第33話 拾う①
二度寝の後、7時に起床した。
なんか変な時間に一回起きたから、寝覚めが悪い感じだ。落ち着いて寝れたか、と訊かれれば、NOだし。
あんな事初めてだしね。
でもその割には一応ちゃんと寝れたのか、ああ、もうよくわかんないや。とにかく頭がボ~っとする。
もそもそと食堂に歩く。もう6人ほどの女子が先にいた。そういえば、愛依が僕の部屋に「一泊」した事は、もうバレたりとかはしてないよね。
ちょっとヒヤヒヤするなあ。
浜さんと桃山さんが先にいて、僕を見つけて寄ってきた。
「おはようございます」
まず桃山さんが声をかけてくる。彼女とは合同練習もしてるし、実戦でも連携してるから正直話しやすい。
浜さんは、この前初めてまともに話したばかりだ。ちょっとぶっきらぼうだけど、何か物事の核心をついた意見を言う感じだ。ふたりの様子はいつも通り。
――うん。昨夜の事はバレて無い。愛依は上手く自室に戻ったようだね。
「おはよう。いつもふたりだね」
「それはもう、私たちさいはて中コンビ。一心同体ですよ。ね。いちこ」
僕はトレーに盛られた今日の朝食メニューを見て考え込む。
「う~ん」
「どうしたんですか?」
「いやあ、この副菜で白飯が進むかなあ、と。海苔とかあったら欲しいなあ、と」
言いながら3人で席に着くと、浜さんが立ち上がって無言でどこかへ消えた。
「あれ、浜さん?」
「あ~。いちこは海苔を取りに行きましたよ。暖斗くんの為に。あの子、資材係なんで。どうです? 気が利くでしょう?」
「うん、そだね。ありがとう」
「お礼はあの子に言ってあげてくださいよ」
しばらく経ったが浜さんはまだ戻って来なかった。
「暖斗くんは、彼女さんとかいないんですか?」
唐突に訊かれた。昨日の件があったせいなんだろうか? あまり動揺しなかった。
「いないよ。中学生だし」
「欲しいとは思わないんですか? 中学生カップルだって、いますよね?」
「3年生とかだと結構いるよね。‥‥‥‥なんでそんな事訊くの?」
「いやー。他校とかで彼女できたら、テンション上がりません?」
「他校じゃなくても上がると思うけど、今はあんまり想像できないよ」
言いながら、ベッドに並んで座った、僕のとなりの誰かを想像してしまう。
「大人しくて、一途な子はどうですか? 暖斗くんにお似合いだと思うなあ」
「う~ん。賑やかな感じの人よりは、静かな子の方かな」
「でしょう?」
「あ、でも」
僕は思いついた事を能天気に口にする。
「ん?」
「桃山さんは、賑やかなタイプかもだけど、話が合うよね。合わせてくれてるのかな? すごく話しやすいよ」
「そ、そうですか‥‥‥‥。そういうつもりじゃないんですけど」
ここまで話した所で、浜さんが戻ってきた。
「海苔です」
「あ、ありがとう。あ、味海苔じゃ無いんだ。いや、これで大丈夫、ありがとう。浜さん」
3人で食事をしたけど、心なしか桃山さんは静かだった。
ビ~~~~~~!
そこへ警報が鳴った。Botの出現か。僕は残りの食事をお茶で流し込むと、パイロットスーツに着替えてデッキに急いだ。インカムから子恋さんの声がした。
「暖斗くん。敵、なんだけど、様子が変なの」
「変?」
「何かを探してるんじゃないかってAIが。Botの近くに目標物があって、私たちには向かって来ないかも」
「了解。むやみに戦闘、じゃ無いって事だね」
「食べたばかりで気持ち悪くならない?」
麻妃に心配された。
「状況。小型Botが3機なんだけど、何かウロウロしてんだよね。今まで無かった動き」
「じゃあ、隊列組んでないじゃん。僕の突撃で片が付くけれども? まさか手動制御?」
「それだと、ウチのドローンと同じで、近くから操縦してるって事になるよ」
「つまりこの近辺に敵性外国人がいると?」
「きっしょ! それはマジ勘弁だよ。怖すぎ」
「子恋さんにも言われた。AIの指示通りに、慎重に行くよ」
今回の戦場は、一面の岩場、荒野だった。
こんな所に何があるの? とツッコみたいが、障害物が無いから、戦いやすそうだ。
それは敵もだけど。
僕はDMTの反重力装置をONにして、ゆっくりと降下した。敢えて接敵せず、遠巻きにBotの様子を伺った。
「ホントに何か探してるみたいだ。僕に対して陣形組まないし。端から削ってこうか?」
「3機だしね。今シールド厚めにしといたから、他にエネ廻して一気に行きたいよね」
「あ、待って。暖斗くん。渚さんが偵知を先にって。予備のドローンも総出で情報取ってるから、とにかく待って」
僕のDMTは1回敵と距離を取った。
入れ替わりに3機のドローンが戦場に赴く。
麻妃の物と、初島さん、来宮さんが操縦する機体だ。
それぞれ遠巻きに3機のBotをマークする。
「読んだよ」
インカムにちょっと幼い感じの声が割り込んできた。紅葉ヶ丘さんだ。
「今、敵の小型Botの動きを逆算して行動推定できたよ。3機のBotは1つの目標物と鬼ごっこをしてる。いや、目標を見失ってるから、かくれんぼだ。その目標の来た方向と居場所を送るよ。人が操縦してる気配はない。Botは排除して」
僕のDMTにもデータが来た。地形MAPに、ピンが付いている。
続いて麻妃が。
「あとね、渚さん子恋さんが、今回は、掃空に能力使わないで欲しいって」
「そう? どしてだろ?」
「『この後』を想定してる。暖斗くんが寝込むとヤバいんでしょ。いいよ。『設定戦闘』試してみようよ。DMT運用中級編だ」
「OK。『設定戦闘MK抜き』ね。もうすぐシールド積層が100%になる。それで行こう」
僕はAIの指示通りの場所に移動した。確かに3機のBotは動きがバラバラで、こちらに背を向けている。
ここから突撃すれば、目標物とBotの間にくさびが打てる。
「了解。行くよ」
「じゃあ、暖斗くん。設定AからBへの移行を」
麻妃の指示を受け、僕は隔壁操縦席の最外部左右にある青いパネルに手を乗せる。
この青いパネルが「プロテシスパネル」。パイロットの脳波を読み取り、操縦桿やタッチパネルを介さずにDMTを動かすインターフェイスだ。
DMTの腕で物を掴むとか、そういう細かい作業には向いてるけど、パネルが読み込みしなかったりで、シビアな戦闘時向けではない。
今回は、麻妃が用意したエンジンのエネルギー配分テンプレを、僕が自分の判断で変えて戦う試みだよ。
今まで重力子エンジンが生み出すエネルギーは、シールドバリア、機動、回転槍で等分に振り分けてて、状況に応じて麻妃のドローンが変更してた。
それに僕のマジカルカレントが加わって戦ってたんだけど、今回は、
設定A: シールド重視
設定B: 機動重視
設定C: 攻撃重視
とテンプレを用意して、僕が切り替えてく作戦だ。
これが出来れば麻妃が、他のDMTのフォローに入れる。
戦場側のオペレーターはひとりしかいないし。
「暖斗くん。ちゃんと切り替わってる。OK。突撃を」
「うん」
僕はMAPの示す侵入角度からBotに急接近する。そこで、またプロテシスパネルを触る。
「設定C。サリッサ予備回転を開始」
「‥‥だめだ。読み込まなかったよ。ウチの方で変更する」
Botと近接した。
が、設定変更が遅れたんで、サリッサの回転が足りてない!
取りあえず槍を構えてBotを牽制する。
こんな時はマジカルカレントで無理やりエンジン回してしのいでたけど、使わない縛りだと不便だ。
左端のBotが撃ってきたのをギリギリ躱す。
躱しながらも近づいて初撃を当てた。
「お、暖斗くん。今の動き良かったぞ。他のBotはまだ何か探してる」
と、いうことは、囲まれる心配が無いという事だ。目の前に集中して。
ガツン!!
繰り出した槍先に手ごたえがあった。回転が増していくサリッサで、どんどん削っていく。
Botはたまに応射するくらいで、いい刺突がどんどん入る。いつもみたいに能力でのパワー増幅が無いけれど、確実にダメージを重ねて撃破した。
「次!」
最寄りのBotに近接した。やはり各自バラバラに動いててスキだらけだ。
前回が大型Bot戦だったから、小型のBotは凄く小さく感じる。
実際パワーも弱いし。
「何かいるよ。岩場のクレパスに」
初島さん操縦のドローンからだった。Bot達が探している「何か」をこちらも探していた所だ。
「私も確認します。位置移動します」
これは桃山さんの声。
狙撃手だから、望遠レンズも高性能のヤツだ。DMTで出撃してたのか。
僕はサリッサの狙いを定め、ビームを回避していた。
これをしのいで突撃する!
「ちょっと待った。暖斗くん」
麻妃の声がした。
「暖斗くんの近くの岩場に人がいる。人影だよ! 巻きこむからビームとサリッサ使わないで!」
は? なんでそこに人間? しかも!
え!? ビームとサリッサ禁止!? どうやって戦えと?




