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第28話 リベンジ②

 




 マジカルカレントで、重力子エンジンの出力を上げるべく、僕は意識を集中していく。


 2機の「手」を引き付けたまま、隔壁操縦席(ヒステリコス)で、深いひと呼吸。


 また、何時ものとおり、エンジン音の音色が変わっていく。ちょっと変な例えをすると、流行りの歌がサビに入ったような感じだ。

 曲調が変わってボルテージが上がっていく。




「うおおおお!!」


 回転数を上げて旭光を放つサリッサで、手負いの「手」に一撃を入れた。もともと初手と狙撃でダメージを受けてたほうだから、動きが鈍い。


 分厚い装甲を研削して、槍は内部を(えぐ)る。


 槍が貫通して内部機器が噴き出る。仕留めた!


 が、すかさず引き抜いてもう一方の「手」にもサリッサを向けた。




「‥‥ふうう。004番機、実損なし」

「コッチも大丈夫っス」



 初島(はつしま)さんと来宮(きのみや)さんの声がした。ふたりは今、狙撃手(スナイパー)である桃山(ももやま)さんのカバーに入っている。


 DMTでの移動が苦手な彼女を守る役割、渚さんの差配だ。

 そりゃ狙撃手が位置バレして動かないなら、応射されるのは仕方ない。



 ――でもそれで良しじゃない。敵の目を引いてそれを阻むのが、前衛の僕の役割だ。



「心配かけてごめんね。砲撃再開するよ。暖斗くん」


 桃山さんも無事か。よかった。




 大型BOT本体が突出してきたので、回避しながらビームの打ち合いになったけど、残りの「手」を桃山さんが止めてくれた。


 その隙に「手」にも致命の刺突を食らわせる。


「ナイス暖斗くん。後は本体Botだけだ。がんばれ!」


 麻妃(マッキ)の声を背に、大型BOTとの距離を詰めていく。



「待った! 大型の動きが変わった!」


 高速で機動をし始めた。僕は操縦桿を強く握って食らいついていく。


 マジカルカレントで強化されたエンジン出力で、僕のDMTの動きも強化されている。


「大型BOTのエンジン出力は大型DMTに準ずる。『手』が無くなった分思考のリソースを回避に回してるっぽいよ? 気をつけて。暖斗くん」



 お互い激しく動きながら、光弾が飛び交う。




「‥‥‥‥残心」


 4度、彼女の声がした。



 コ~~ン!


 しかし大型BOTは跳ねるように位置を変えると、有質量弾を避けてしまった。


「砲撃注意‥‥!」「「了解!!」」

 麻妃が言うのと同時だった。大型BOTは丘方向に振り向くと、ビームを斉射――。

 初島機と来宮機が弾かれたように反応して、桃山機の前に盾の壁を作る。



 ‥‥‥が、ビームは来ない。




 初島「‥‥‥‥あれ?」

 来宮「来ないっスね」

 桃山「暖斗くん!!」




 ズガガガガガ‥‥‥‥!!


 僕のDMTの回転槍(サリッサ)が、大型BOTの丸い腹に刺さっていた。



 その槍の先端、ドリル状の刃部から、幾条もの光の帯がたなびくように漏れ出ていた。


 回転が、暴力の色を帯びて雄叫びを上げる。まるで(はらわた)を抉るようにその装甲を削り取って行く。



手前(てめぇ)‥‥! 何してくれてんだよ? 2度も砲撃許したら、(オレ)の立場が無えだろうがよ‥‥!」



「あれ? 暖斗くん?」


 首をかしげる愛依の声が聞こえた。




 最大の機動を試みて、槍を外そうとする大型BOT。


 僕は、突撃(アサルト)をかまして追従。敵より早い槍でさらに深く突き刺す。


 そのまま岩場に押しこんで動きを止めると、DMTの自重(じじゅう)をかけて削り倒していく。



「ぬっくん!」


 唐突に敵がビームを放った。至近で喰らった僕はモニターが一瞬でホワイトアウト!

 森の木々が吹き飛ぶ中、白銀のDMTは微動だにしない。


 強固に積層されたシールドが、ビームを相殺していた。



麻妃(マッキ)‥‥?」


「うん‥‥‥。現在シールド残量52%。そのまま行っていいゼ☆」


 DMTの回転槍が悲鳴のような音を上げて、さらに回転数を上げていった。


 やがて、分厚いBOTの装甲を抜け、フレームの金属に刃部が当たる。

 ギリギリとした甲高い切削音に変わった。


 粉塵の白い煙が、火花と内部機器の黒煙に置き替わった。




 大型BOTのスリット――黒い溝に見えていたいくつかの光が、ゆっくりと消えていき、バチン、バチンと回路が短絡(ショート)して――――大型BOTは、完全に動きを止めた。





「作戦終了よ。みんなお疲れ様。‥‥暖斗くん。見事だったわ。気を付けて帰投してね」


 珍しく、インカムから渚さんの声がした。





「ふううう」


 僕は隔壁操縦席(ヒステリコス)で息を吐いた。


 勝った。


 何か、地に足が付かなくてフワフワしてた所で、やっと落ちつきを取り戻した心地だよ。


 モニターには、きれいな夕焼けが映し出されている。


 そっか。夕方出撃だったから、もうすぐ夜だ。夜間の着艦は何となくイヤだから、早く帰った方がいいよね。


 ‥‥‥‥あ、いや、不慣れな女の子達の方を優先するから、僕は最後か。


 戦艦までは、パイロット達と麻妃でインカムの会話を公開通話(チャット)にして、戦闘の総括、反省会をしながら帰った。


 っていっても、みんな緊張から解放されたせいか、テンションが高くて。


 まるで遠足のバスの中みたいだった。


 初島さんも来宮さんも桃山さんも、ついでに麻妃まで、僕の戦いぶりを褒めてくれた。




 僕自身は正直、テンパってたのかあんまり良く覚えて無いんだけど。


 まあ、女子にこんなに褒められるのは僕の人生ではレア体験だから、体中がなんかこそばゆいけどね。

 逐一誰がどんな事を言ったか、までは言わないよ。恥ずかしいからさ。


 そういうのは自慢みたいになっちゃうし。




「‥‥‥‥」


 なんか七道さんが、倒したBOTを回収させろって言ってるらしい。


 大型だから、装甲とフレームの金属がいっぱいあるハズだから、回収して再利用したいんだって。


 そんなこと出来るのか?


 そういえば戦艦ラポルトって当初の予定を大幅に過ぎて航海してるから、さすがにそろそろ色んな資材が切れてこないのかな? その辺どうなってるんだろ? それを解決するための回収、再利用って事か。


 結局、子恋さんが「それは明日にして」と言って許可したって。



 僕がもうすぐマジカルカレントの後遺症候群で動けなくなるから、ラボルトはこの空域に固定(フィックス)する事になる。その間にやって。ということらしい。


 まあ、僕はその間ずっと医務室だから、どっちみちこの件には関わり合いはないか。




 みんなとの会話がひと段落したときに、麻妃から個人回線(クローズ)で話しかけられた。


「大物を倒したんだから暖斗くん。何かいいことあるといいな」

「なんだよ。別にいいよ。倒すのがパイロットの役目なんだから」



「でも今からごほうびタイムか」


 愛依の顏が脳裏に浮かんだ。

 白セーラーに丈の短い白衣。その上をすべり落ちる黒い艶髪。


「‥‥‥あれはごほうびじゃあないよ。れっきとした治療行為だし身体動かなくなるし、どっちかというとバツゲームじゃん?」


「‥‥‥んん? あ~。いやいや暖斗くん。そういう意味じゃあないかもだよ? 必ずしもごほうびを貰うのがキミ、ではないということ」



 は? 何? ‥‥‥‥‥‥どゆこと?




 ***




 同刻、ブリッジ。


「紅葉ヶ丘学生。データ取った?」


 艦長席に座る子恋が、インカムで話しかける。個人回線のようだ。


「取れたよ。暫定値だけど、すごい数値が出た。特に最後のアサルトと、サリッサの回転」


「そう。暖斗くんのバイタルとは?」


「相関の可能性あり、だね。ただ、これは対照群(コントロール)が無いとなんとも。私達でバイアスかけるのはマズイよ。バイタルの細かい解析は、何か理由をつけて逢初さんに投げてしまおう。餅は餅屋だ」


「ああ、うん。それは私がやる。でも朗報だね」


 子恋は、腕を組んで前に伸ばした。





「これで私も、やっとこの旅を続ける目途がついてきたよ」





※ 目途とは?

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