに!」
滝知山が身を乗り出す。
「そのBot‥‥撃破してんのか?」
「はい」
渚の返答に、軍人ふたりは顔を見合わせた。
「優秀だな。オイ。そんならよ。そっちの艦に乗せてもらってよ、現場連れてってくれや。そのBotの残骸調べねえとな。他国が放ったんなら、把握しとかにゃあいかん」
「じゃあ上長こうしましょう。今から我々のエアクルーザーで準備して、少し遅れて出立しましょう。その間にこの子が艦に戻って、艦の責任者の許可とって待ちあわせのポイントで落ち合う、と。それでいいかな? 君達」
***
「あの、滝知山さんってぇ、そんなに有名なの?」
ふたりの軍人さんとの挨拶を終え、4人は暗くなった村の夜道を歩く。折越がこう切り出し、渚が答えた。
「有名よ。10年前の「グラビトン・ウォーズ」の時に活躍したパイロットよ。特にぬばた市会戦の時は、無双だったのよ」
「なんかそんな感じしないわぁ。だってあのオジサン、ちなみをずっとジロジロ見てたし」
「‥‥英雄色を好む、って言葉もあるわ」
「やめてぇ逢初さん。やっと喋ったと思ったら」
そこで、暖斗が言う。
「でも、戦場に出た事がある本物の軍人に会えたってのは、いい経験になったよ」
愛依が、ぽつりと呟いた。
「本物の軍人、ということは、敵を殺したりとかもしたのかな?」
「‥‥‥‥DMT戦でパイロットが死亡する事は、今はほとんど無いわ。隔壁操縦席のおかげでね。でも、その後救出されなかったりしたら、難しい。滝知山さんは、そういうシビアな前線にずっといた人だから」
シビアな前線――暖斗は、滝知山にこっそり言われた言葉を思い出していた。
「操縦者の小僧。いい事教えてやる。へっ。人を殺す時は躊躇すんなよ。テメェが殺られんぞ? どれ。生きてる今の内に、後ろの女共とでも子作りしとけ」
※DMTパイロットを「ケラメウス」と呼んだりします。
※「はたやま県」「みなと市」「054戦区」にはすべて法則性アリ。
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