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第23話 光の暴力①

 




麻妃(マッキ)。敵いる?」


「いや‥‥。消えたまんまだわ」




 やっと退院できた次の日の午後、僕はDMT(ディアメーテル)で出撃していた。


 今朝から移動を始めた戦艦(ラポルト)の、一瞬だけレーダーに反応があったのが1時間前。


 艦のAIが算定した「敵がいた確率」が70%、今は、その確率を0%にするために森を哨戒している。



「やっぱいないのかな?」


「いやいやいや。最悪のケースを想定して動かないと。渚さんが言うには、レーダーに反応した1機はワザとで、そいつを囮にして誘い込んでるかもだって」


「最近流行ってんの? 前回戦った8機編成と似た手口か‥‥」


「しかも、この敵をスルーしちゃうと、さらに前方のBotと挟み撃ちになるかもなんだって」


「あー。でもこれ。見つかるまでやるの? あんまり長くDMTに乗ってたら、また医務室送りだよ。せっかく退院したのに」


 僕はブツブツ文句を言いながら、麻妃が指し示す地点を順に調べてつぶしていった。


 正直あまりやる気が起きなかった。




「8時!」


 麻妃が叫ぶ。

 僕はすばやく左に振り向くと、後進して距離を取った。近くでレーダーに反応があったが、敵からの攻撃とかは無い。



「1機だよ。暖斗くん。けど、一応複数いる想定で」


「ホバリングだね。頼む」



 DMTの肩や腰、手足の各所が光り出した。浮遊装置(フローター)だ。重力子回路で反重力を生み出して、機体を軽くしたり浮かせたりする。


 今回は「囲まれる想定」を動きまわって回避して、隙があればBotを仕留めていく作戦だ。


 僕は、深呼吸をして集中力を高めた。


 マジカルカレント発動。


 エンジン音が高まって、浮遊装置(フローター)の光が増していく。脚部の接地感が消えて、水に浮いた様な感覚。あとは推進器だけで高速機動をする。



「いっそこのフローターだけで空とか飛べるんじゃない?」


 麻妃に聞いてみた。


「飛べるけどそんなに便利な物じゃないよ。DMTが転んだりしても浮かしてくれないからね。あくまで2本足で立ってる、縦の姿勢の範囲でしか機能しないからね」



 そうなんだよね。重力子回路って一度ある方向に重力加速度を発生させると、その向きを変えるには回路を一回オフにしてイチからやり直さなきゃならない。しかも立ち上がりが遅い。


 じゃあ、起動させた回路をクルクル動かして、欲しい方向に重力を生めば? ってなるんだけど、技術的に難しいみたいなんだって。麻妃のKRM(ケラモス)も重力子回路で浮いてるけど、細かい姿勢制御は推進器を使ってる。


 DMTの浮遊装置は、重力発生の方向が、「頭の方」限定で設定されてる。人型兵器だから二足歩行を想定してね。

 その分早く立ち上がって反重力が得られるんだけど、本当に「立った姿勢」方向にしか働かないから、要注意なんだよ。


 どんな方向にも一瞬で起動できる重力子回路が発明されたら、イノベーションだろうね。



「敵、距離1スタディオンのまま。動いてないと思う。あの茂みの向こうだね」


 麻妃が、僕のDMTのモニターにその茂みをマーキングした。予備回転をしていた回転槍(サリッサ)が、高速域に入った。


 僕は左手に長方形(ロングマチュア)大型盾(アスピダ)を、右手に長柄の回転槍(サリッサ)を構える。



「行くか!? 暖斗くん」


 麻妃の呼びかけに、無言で頷いた。



突撃(アサルト)!」



 モニターに置かれたマーキングに突っ込んでいく。



 1スタディオンは約180メートル。


 これは大型DMTのひと跳躍で、サリッサの切っ先が届く基準の間合いだけど、このDMTは中型だから敵Botまでは2歩跳躍する。




 森の木々を吹っ飛ばしながらマーキングに肉薄すると――いた! Botだ!



 小型のBotがビーム砲を乱射してきた。盾で受けながら左に旋回する。

 一回岩の後ろに回り込みながら、再度近接した。



 ギギッ!!



 槍の一撃を入れたが、手応えが軽い。


「暖斗くん。今の打ち込み、右足が滑ってる。フローターのせいで地面を噛んでないよ」


 やっぱり。


 マジカルカレントでフローターの出力が上がってるから、イメージよりも機体が浮いちゃってるんだ。


「フローターを少し抑えて、推進器にエネルギーを回すよ」


「わかった。もう一回近接する」



 僕はそう言いながら、彼女に感謝した。麻妃はいつも冷静で、的確に機体の管制をしてくれる。



 Botのビームは盾で受けた。さっきより機体が重くて、ビームを避けにくくなってたから。



 ガキン!!



 入った! 


 マジカルカレントで光を帯びたサリッサが、Botの芯を食い破る。光の回転がBotの装甲を削り、フレームの金属に触れて火花を散らす。



「ようし!」



 麻妃も歓声を上げた。僕は地面に落ちたBotから槍を引き抜く。


「麻妃。やっぱりサリッサ当てた時の感触が違ったよ。フローターで自重軽くしすぎるとやっぱり打ち込みも軽くな――」




 ゴガッ!!!




 視界が突然砂嵐になった。



「!?」



 視力が戻った僕の目には、モニター全部を覆う程の巨大な影が映し出されていた。そのモニターもビームの閃光で埋まっていく。



 ビ――――!!



 隔壁操縦席(ヒステリコス)に警報が鳴り響いた。




「ザ‥‥‥くん。3方向から‥ザ‥‥撃、シールド残わ‥‥」



「え? 敵?」



 一瞬何が起こったのか判らなかった。


 取りあえず全力で後進した。



 が、その時僕が見たものは、巨大な「手」だった。敵だ。


 僕のDMT程の大きさがある。表面はDMTやBotと同じ複合樹脂。手のひらと指があり、てのひらの部分にビーム砲の口径も見える。本当に「手」の形の兵器。



「手」はそれだけの存在で独りでフワフワと浮いていて、その後ろに腕や体は無い。指先の鋭い爪を突き立てて、吶喊(とっかん)して来た。


 それを辛うじて盾で防ぐと、右横からビームの直撃をモロに食らってしまった。


「手」は、右手と左手、左右に2機いた。左手の攻撃を受けた隙に、右手のビームを喰らった形だ。



「シールド積層(レイズ)ゼロ!」


 麻妃が叫んでいた。





「あ」



 僕は唖然としてしまった。

 さっきから、戦況の変化に脳が追いつかない――――!


 僕の頭上に現れたのは、中型Botの3倍はあろうかという大きさの丸い影。「手」の親機。


 大型BOT本体だった。小型Botをそのまま大きくしたような丸い球体、中央のスリットに、カメラの様な物が見える。




 僕と僕のDMTは、その巨大な影の下で、棒立ちしていた。


 もう一度、彼女が渾身の力で叫んでいた。





「ぬっくん逃げてえ――!!」






※DMTの操縦席は正式には隔壁操縦席(ヒステリコス)と称します。

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