第35話 えいちゃん先生②
ガヤガヤと会話が続く医務室。
「やっほ~いベイビー! お、こんなに人いんの? じゃ、ウチ要らなくね?」
ドアが開いて、麻妃が入ってきた。
「愛依がヘルプ! って言うから来てみれば。人足りてんじゃん」
そうか。愛依のメールで来てくれたんだ。
「ちょうどよかった。麻妃。今みんなでこの旅の打ち上げ会の話してたんだよ。ウチでやろうと思うんだけど、また親に上手い事言っていてよ」
「‥‥‥‥いいけど。あんま気が乗らないなあ」
「なんでだよ」
「‥‥いいかい暖斗くん。いくらウチが『都合のいい幼馴染み』だからって、そんな何でもかんでもに使ったらいかんよね。それは自分で言いなよ。もしか暖斗くんの将来のヨメがこの15人の中にいるかもしれないんだから」
その言葉に浜さんの肩がビクッと揺れた。――気がしたけどよく見えなかった。
「‥‥言いづらいんだよ。俺が女子を連れてくるって言えば、親とか異母姉達が冷やかすに決まってんじゃん。麻妃なら昔から家に出入りしてるんだから、根回ししてよ」
「確かに、ぬっくん家の戸棚にまだウチの湯飲みとお茶碗あると思うけど」
その言葉に残り3人がざわついた。
「さ、さすが幼馴染み。お屋敷にそこまで食い込んでるとは」
「麻妃ね。自分ちの夕食のオカズが気に入らないとね、しれっとうちに食べに来てたんだよ。うちは大人数だから、麻妃の分取り分けても誰も気がつかない。普通に『あら~。麻妃ちゃんこんばんは』『いただきます。おばちゃん』って言って」
「き、岸尾さん。なかなかやるし」
「それは6歳くらいまでの話でしょうが」
と、そこへ、愛依が入ってきた。
「ああ、ありがとう。こんなに集まってくれて。誰かひとりで良かったのに」
と言う愛依の後ろから、ぞろぞろ人が入ってきた。
「へえ。医務室ってこうなってるのね。わたくし。初めてみたわ」
「センパイ。なんか混んでますよ」
「だったら練兵場いこっか。もしくは風呂」
泉さん、来宮さん、初島さん、だった。
愛依が、誰かヘルプ、と言ったので「じゃあ私が」と人が集まって来てしまったと。
そうだ。運動負荷心電図検査もまだだった。それクリアしてやっと退院だってのに!
しかし、さっきまで静かだった医務室が急に賑やかになった。あ、華やかって言ってもいいかな? ‥‥愛依の呼びかけでこれだけ女子が集まってくれた、という事に、ちょっとテンションが上がってしまった。
「暖斗くん‥‥何にやけてんの。キモイぞ」と麻妃にジト目でツッコまれた。
――こりゃ「梅園家での打ち上げ」、なんとか実現しないとな。
僕は麻妃のツッコミをスルーして、もう一回頼む。
岸尾「なんかメンバー16人しかいないこの戦艦で医務室にこんだけ集まるって、レアじゃね?」
暖斗「麻妃。さっきの話。なんとか頼むよ」
岸尾「だからね。未来のヨメを初めて家に呼ぶイベントかもしれないのに、そんな雑に他人任せでいいのか? というハナシだよ。誠意」
初島「なになに? 何の話?」
桃山「この旅の打ち上げを暖斗くんちでやってくれる相談です」
来宮「お~。マジっスか。それはアツい!」
泉 「で、なんでそんなお話にお嫁さんが関係するのかしら」
折越「それはぁ」
初島「ヨメって言えば、『おめかけさん』って言葉知ってる?」
折越「なにそれ」
来宮「知らないっス」
逢初「第二席妻の、古い言い方よね。ビフォーアサジタ時代の」
桃山「へええ。じゃあ第三席は?」
逢初「当時は一夫一妻制だから、第二席ですら『浮気、不倫』のくくりなの。だから呼び名はないよ」
泉 「さすが愛依さん。博学ね」
暖斗「あの~」
浜 「めんどくさ。そ、そんなんでイチイチ『浮気』だとか気にしたら、じ、女子はやってけないし」
逢初「う~ん。それは現代と当時は価値観とかが違うから‥‥」
桃山「でもさ、でもさ。結婚するなら第何席がいい?」
岸尾「ウチは気にしないなあ」
泉 「それはやっぱり第一席でしょ。『正妻枠』。旦那様を100%独占出来るのよ。まさに蜜月。第二席が来たら旦那様を半分取られちゃうのよ」
逢初「わたしも、第一席かな。結婚するなら、だけど」
暖斗「あの~。僕の質問が‥‥」
折越「ちなみはぁ、逆。第四席は、『ロマン枠』だもん。ヨメが4人居たからってダンナ様の愛情が4等分なワケないじゃん。ちなみはぁ、王子様の最後の恋のお相手、ロマン枠に幼な妻で入ってぇ、オイシイとこ全部持ってくわよ!」
岸尾「うへえ。えげつな。‥‥でも現実そうだったりするしなぁ」
桃山「私はやっぱり、第一席に憧れるかなあ。大恋愛して♡」
浜 「す、好きな人と結婚できるなら、な、何番目でもいいし」
来宮「じゃ、自分は空いてる第三席で。『影薄い枠』」
折越「椅子取りゲームじゃないし。ウケる」
泉 「いいえ。椅子取りゲームそのものだわ」
暖斗「‥‥‥‥」
岸尾「それなら第二席だって悪くないぜ☆ 『愛人枠』。第一席は、家柄とか家格とかうるさいけど、第二席が実はガチ恋の相手だ、ってよくあるじゃん? ここがイチバン美味しくね?」
浜 「な、なんかそんなドラマあったような?」
桃山「――あ、ホラ、第一席をお嬢に取られるんだけど、彼の本当の恋の相手は――ってヤツ!」
初島「親が見てた! 薄幸ヒロインが成り上がる――」
来宮「『オレの第二席になってくれ!~悪役令嬢の罠で第一席を追われた私ですが、彼の真の愛をゲットしたので第二席でもOKです。いまさら第一席に戻ってきてくれと言われてももう遅い~』っスね」
初島「アンタ、よくそんな長いタイトル憶えてたね‥‥」
来宮「余裕っス」
泉 「じゃあみなさん。さっき愛依さんが言ったみたいに、ビフォーアサジタ、サジタが蔓延する前の、一夫一妻制だったらどう? 今とどっちがいいかしら?」
折越「そりゃあ、花音ちゃん。今の方がいいでしょ? 好きな男子ができたとしてぇ、その人のオンリーワンにならないと結婚できないなんて。無理ゲーよ無理ゲー! ちなみゼッタイ無理ぃ!」
初島「そうよね。私も自信ないなあ」
来宮「センパイならきっと大丈夫っス。でもやっぱ4枠無いとキツイ。あった方が」
初島「ありがと。櫻」
逢初「ビフォーアサジタの時代だと、男女比は正常よ。男女同比率世界。前提条件を揃えないと、議論できないよ?」
一同「「イーブン・ワールド!!!」」
暖斗「‥‥‥‥」
桃山「わあ。イーブン・ワールドかあ。素敵♡」
折越「イケメンがひとり、イケメンがふたり‥‥‥‥」
逢初「男女同数だったら『重婚しろ』なんて国も言わないと思うけれども」
浜 「そ、想像できないし」
泉 「やっぱり、ビフォーアサジタ時代の一夫一妻制が、本当はいいのかしら?」
岸尾「親がもう重婚世代だから、ウチは気にしないなあ」
浜 「でもイケメンが何人いても、き、競争率が低くても、本当に好きな人と結婚できないと意味ないから、やっぱ4枠あったほうがいいし」
泉 「意外と一華さんて一途で堅実なのね」
仲谷「みなさん。お茶が入りましたよ」
桃山「あ~。仲谷さんナイス。でも何で?」
仲谷「医務室と厨房はつながってます。なんだか楽しそうな声が聞こえたもので」
桃山「ごめ~ん。こっちで盛り上がっちゃって。声かければ良かったね。ありがとね」
仲谷「いえ」
岸尾「‥‥‥‥で、ウチら何でここで駄弁ってんだっけ?」
逢初「さあ、なんでだっけ? でも何か楽しいからいいわ。‥‥‥‥あれ、暖斗くん。ベッドで寝ちゃってる。おなか出してると風邪ひきまちゅよ~」
逢初「‥‥‥‥」
岸尾「どした。愛依」
逢初「麻妃ちゃんは知ってるかな? わたしも驚いたんだけどね。暖斗くんの寝顔って、すっごく赤ちゃんぽいの。なんというか、ほら。見て」
一同「「どれどれ。‥‥‥‥ほほう」」
※女子同士の会話高速すぎて男子はついていけない説
同意の方☆を!




