第138話 突撃する赤ちゃんの物語Ⅷ ~異世界成分無添加Vr.~④
紘和60年 8月24日(土) 16:17
戦艦ラポルト、医務室。ゆめさんが居る個室の前。
「あ、暖斗くん。麻妃ちゃんと交代したの?」
「うん。麻妃に追い出された。『これから女子的なよもやま話があるんだから察しろよ。そういうトコだぞ?』って」
「ああ、まあうふふ。今回は‥‥ね。それで‥‥ちょっと提案があるんだけど?」
「提案?」
「うん。ゆめさんを元気づける、提案。暖斗くんメインでの」
「やるよ。あんなひめちゃん見たくないよ。ずっと泣いてて、可哀想で‥‥‥‥」
「あ、即答。ふふ。じゃあ説明するね。ゆめさんに、思いっきりやさしくしてあげて」
「ん? どゆこと?」
***
同日の夜。夕食と入浴後。
戦艦ラポルト、4Fの艦長室。の特大ベッド。
「いきなり『治験』? ってことは、ぬっくんDMT乗ったの? 掃空したの? いつの間に?」
「ま、まあ。うん」
「ゆめさん。うふふ。とにかくまた、三人で艦長室のベッドで川の字だから。こんな時にごめんね?」
「大丈夫。っていうか私こそごめんなさい。前衛役の私がこんなで。ぬっくんに負担かけちゃって」
「そんなの気にしたらダメだよひめちゃん。今はまず、ひめちゃんが休むことだよ」
「ご、ごめんなさい」
「まあまあ。とにかくもう休みましょ? うふふ」
「じゃあ僕が電気を」
「あっ! それはわたしが。暖斗くんは後遺症だから」
「そ、そうだった」
「そうでしょ。うふふ。じゃあ、おやすみなさい」
「う、うん。おやすみなさい」
「‥‥‥‥なにか‥‥違和感あるんだけど。‥‥なぜなぜな~に‥‥‥‥?」
(じゃあ、ここでわたしは抜けるね? あとはよろしく。暖斗くん)
(う、うん。わかったよ)
(ゆめさんに、うんと、う~~んとやさしくしてあげてね?)
(わかってるよ‥‥でも、いざそういう風にってのは‥‥)
(いいの。いつもの暖斗くんでいいの。あなたはとっても優しいんだから)
「ふう。これでお邪魔虫は消えます、っと。ゆめさん。暖斗くんとふたりで、良い夢を」
「‥‥‥‥『あなたはとっても、優しいんだから』‥‥‥‥か。こんなわたしが思わずそう言っちゃうくらいに、暖斗くんはやさしいのよね。そう。そうなのよ‥‥‥‥」
「なんだろう。人の恋愛に関わるって、なにかとっても不思議な感じ。‥‥さみしい? ‥‥のかな?」
「ううん。変なこと考えちゃだめ。暖斗くんは‥‥‥‥今ごろゆめさんと、仲良くしてるんだから」
「‥‥‥‥なんだろ。‥‥わたし‥‥お人良しなのかな‥‥‥‥」
***
「‥‥‥‥あれ? 愛依さんは?」
「あ、起きた? ト、トイレ、かな?」
「そう? あの‥‥‥‥ぬっくん」
「何?」
「ご、ごめんね。私が迂闊な行動したばかりに。ぬっくんにも、みんなにも迷惑かけて」
「そんなの! ひめちゃんを罠にかけたアイツ等が悪いんだよ! ひめちゃんが謝ったらダメだよ」
「ご、ごめんなさい」
「‥‥いや‥‥僕のほうこそごめんなさい‥‥。ひめちゃんを思わず‥‥咎めるような感じになっちゃって‥‥‥‥」
「ううん。ぬっくんに怒られるとね。なんかうれしい。‥‥‥‥『見捨てられてない』って実感‥‥できるから」
「『見捨てる』って‥‥そんな。‥‥疲れてない? ひめちゃん」
「‥‥うん‥‥疲れてるってのは、そうかもだよ」
「‥‥‥‥ぬっくん。私、こんな風にぬっくんの隣りで寝てていいのかな。こんな私で」
「こんな、って。どういうこと?」
「だって。私男の人に連れこまれたんだよ。もしかして、ぬっくんはもう私と話してくれないかと思ったもん」
「なんで? そんなことないよ」
「ううん。紘国じゃあそんなに珍しい話じゃないよ。ちょっと他の男子と遊んだりして、変な噂が立ったりしたらビッチ認定されて‥‥‥‥、捨てられた女の子の話っていっぱいあるんだよ。だって、男子からしたら他に女の子なんていくらでもいるんだもん。‥‥だから、私も‥‥‥‥もう‥‥‥‥ダメかと‥‥」
「そんなことない。‥‥あ‥‥ひめちゃん?」
「‥‥‥‥ぐす‥‥ひっく‥‥モデルなんかやらなきゃよかった‥‥って‥‥。ぬっくんの側にはもう、立てないんだって‥‥‥‥」
「ひめちゃん!」
「‥‥‥‥はぃ」
「おいで。ほら。もっとこっちに」
「だめだよ。これ以上行ったら肩がくっついちゃうよっ?」
「おいで」
「だめだめ」
「来なさい!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥はぃ」
「え? ぬっくん。やっぱり動けて‥‥? ‥‥‥‥ふぁ?」
「強引でごめんね?」
「ううん。‥‥大丈夫。‥‥ぬっくんの腕の中は、あったかい」
「そうだなあ。僕は」
「ひめちゃんがモデルをやるのは、賛成でも反対でもないけど」
「がんばってるひめちゃんの横顔見てるのは好きで、写真の中でまぶしい笑顔のひめちゃんは好きで、色んな雑誌とかに載りだしたのを知り合いに自慢できるのは、好きかな」
「‥‥‥‥うん」
「だから、無理してモデルを続けなくってもいいけど、いつも笑顔のひめちゃんでいてほしいな」
「うん」
「ああ、無理して笑顔でいて、って意味じゃないよ?」
「‥‥‥‥うん、わかってる。ぬっくん」
「何?」
「ぬっくんの胸板って、けっこう厚いんだね」
「一応パイロット枠だからね。筋肉つけろってさんざん言われたし。はは‥‥それでもギリギリなんだけど‥‥」
「それに、心臓の音がすごい」
「だって。それは‥‥‥‥女の子とこんなことするの、初めてだから」
「‥‥‥‥うれしい。ずっとこうしてたい」
「ひめちゃんだって。こんなに華奢だとは。見た目以上だよ。これ以上力を入れたら、骨が割れそうだ」
「いいよ。もっとして。私はぬっくんに壊されるなら、それはそれで本望だから」
「またそんなこと言って。じゃあ、ちょっと力だしちゃおうかな? よっと」
「わ。すごい力」
「よっと」
「あはは、痛い痛い」
「ふっふ。このへんにしとこうかな。今日のところは」
「え? もっと痛くてもいいよ?」
「‥‥え? いや‥‥これ以上は怖いよ‥‥」
「痛い。でもうれしい。ぬっくんにぎゅ~~ってしてもらえると『この腕の中の私が私のかたちなんだ』って実感できるから。安心するんだよ」
「よかった‥‥(よくわからないけど)」
「ところで」
「ん?」
「愛依さんは、いつトイレから戻ってくるのかな?」
「え? ‥‥‥‥ど、どうだろ?」
「もう大分時間経ってるよ。ねえ? ぬっくん?」
「あ‥‥え~~っと。‥‥ま、まあ。もう、戻ってこないかも、かな」
「あ、やっぱりだよ。‥‥‥‥うふふ」




