第138話 突撃する赤ちゃんの物語Ⅷ ~異世界成分無添加Vr.~③
ガンジス島のからこ市のファミレス。咲見さんと桃山さん。
に、近づく、逢初さん。
「あの、お取込み中ごめんね。ちょっと」
「あ、逢初さん。お取込みなんて。全然違うよ? 暖斗くんに食事のお礼言ってただけ」
「そう?」
「で、私に用事?」
「ううん。ふたりになんだけど。‥‥ゆめさんの姿が見えなくて‥‥医師用アプリのバイタルがおかしいの」
「おかしい?」
「うん。ゆめさんの心拍数とかが上がってて。診断アプリは『高いストレス状態』を示していて、わたしの所見もそうなの‥‥」
「なのに、店内には居ない」
「うん。バイタル情報が入ってくるから、遠くには行ってないと思うけど。市街だとラポルトみたいに居場所まではつかめないから」
「そっか。未だに通信網直ってないもんね」
「子恋さんにはもう連絡したよ。ラポルトの警護用ドローン呼んで、ゆめさんの居場所を探してくれるって」
「そっか。子恋さんと渚さんはどっかに出てるんだっけ」
「このカフェはみんな、ひと通り探したよぉ」
「あ、折越さん」
「でもゆめちゃんいないよぉ」
「やっぱり」
「でもちなみとか、女子が探してない場所があってぇ」
「え? あ、それってまさか」
「暖斗くん見に行って。ちなみも行くから!」
「男子トイレか。‥‥‥‥一般のほうには誰もいなかったよ」
「でも、多目的トイレが‥‥」
「ホントだ。使用中だ。‥‥店の人に相談しよう」
「防犯カメラ、店長さんがチェックしてくれた。ひめちゃんらしい人が入ろうとしてたって」
「入ろうと?」
「してた?」
「え? それで!?」
「‥‥そこに‥‥男性っぽい人が数人‥‥‥‥」
「‥‥‥‥え?」
「ひめちゃんを囲んで、店の外へ出てったみたい‥‥‥‥」
「なんだよそれ!」
「警護用ドローン来たよ」
「心配ね」
「あ、子恋さんと渚さん。戻って来たんだ」
「うん。で、ドローンが来たからローカルで通信網が回復するよ。‥‥逢初さん?」
「うん、周辺MAP出た。‥‥あ、いた! まだ近くよ。近くの公園の公衆トイレ!」
「すぐ行こう」
「待ってぇ暖斗くん。ちなみも行く」
「みんなにも知らせる!」
その、近くの公園トイレまで移動します。
ドンドンドン!
「ここで間違いないよなっ! 愛依」
「うん。少なくともゆめさんの軍用スマホはそこに」
「すみませんっ! 誰か入っていますかっ!」
ドンドンドン!
「私は紘国海軍の者です。この中に海軍の関係者がいるのは位置情報でわかっています。開けないと、面倒なことになりますが?」
「子恋さんナイス!」
「姫の沢さん! ‥‥あっ‥‥やっぱり!」
「‥‥なんで多目的トイレに、男子が何人もいるんですかっ!?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥ちっ! バレたか」
「答えろよ! ここでひめちゃんにっ! 何してたんだよ!」
「‥‥‥‥ぬっくん?」
「んん? な、なんだお前! 海軍じゃないよなッ!」
「ガキじゃね~か。よく見たら」
「ちっ。騙したのか!」
「このガキ追い出せ! もっかいドア閉めろっ!」
「やめろ! ひめちゃんを放せ!」
「男ひとりに後は女だけだ。ブチのめせ!」
「ぬっくんっ!?」
「はあぁ~~いお兄さんがたぁ~~」
「ぐぇっ!」
「痛てっ! ‥‥‥‥この女」
「ちなみにちなみは憲兵よ‥‥! ラポルトの乗員に加害するお兄さんは船外でも! 正当防衛成立! この正義のヒロイン、憲兵ちなみちゃんがお相手するわよぉ!」
「さっさとやれ折越! 能書きはいい!」
「言われなくてもやるしいぃ!」
「何言って‥‥‥‥ぐぁっ!」
「ぎゃあぁ」
「おお。うちの憲兵サマは最強だゼ☆ そして‥‥‥‥無事で良かった。‥‥‥‥ひめっち」
「まきっち~~。‥‥わ‥‥私」
「ひめちゃん! 大丈夫!?」
「ぬ、ぬっくん‥‥‥‥ふえええええん」
「もう大丈夫だからね。大丈夫」
「災難だったなひめっち。‥‥まあ‥‥間に合ったみたいで、良かったゼ☆」
***
「こほん。子恋です。事件の顛末を説明するよ。姫の沢さんを略取したのは地元の男子学生四人。ひとりが『モデル 咲見ひめ』のファンだった。彼らはあのファミレスの常連。咲見ひめそっくりの人物が食事をしているのを見つけて驚いたが、中のひとりが一計を案じた。
咲見ひめ、つまり姫の沢さんがトイレに行くのを見計らって、飲食店のトイレを全部『清掃中』にしたんだ。それは共犯の店のバイト君がやった。そして、咲見ひめに声をかける‥‥‥‥ああ、ややこしいから姫の沢さんで統一しよう。‥‥で、『ここのトイレは当分ダメですが、隣の公園の大きなトイレなら空いてますよ』と。
姫の沢さんがそこに向かう。カフェの会計はもう男気暖斗くんが清算していたからね。で、後をこっそり追いかけたその主犯たちが、ドアを閉めさせずに割り込んだワケだ。まあ端的に言って、姫の沢さんは驚いたしショックだったろうね。
そこで彼らは、『本物の咲見ひめか?』問い詰めたらしい。姫の沢さんは普段、芸能活動をする時は事務所の人やいわゆるマネージャーさんが随行してるんだけど、さすがに今はね。密室で男性に囲まれて、不測の事態もというところだった。‥‥いや、本当に間に合って良かったよ‥‥」
「じゃあ、ひめっちは、本当の意味で色々無事だった、ってことでオッケー?」
「麻妃ちゃん。それはわたしが答えるよ。えっとね。ラポルトの色んな検査機器でゆめさんの‥‥身体を‥‥医学的な見地で調べました。結果はシロ。特に外的要因での擦過傷などの外傷無し。あの男性から身体を触られたなどの一時的接触は皆無みたい。えっと、トイレに入る時とかに背中くらいは押されてるとは思うけど。逆に言ってもそれくらいかな。‥‥精神的な影響については‥‥わたしも専門外だから確定的な言及はできないし、診断もつけられないけど。とりあえずショック状態ではあるけれど、例えば敵国の人間によって催眠や教唆が成されたとは考えにくい状況、でした」
「ふ~ん」
「だから岸尾さん。君が危惧するような『一旦スパイと見做して抑留する』ことは、このラポルトに於いてはしないつもりだよ。うん。少なくとも私はね。女子全員でとったアンケートでは、ひとり君だけが『姫の沢ゆめ、スパイの可能性を危惧して一時的な拘束の必要、アリ』に一票入れてたけど」
「麻妃ちゃんは、身内に敢えて厳しく接することで、そういう態度を周りに示すことで、逆にゆめさんを救おうとしてるんでしょ? でも大丈夫。このラポルトには、我が身可愛さだけで判断や態度を過剰にする人はいないわ。ゆめさんは無事だった。万が一にも洗脳されていて、ラポルトに危害を加える可能性は僅少。‥‥ということだから。彼女のところに早く行ってあげて‥‥」
「へいへ~~い。まあみんなイイ仲間ってことで。ひめにはウチから『知らない人の言で不用意に動くな』とは言っとくけど」
「そんな。言うにしても、もっと後で、ゆめさんが落ち着いてからでいいからね。こんなことは、誰の身にも起こりえることなんだから」
「へいへ~~い」
「と、いうわけで、うん。緊急女子会(議)はこれにて解散。インカムの人もお疲れ様‥‥‥‥ん? 逢初さん何か?」
「うん。‥‥‥‥子恋さん。そのゆめさんのことで、わたしにちょっと提案があるんだけど。いいかな?」
「うん? 何か名案かな?」
「そんな。ただ、ゆめさんのために、彼女が今一番望むことを」




